2-1 社長、脱獄を決意する
「ケータさん! 無事だったんっすね!」
監房に戻るとオイラーが心配そうに駆け寄ってきた。
心配そうに……なんて表現は失礼だな。心から心配してくれていたのが伝わってくる。無用な心配をかけてしまった。
「すまん。ちょっとナンパしてて」
「もうこんな時に冗談なんてやめてください! 怒りますよ!」
「いや、マジで」
「……え、本気で言ってるんですか?」
「うん。研修できている医大生の女の子と」
「可愛かったですか?」
「めっちゃ可愛い」
「自分がこんなにも心配していたっていうのに、ケータさんは女性とイチャコラしてたわけですか! もう完全に怒りました!」
「冗談でも、冗談じゃなくても怒るやん……」
それから一時間くらいオイラーの説教を受けることになった。
完全に俺が悪いので何一つ文句がない。ぐうの音もでない。
「もう、あれだけ言ったのによく所長に反抗するようなことができますよね」
「それはホントごめんって」
「生きてたのが奇跡ですよ! でも生きていたからって安心はできません。ケータさんおそらく目をつけられてしまったと思います」
「ま、大丈夫だろ。きっと二週間後にはこんな場所からはおさらばしてるさ」
「確かにケータさんの『能力をコピーする能力』は強力ですけど……」
そう、俺には対象の能力をコピーし使用できる能力があった。
つまり目で確認したすべての能力を使うことができるのだ。ただ、この能力の制約などはまだわからないことも多く、引き続き確認作業は継続する必要がある。
「もちろん、俺の能力だけではダメだ。それに俺はオイラーと二人で脱出する気はない」
「え、自分を置いとくってことですか!?」
「違う違う。どうせ脱出するなら全員で脱出したいんだ」
「全員って?」
「決まっているだろ。ここにいる囚人全員だよ」
「え!? そんなの聞いてないです! 絶対無理ですよ!」
オイラーは声を荒げながら、俺の目的を夢物語だと諭してくる。
だが、それで諦める俺ではない。
「無理じゃない。どうしたら出来るかを考えろ。目的は高く高く設定するんだ。じゃないと最低限の目的すら達成することはできない」
初めから二位になりたいと考えているやつが、二位になれるわけがない。
常に上を目指す。そうすることで道を切り開いてきたのだ。周りに絶対無理だと後ろ指を指されながらも、会社を作り上げ社長になることができた。
「そうは言っても……この収容所には子供や老人の囚人だっているんですよ? さすがのケータさんでも無謀ですって」
「……なぁ、オイラー。俺たちのゴールってなんだ?」
「それはここから出ることですよね」
「違う。それは手段だ。大事なのはここから出て何をするかだろ。俺はな、オイラー。ここを出たら会社……いや、国を作りたいんだよ」
俺が人生を捧げたかった国、日本にはもうおそらく戻れないだろう。
ならこの世界で生きていくしかない。だがこの世界は、俺がいた世界とは違って政治や法がまだまだ未熟だ。とても法治国家とは言い難い。
この世界で暮らしてく上で、安全な場所を手に入れるのは必須条件だ。
だから、ここを出たらすることは一つ。俺の手によって国を作り出すこと。
「く、国ですか」
「ははは、呆れただろう。けどさ、見てみたくないか? 俺とオイラーで国を作るんだぜ? そこには可愛い女の子がたくさんいて。大人も子供もみんな笑ってるんだ。そんな場所を俺とオイラーで作れたら最高じゃないか? だから、そのためにここで全員を逃すことは重要だ。ここの脱出者が最初の国民になる」
そう、それが一番の目的だった。二人で出てコソコソと暮らしていくより、大人数で脱出した方が組織をすぐに作ることができる。決して感情だけで動いているわけではなく、そういった打算もあった。
「……そうでした。自分はケータさんを信じるってそう決めたんでした。毒を食らわば皿まで。どこまでもついていきますよ!」
「ありがとうな。ただ俺が間違ってると思ったら言ってくれ。所長の件も軽率だった。これからも俺の暴走をうまく止めてくれ」
「それ、めちゃくちゃ荷が重いですけど!」
——ここまで大言壮語を吐いたんだ。絶対にやる。やり遂げる。
腹を括った。ここからとにかく全力を尽くす。
「それでオイラー。どうすれば脱出仲間を集められると思う?」
「……全員を脱出させるとなると、どうしても避けられない人物がいます」
「現場監督のロブナードか」
「はい。ロブナードさんを説得しない以上、全員で脱出するというのは難しいでしょう。ただ、ロブナードさんは超保守派。看守に逆らうようなことを嫌っています」
「なるほど。とにかく話してみないことには仕方がないな。労働時間が終わったら、ロブナードに声をかけてみるか」
今まで熱意だけで人を動かしてきた。
この時も、自分のパッションを伝えればなんとかなる……そう思っていた。