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3-1 社長、準備を始める

「あんな痛くても人って死なないんだな……」


 あの拷問の翌日。あんなことがあったというのに、いつものように朝が来た。まだ爪の裏がズキズキと痛む。しばらくは指を動かすのも億劫になりそうだ。

 でも、たしかに俺はあの拷問に耐え抜いた。それだけは自分を誇りたい。


「…………まさか、一○本耐えきるなんて。まったく興ざめです」


 ゴブレットが最後に見せた悔しそうな顔。あれを見ることができたのが救いだった。

 それから監房に戻るとオイラーが大騒ぎして、エルシィに見てもらえと進言してくれたが、寝てれば治ると一蹴し、こうしての今日の朝を迎えている。

 こんな傷をエルシィに見せられるわけがない。優しい子だ。きっと傷を見ただけで、俺以上に痛みを感じてしまうんじゃないだろうか。

 それに男の意地もある。そう何度も何度も女の子に頼るわけにもいかない。


「ケータさん、大丈夫ですか……?」

「おはよう、オイラー。昨日はすまなかったな。まぁ、痛くもかゆくもないと言ったら嘘になるけど、なんとか耐えられそうなレベルではあるよ」


 俺が起きたことに気がついてオイラーが声をかけてくる。明らかに沈んだ表情。今回のことを自分ごとのように感じてくれているのかもしれない。


「こんなの人間がやることじゃないすっよ……!」

「まったくだよ。ま、普通に生きてればこんな経験はできないわけだし、ある意味では貴重な経験なのかもしれないぜ?」

「どこまでポジティブなんすか! 当のケータさんがそんなじゃ、自分がどうこう言えなくなるじゃないっすか」

「悪い悪い。オイラーがそうやって心配してくれてるから、俺も気が済んでいるところもあるからな。マジでありがとうな」


 オイラーがそんな風に思ってくれているだけで十分頑張れる。

 俺を思ってくれる部下がいる。ただそれだけで幸せだった。


「なんか照れますね……」

「やめい! やめい! 男同士でこんな空気になるのはやめよう!」


 オイラーが頬を赤らめるのを見て、何だかこちらまで恥ずかしくなってくる。


「そ、そうですね! ……それでこれからどうしましょうか。たぶん、近日中にここから出ないとケータさん殺されちゃいますよ……」

「そうだな。時間はもう残されてないな……。計画ももっと詰めないと。そういえばオイラー、看守や囚人たちの能力についての調査はどうなってる?」

「自分が調べた限り————」


 オイラー曰く、囚人側には際立った能力の使い手はいない。脱出の決め手になるような能力をもっているような人物はいないとのこと。敵側はデンバーやクレットをはじめとした攻撃的な能力の持ち主が多いとのこと。

 そして一番の不安要素は所長の能力が分からないことだ。やはり、警戒すべきは所長だ。この脱出の鍵は所長をどのように対処するかにかかっている。


「引き続き調査を続けます」

「よろしく頼む。……まずはロブナードだな。あいつを味方にしないことにはおそらく脱出は厳しいだろう」


 時間は残されていない。なんとかしてロブナードを仲間に引き入れなくては。……とは言っても、まずは一日の強制労働を乗り越える必要がある。

 まずは担当エリアをロブナードに確認しなければならない。

 色々あったが、昨日はロブナードのことをぶん殴っちまったからな……今日も激務を押し付けられる可能性がある。


「よ、ロブナード。今日はどこを担当すればいい?」

「……おい、ソーダ。その爪どうした」

「ん? これはあれよ、オシャレよ」


 図体がでかいのに、意外と目敏いやつなんだよな。別に隠す必要もないのだが……妙な意地をはってしまうのが男という生き物だ。


「……ゴブレットか?」

「まぁな」


 さすがに分かってしまうか……。

 ロブナードは仲間が拷問された後に、殺されるところを見ている訳なんだから。


「ちくしょう、あの野郎……ソーダ、しばらくはこのエリアで大丈夫だぞ」

「え、こんなとこでいいのか? ここは子供や年寄りの担当エリアだろ」

「平気そうに見えるが痛いんだろ? そんな状態で力仕事なんてさせられるかよ」

「てっきり、いつもの担当エリアかと思っていたから驚いた」

「バカ野郎。怪我人をそんな場所で働かせられるか。それにその怪我がなくとも、これまでのエリアから担当を外していたさ」

「————その心境の変化について詳しく聞かせてほしいね」


 これは期待しても良いということだろうか。


「ま、そのへんは労働が終わったらだな。このあと俺の独房まで来てくれるか?」

「俺そっちの趣味ないぞ」

「そういうことじゃねぇよ! そんな見境なくないわ!」

「冗談だよ。じゃあ、このあとな」


 ここ最近、激務続きだったので今日の労働には拍子抜けした。ロブナードもそれぞれの人を見て、きちんと適切に業務を割り振っていたわけだ。

 あいつ、マネジメントの才能があるかもしれないな。

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