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コウハクウタガッセン

作者: 十一橋P助

 その日は夜になっても蒸し暑かった。シャワーを浴びたユキオは、バスタオルで髪を拭きながらリビングに戻り、ぎょっとなった。

「おい。なんだよ、これ」

 キッチンで夕飯の準備をしていた妻のメグミが振り返る。

「電気コタツよ」

「それくらい俺も知ってるよ。こんなものがどうしてここにあるのか訊いてるんだよ」

「宿題さ」

 その声は息子のタケトだった。彼はとことことユキオの横を通り過ぎると、コタツ布団に足を突っ込んだ。

「宿題って、コタツに入ることがか?」

「うん。古式ゆかしい行事を家族で体験しましょう。って先生が言ったんだ」

「いやいや。コタツくらいで古式ゆかしいか?」

「それだけじゃないよ。これも見るんだ」

 タケトはコタツの上に一枚の光ディスクを置いた。

「あ。DVDじゃないか。懐かしいな。まだあったのか」

「おばあちゃんの家にね。プレイヤーもコタツもおばあちゃん家の物置にあったんだよ」

「ああ、なるほど。確かに俺も子供の頃、物置の奥で見かけたことはあったな。でもこうして使ってみるのは初めてだ。ばあちゃんですら使ったことはないって言ってたからな」

 そこへメグミが夕飯を乗せたトレイを持ってやってきた。彼女がコタツの上に置いたどんぶりから湯気が上がるのを見てユキオは眉をひそめた。

「え?天ぷらそば?」

「だって、タケトのリクエストだもの」

 ユキオは理由を問い質すように息子へ視線を向けた。

「だって、これも行事のひとつなんだもん」

「さあさあ、文句言ってないで食べましょ。おそば伸びちゃうわよ」

「その前に、これ再生しないと」

 タケトが慌ててテレビの電源をいれ、ディスクを再生する。大画面に映像が流れ始めた。同じような顔をした女たちが歌に合わせて口をパクパクしながら狂ったように踊っている。どうやら昔のテレビ番組のようだ。その出演者が男女二組に分かれ、対抗戦の形式で進んでいく。あからさまに性の区別をする様子に眉をひそめながらも、ユキオはどんぶりのそばをすすった。

「しかし、さすがに温かいそばはきついな。またシャワー浴びたくなるよ」

「これでもまだましなほうよ。コタツの電源はいれてないんだもの」

「昔の人って大変だったんだね」

タケトはのぼせたように顔を真っ赤にしながら言葉を続ける。

「こんなに暑いのに、コタツに入って、年越しそばを食べながらコウハクウタガッセンを見るなんて」

「本当だな」

 いつからだろうか。大晦日がこんなに暑くなったのは。すべては温暖化のせいだ。おかげで日本から四季はなくなり、年間を通じて夏のようになってしまったのだ。

 そんなことを思いながら、ユキオは額に浮かんだ汗を手の甲でぬぐった。



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