電池切れにご用心
「あれ?ここどこ?」
今日は山で遠足。
私が小中高の一貫学校に通っている。
下級生の迷子対策として、私は最後尾を歩いていた。
「まいったなあ……」
周囲を見渡しても、あるのは木、木、木。
合体して林や森や森林になりそうなほど、木ばかりがそびえたつ。
「こうなったら魔法を使おう」
家の近くに新しくできたお店がある。
そのお店の店長さんは実は魔女で私は弟子入りした。
弟子入りしたことを思い出そうとすると、鳥の鳴き声が響く。
風にそよぐ枝の音がなんだか怖く感じた。
「細かい話はあとあと!今は変身しよう!」
私はポケットから防犯ブザーをかざして魔法を唱える。
――言葉を彩る旋律よ
私の服を彩って
私は帽子をかぶり、ワンピースを羽織って、魔女の格好になる。
「魔法を使うときは着替えてくださいね、か」
私は先生の教えに従って魔法で服を変えて居場所を探す。
少し離れたところで反応があった。
私は荷物から清掃用の伸縮する箒を取り出す。
本来なら帰るときの清掃で使う予定だった。
美化委員だからと運搬を任されたことを、私はうれしく感じた。
「よし行こう」
私は箒にまたがって空を飛ぶ。
「あれ、シカ?みんなは?」
音がしたところに到着すると、シカの群れがいた。
私が近づくと、シカの群れが逃げる。
地面に降りると、私は周囲を見渡す。
「助けてくれてありがとう」
木が私に話しかけてきた。
「木の精霊さん?助かったってどういうこと?」
「シカに皮をかじられていてね。枯れるとこだったんだ」
「そうなの?あとで先生に伝えておくね」
「助かるよ。ところでどうしたんだい?空なんか飛んで」
「みんなとはぐれちゃって、捜しているのよ」
「助けてくれたお礼に探してみるよ」
木の精霊さんは瞳を閉じる。
「ありがとう、木の精霊さん」
私がお礼を言うと周囲の気がざわめきだす。
先ほどは怖く思えた枝の音が、今は頼もしく思えた。
「あっちだね」
私は木の精霊さんに案内された場所へ、空を飛んで向かう。
「なにやってんの――」
教えられた近くの小屋の後ろに着陸すると、クラスメイトが話しかけてきた。
「わ、私はただの通りすがりよ!」
私が帽子のつばで顔を隠して話すと、クラスメイトがふしぎな顔をする。
「良い天気だからね!散歩したくなったもん!」
「そ、そっか、そうだね。そういうことにしとこうか」
クラスメイトは納得した様子で首を縦に振って防犯ブザーを取り出す。
「最後尾にいた子が迷子になっちゃってね。探してきてほしいんだ」
「……見つけたらこれを押すのね」
「そう、こんな感じで音が鳴るよ」
クラスメイトがボタンを押すと、押した音だけが聞こえた。
慌てた様子で何度もボタンを押す。カチッカチッと音だけが響く。
「壊れた、かな」
「もしくは電池切れとか」
困った顔をしているクラスメイトに、私は予備の防犯ブザーを差し出す。
「貸すだけよ。あとで返してね」
私はそのあとすぐに森の木陰に向かう。
周囲を確認して、私だけと確認すると服にかけた魔法を解除する。
一息ついた私は荷物を担ぎなおして、みんなのところに合流した。
私は先生にこっぴどく叱られた。
迷子になったら防犯ブザーを鳴らすと、遠足のしおりにあったことを思い出す。
私がボタンを押すと、小さい音がなる。
「前日に点検しときましょうね。それと――」
「終わった?」
先生から解放されると、先ほど会ったクラスメイトが私に声をかけてきた。
「失敗したら、次どうするかを考えて、とか叱られたよ」
「そうだね、そうしようよ。ほら班のみんな待ってるから一緒に行こう」
クラスメイトと一緒に私は反のみんなに合流し、お昼を食べる。
みんなと騒いで食べ終えると、眠くなってきた。
少し眠ってから遊ぼうと決めて、私は瞳を閉じる。
掃除だよ、との声に起こされ、私は周囲と時間を見る。
電池が切れたように眠っていたから、休ませてくれた友達のやさしさが身に染みた。