第1話 「歌唱スキル」
「いいか、魔獣を十分に引きつけてからだ。 地雷が発動したら遠距離攻撃、パニックを起こした奴が|壕≪ほり≫にはまったらそいつを各個撃破するんだ……」
大手ギルド“|終焉をもたらす黄熊の右手≪ザ・プーズライトハンド≫”リーダーのピグレは音が聞こえないようにハンドサインで伝えた。
林道を囲むように配置された団員達は固唾を呑み、魔物の群れが作戦区域へ来るのを待っていた。
……魔物達の進む先には作動してから遅延爆発する地雷が埋めてあり、林の中には木の間を埋めるように40センチほどの深さの空壕が多数設置されている。
前衛部隊はに
後方には火力担当
ヒリヒリと皮膚を焼くような緊張の中、地響きが段々と近づいてくる。魔物の群れの先頭が地雷の後5メルテ程に迫ったとき、不意に木陰から影が飛び出した。
|終焉もたらす黄熊の右手≪ザ・プーズライトハンド≫の面々は全く予想もしていない事態に言葉を発することが出来なかった。
「ボンバー!!!」
“!?”
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気合い一閃、俺は叫ぶとギターをかき鳴らしながら俺は空壕を飛び超え魔獣の群れの中へと突っ込んだ!!
一歩遅れて爆薬が作動し、俺は更に勢いを増し高く跳び上がる。
魔物の群れに飛び込むと俺を中心とした2メルテ程の円が出来た。
突然躱した為に少なくない数の魔物が方木々にぶつかり昏倒してしまっている。
すかさず俺へと向かってきた魔獣デスグリズリーの爪をサイドステップで躱しながら歌を歌い出す!
目は血走りよだれを垂らして俺に向かってくる迫力、たまんねえぜ!
「騒音! 一度しかない人生だから~♪」
|興奮≪ヒートアップ≫した魔獣は我を忘れ全力で襲いかかって来る。
俺を側を通り過ぎて突っ込んでいった魔物の集団が残りの地雷にで吹き飛んだり壕に突っ込んだりしているようだった。
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「はっ、今だ! やれ!やれー!」
一瞬遅れて我に返ったピグレが指示を出し、弩弓の矢が放たれた。
先頭集団の魔物数匹を貫通し、先頭集団にいた魔物がどうっ、と倒れた。
立ち上がろうとするそれらを踏み潰してなおも勢いは止まらない。
しかし、そこには空壕。
勢いのまま壕に足を取られ地面に顔面を痛打してしまう魔物、倒れた先頭にもつれ転げ回る魔物達もいた。
「近接防御!」
ピグレが右手を挙げると、壕の後ろに先を尖らせた丸太の柵が斜め45°ほどに立ち上がった。
空堀と傷付いた仲間を飛び越えた魔物達は止まる事が出来ず柵に突き刺さっていき、ぶつかった衝撃で柵が地面へと突き刺さり、安定感を増した。
「槍隊、、短弓隊、構え……」
魔物が宙を舞い砂埃が舞い上がり、こちら側に何かが聞こえて……
「うおおおお!」
槍隊、短弓隊が何故か知らないが柵を跳び越え魔物の群れへと突っ込んでいってしまった。
「一体何が起こっているんです!?」
副官のカング・ルーがピグレに聴くも、当然答えなど分かるわけ……
「おい、そういえばこの前雇った吟遊詩人のバジラ……あいつのスキル……」
「そういえば歌唱・演奏スキルがとんでもなく高く……」
わずかではあるが後方にいた二人にも少しずつ演奏が聞こえてきた。
「あー、もう滅茶苦茶だよ……」
魔物のスタンピード情報を得てから行ってきた段取りが全てパーになった瞬間だった。
諦めたようにピグレ達はため息を吐くと、音楽にノって突撃していった。
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幸いにもギルドメンバー69人に死者は出なかったものの、傷だらけになったギルドメンバー達は地面に倒れ伏し、死屍累々と言ったような状況である。
問題を引き起こした当の本人であるバジラが玉の汗を流しながらいい笑顔で近づいてきた。
バジラは汗と返り血でまみれてはいたが、一切無傷の様子で満足げに笑ってサムズアップをビシッと決めた。
「メンバー全員、最高のギグだったぜ!」
ピグレは疲れ切った様子で地面に座り込み、バジラを真っ直ぐに見た。
「……すまないがバジラ、君にはこのギルドから出て行って貰う」
バジラは少し考えていた様子だったが、はっとした様子でピグレの顔を見た。
「強いて言うなら音楽性の違いって事か……」
「違うわ!!」




