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十四話 最悪の相手


「彼女の名前はシルフィーラ・ヘイルメル。氷雪の魔女の二つ名を持つ、元魔王軍幹部だよ」


 場が一瞬にして凍りついた。


 冷え切った風が雪を乗せて俺たちの間を動き回る。


 しかし、発言者のフラムは納得してない表情で。


「あれ? 金髪の君しか驚いてないなあ。何で黒髪の方は……まさか、本当に王子様が居たんだ! フフ、良かったね、シルフィ」


 どこか世界を舐めきっているような笑みを浮かべた。


 自分をフラムと言ったこの青年は、たった今シルフィの氷魔法を一瞬で溶かした。


 それに、シルフィが魔王軍幹部だったという事実を知らないガブにそれをバラした。


 コイツ……!


「だから、何で君がここに! ……面倒くさがり屋の君が来るってことは相当じゃないの?!」


 俺が歯軋りをしているとシルフィが我慢出来なくなったのか叫ぶように尋ねた。


「……キマイラが倒されたって報告が有ったから、確認しに来たんだ。まあ誰が倒したか、何となく予想はついてたけどねえ。それにしても会えるとは思ってもなかったよ」


 フラムは歪んだ笑顔でそう言った。


 ……俺たちは相当な運の悪さなのか。


「ふーん、それじゃあさよなら! 『アイス・カーニバル』ッッ!!」


 いやあ、せこい!

 シルフィが不意打ちで最強の魔法を放ったが……。


「…………まじかよ」


「だーからつれないって言ってるんだよ。……にしても良い魔法だね……。これならお願いも聞いてくれるかな?」


 フラムは埃を払うように、炎で防いだ。


 ……これはマズい。本気で強い奴だ。


 シルフィの魔法で倒せないなら俺とガブじゃ相手にならない。

 しかし遮る物が殆どないこの雪原。

 逃げるのも困難だ。

 

「それでさあ、相談があるんだ。……シルフィ、魔王軍にまた戻らないかい?」


「嫌だ」


「即答かあ。……僕のことそんなに嫌い?」


「私には二人がいるから」


「その二人にも危険があるかも知れないのに?」


「……!」


 ……再び静寂が訪れ、風の音だけが空間を支配する。

 


「……シルフィは本当に元魔王軍幹部なのですか?」



 それを破ったのはガブだった。

 俯いてる為表情は分からない。


「そうだよ。ごめん、ガブリエル。……失望した?」


 そう言うのは悲しく笑うシルフィ。


「はい」


 ……だよな。


「……そう、ごめんね」


 その時、ガブが顔を上げた。


 その表情はかなり口角が上がってて……!


「……だけど、隠し事なんて全員一つや二つあるもんですよ! 私をミミュートの群れから助けてくれた事のお返しに魔王軍幹部を撃退してあげましょう!」


 ニッと笑う交戦的な盗賊娘。

 初めて見る清々しい顔に少し感動してしまった。


 反対にカチンときたのかフラムが少し上擦った声を上げる。


「ふーん、威勢が良いね君。ヘイルメルの名前を持つ者が二人もいるのに物怖じしないなんてね」


「生憎、肝は据わってるんですよ。あと、シルフィは仲間です。元魔王軍幹部だなんて関係ありませんよ! 貴方には渡しません! 貴方より、イブキの方がシルフィとはお似合いですよ!」


 ガブがめちゃくちゃかっけえ。


 俺もそんな事を言いたいが全部ガブが言ってくれた。これ以上言うことはない。


「あとイブキ、貴方にも聞きたいことがあるのです。街に帰ったら拷問ですからね!」


「何でだ!」


 拷問じゃなくて普通に聞けよ!


 その時、


「あーあ。……魔王軍の中でも優しいと評判の僕を怒らせたようだね。ここまでコケにされたのは初めてさ」


 静かにフラムが零した。

 と、フラムの周囲の空気が熱くなってきた。

 髪の毛は逆立ちし、その目も殺気立って……!


「僕を怒らせた事、後悔するが良い! 業火に焼かれろ! 『デスフレイム』!!」



■■■■■



「ハハハハ! 君たち、隠れてないで出てきなよ! 極力手は出したくないんだ!」


 フラム・ヘイルメルは炎魔法を操る魔王軍幹部。


「さっきの威勢の良さはどこに行ったの? 間違って魔法が当っちゃうかも知れないから出てきた方がいいと思うよ!」


 その威力は凄まじく一帯の雪は溶け、湿ったはずの草花にも引火して、辺り一面火の海と化していた。


 俺たちはガブの『隠密』スキルで火の影に隠れているが、このままではマズい。


「あわわわわわわわ。これ程までとは」


 ガブがビビり倒している。

 さっきの威勢はどこ行ったんだと俺も言いたいが今はそれどころじゃない。


「シルフィ、どうにかならないか?」


 頼みのシルフィも、


「……私の氷魔法で周りの炎を消してもすぐに魔法を打って来ると思う。……氷魔法は炎魔法に相性悪いし」


 いつになく弱気になっていた。


 魔法には属性がある。

 ということはつまり相性もあるのだ。


 氷、雪魔法しか使えないシルフィにとって、炎属性の強力な魔法をポンポンと放つフラムは最悪の相手だ。


 俺はシルフィの肩に手を掛けて言った。


「何言ってんだ。お前魔王軍幹部の中で最強と言われた『氷雪の魔女』の力を受け継いだんだろ? ……それにシルフィ一人で勝とうなんて思ってない。足止めとかは出来るか? 俺に考えがある」


 俺に一つの案が浮かんだ。要は相手の炎魔法を潰せば良いわけだ。


 危険を伴うが、そんな事は言ってられない。

 相手は魔王軍幹部。生きて帰るより殺される可能性の方が高いのだ。


 死ぬのは一回だけで良い。それが階段から落ちるというのでも……!


 その案をシルフィとガブに説明する。


「……分かったよ。私は『氷雪の魔女』、シルフィーラ・ヘイルメル。できる限り、足止めしてくるよ。……だけど、気をつけて。フラムは人一倍注意力があるから」


 決まりだな。


 俺は未だビビってるガブの首根っこを掴み。


「よし、じゃあ頼むぜシルフィ! お前なら出来る、何てったって俺が好きになった人だからな。……ガブ、お前もついて来い! 働けェ!」


「分かりました! 分かったから引きずらないでください! ……シルフィ、頼みます!」


 その言葉にシルフィは頷くと、静かに炎を氷魔法で割いてフラムの前へと行った。


 ……? こういう時、シルフィは必ずと言って良いほど「私に任せて」と言うのだが……。


「……おっ、シルフィ! 逃げてなかったんだね! 嬉しいなあ」


 フラムは歪んだ笑顔をするがシルフィはどことなく悲しげな表情で。


「……さっき魔王軍に戻らないかって言ってたよね」


「うんうん。どう? 僕と一緒に世界を支配しない?」


 シルフィは一度息を飲むと、大きく吐き出し、その思いを言霊に乗せた。


「私には守りたい人が出来た! だから魔王軍には戻らない。君の……その炎を、私が凍りつかせる! もう二度とあんな思いはしたくないから!」


 その少女の背中が大きく見えた。


 銀髪の髪にブルーの瞳。整った顔つきのその少女は今こそ戦わないといけないと思ったのだろう。


 頼む、シルフィ。

 俺もアシストするが、最後はお前に託すぞ。


「いいね! 僕も一度『氷雪の魔女』と闘ってみたかったんだ! 手加減はしない、さあ来いよ! シルフィーラ・ヘイルメル——!」


続きが読みたいという方、面白かったという方は、是非ご評価、ブクマをお願いします!


僕が人目を気にせず喜びます!!

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