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十三話 逃れられない邂逅

最近、ご飯の時にお腹いっぱい食べてしまう……。


気をつけよう。


「——さ、寒いし、長い……。こんな遠かったっけ?」


 イグニスの街を早朝に出て数時間。

 調査の為、スノーレの洞窟を目指す俺たち。


 なのだが……。


「そ、そりゃそうでしょ。……ハア、あの時も、朝に出て、五時間くらいかかったんだから……」


 俺とシルフィはバテバテになっていた。


 ……しんどい。脚に乳酸たまりまくって、ガクガクしている。


 しかしガブはまだぴんぴんとしていた。


「二人ともダラシないですね。街に帰ったらトレーニングしましょうね」


 まあ、俺とシルフィ。二人共、一番低いステータスが体力なのだ。


 理由は分かる。


 俺は日本に居た時、部活なんて入ってなくて運動も特にしていない。

 シルフィは三年間の幽閉生活で体力が落ちたのだそう。


「うう……世界なんて滅べば良いのに。そしたら体力がなくても……」


「シルフィ、しれっと世界の終末を望まないでください。……それでは少し休みましょう」


 俺たちは近くの木陰で休む事にした。

 結構な大きさの木なので下は雪が積もってなく、スペースが割と有った。


 ふう、と息をつくと、ガブが。


「それにしても……何でウィザードが剣を買うんですか? 意味わかんないですよ」


 ガブが指さすのは俺の腰にぶら下がった短剣。

 出発前に武器屋で買った安物だ。


「しょうがない。俺だって魔法で無双とかしてみたかったのに、サイコ女神のせいで風魔法しか使えないんだ。しかも魔力も人並みだから強い魔法が使えない。……要するに攻撃手段が皆無」


「うわあ……すごい落ち込んでる」


 風魔法は他の属性の魔法より攻撃力が低いものばかり。

 攻撃力が高くても相当な魔力を使うのだ。


 その中、疲れてなくて暇なのか、ガブが雪だるまを作りだし、それでも退屈みたいでシルフィに尋ねた。


「魔法っていったら、シルフィの『アイス・カーニバル』って氷魔法の最高位ですよね?」


 ……あ、そうなの? 


「そうだよ。私の憧れの人が使ってたからね」


 憧れの人……。先代『氷雪の魔女』か。


 しかしガブはその事を知る由もない。


「へえー、その人もすごいですね」


 知ったらどう思うんだろう。


 俺は分かんないけど、昨日のシルフィの感じでなんとなく予想はつく。


 魔王軍とは人々の悪の象徴で、恐れられている存在。

 その幹部となるとそれはもうヤバい訳であって……。


 ……を何で今に限ってこんな事考えるんだろう。

 ガブとはこれからもいっしょに冒険したいし……。


 ……あれ、何で俺こんな事考えてんだ!


 こんな奴、可愛くないぞ!



■■■■■



「やっと着いた〜!」


 イグニスの街から休憩を挟んで約五時間。

 ようやくスノーレの洞窟に着いた。


 時刻は昼過ぎなのだが、相変わらず雪が降っていてその感覚は無い。


 一ヶ月ぶりだが、そこにキマイラの死体は残ってなかった。


 俺は防寒対策がしっかりした二人の方を向いて。


「ひとまず、大きく回って周りを確認してみようか」


 その言葉に二人とも頷いた。


 俺たちは周りを確認する。

 と言っても、どの方向も銀世界の雪原が広がっているだけ。

 生えている樹木もまばらだ。


 俺は少しだけ安心しながら洞窟の少し入った所に腰掛けた。

 後に続いて二人も座って来る。


 最後にこの洞窟に長時間滞在して、何も異常が無かったらクエストの終了だ。


 俺は持ってきた魔法瓶(本当の魔法)で紙コップに温かいお茶を人数分注いだ。


「むう、イブキって意外と気が利きますよね」

「一言いらないが、そういう事。……はい」


 二人とも、ありがとうと言いそれを受け取る。


「にしても久々だな。ここ」


 その俺の言葉にガブが反応する。


「確か、シルフィがキマイラを倒したんですよね? どうやったんですか?」


 ……確か、結構グロかった……。


 そう思い、顔を引き攣らせてると……



「へえー。やっぱりシルフィが倒したんだねえ」



 俺の真後ろで声が……!


「ぎゃあああああ!!!」


「うわっ! あちち!」


 あっ! 人だ!


 思わず、声の主にお茶をぶちまけてしまった。


「ああ悪い、大丈夫か?」


 後ろにいたのは赤黒い髪の青年だった。

 彼は寛容な心を持っているのか、怒りもせず笑顔で。


「いやあ、大丈夫だよ。ビックリさせちゃってごめんね」


 爽やかな顔で許してくれた。


「ウチの仲間がすいません。本当に大丈夫ですか?」


 そのガブにも大丈夫というこの男。


 第一印象は好青年だ。

 でも、何でこんな所に。


 ……ん? シルフィの顔が青ざめている。


「おい、シルフィ。どうしたんだ……って」


 その瞬間、俺とガブの腕を引いて走り出した!


「え? どうした?! おい!」


 しかし、シルフィは必死で聞いちゃいない。


 俺たちは洞窟から雪原へと出ると、そこには……。


「つれないなあ。久しぶりの再会に逃げ出すなんて」


 洞窟の中に居た青年が、頭を掻きながら待っていた。


 それだけでコイツがヤバイ奴だと分かってしまう。

 ガブも感じたのか冷や汗をかいている。


 その後、少しの間、沈黙が続くが。


「……何で君がここにいるの?」


 それを破ったのはシルフィだった。


 冷たくて乾いた風が吹き抜ける。

 

「そりゃあね? 幽閉されてるのに外へ出たのは君でしょ?」

 

 二人の間に緊張感が走る。


 と、ガブが我慢できないといった表情で。


「あ、貴方は一体何者ですか! その口ぶりからシルフィの知り合いみたいですけど、名乗るのは礼儀ですよ!」


 その言葉に青年は大きく息を吐いて、


「僕の名前は、フラム・ヘイルメル。魔王軍の幹部だよ」


 ……やっぱりかよ。


 昨日聞いたばかりで覚えている『ヘイルメル』の名を持つ者が目の前にいた。


 その名を知らなかった俺でも、向かいに立つフラムのその佇まいと雰囲気で、『ヤバい』と本能でサインを出している。


 周りはだだっ広い雪原。隠れる場所すら無い。


「……ええっ! 何で魔王軍幹部がここに……。というか、何でシルフィと……」


 何故、魔王軍幹部がこの場所にいるのか。意味が分からないガブが混乱している。


 続けてフラムが困惑した表情で。


「あれ? シルフィの事聞いてないのか。彼女の名前は……」


「言わないで!」


 シルフィがその言葉を遮ろうと、氷の矢を飛ばした……が。


「……彼女の名前は、シルフィーラ・ヘイルメル。『氷雪の魔女』の二つ名を受け継いだ、元魔王軍幹部だよ」


 フラムの前で氷の矢が一瞬で溶けた——


 続きが読みたいと思ったら是非ご評価やブクマをよろしくお願いします!


 シルフィが喜びます!


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