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十二話 シルフィーラ・ヘイルメル


 ——イグニスの街から離れた雪原を歩く、青年が一人。


「ふんふ〜ん。キマイラが倒されたって事は、彼女が洞窟から出たって事かなあ?」


 赤とも黒とも言えない髪の青年は楽しそうに鼻歌を歌う。


 雪が積もった大地を踏みしめながら、彼は言った。


「いや! それか、王子様の登場って言う熱い展開?」

 

 その目は何かを期待しているようで……。


「……あーあ、早く会いたいなあ」


 彼はまだしんしんと降る雪に尋ねてみた。

 


「シルフィ……いや、シルフィーラ・ヘイルメル。……魔王軍幹部は楽しいよ?」

 


■■■■■



 雨期、もとい雪季もあと半月ほど。


 雨期なのに雪が降り始めた頃は街の皆も驚いていたが、今では日常の光景になりつつある。


 というか雨期が終わったら夏が来るらしいが、その辺は大丈夫なのだろうか。


 シルフィが言うには雨期(雪季)が終わると同時に放った魔法の効果も切れるとの事。


 と言う事は、この骨にも染みるほどの寒さの次は全てが嫌になる夏の暑さが来るわけで。


「体調が心配だなあ。俺、絶対季節の分かれ目とか風邪ひくし、ここ異世界だし。何があるか分からん」


 ギルド内のテーブルで俺はため息をついた。

 

 ヒールなどの魔法はあるが、医療技術はそこまで発展していないこの世界。

 地味に病気が怖いのだ。


 と、受付のお姉さんが髪を揺らしてやってきた。


「あれ? 今日はイブキさん一人ですか?」


「ああ、はい。シルフィは「街を探索する!」って言ってましたし、ガブはお父さんの手伝いをするらしいです」


 すると少しだけお姉さんの顔が引き攣った。


「そ、そうですか。お父さんの手伝いを……」


 と、そのお姉さんの手に何かの紙が握られていた。

 それには見覚えがあって。


「……ん? その紙、何かのクエスト用紙ですよね。どうしたんですか?」


 するとお姉さんはハッとして俺に説明を始める。


「そうでした。シルフィさんの……シルフィさんのパーティにギルドからの依頼クエストがあるんですよ」


「いや言い直せてないですよ。それでまたですか? 昨日の今日でなんて、俺たちも有名パーティになったって訳ですね!」


 何か言いたそうなお姉さんだがそのまま説明を続ける。


「それで内容なんですが、スノーレの洞窟って知ってますよね? その近辺の調査を行って欲しいのです」


 スノーレの洞窟って確か、……シルフィが幽閉されていたあの洞窟の事か。


 お姉さんの話によると、あの洞窟は希少な鉱石が取れる洞窟。

 キマイラが倒された今、発掘を再開したいのだが安全性が不確かな以上再会出来ないため、こうしてクエストになったという。


 しかし……。


「キマイラが居たという事実からか、他の冒険者は怖がって受けたがらないんですよ……。だから、お願いします受けてください! 拒否権はありません、早く私を楽にしてください! 貴方で十一組めですよ!」


 ギ、ギルドの人も大変だな……。

 お姉さんの目が血走っている。


 というか、キマイラを倒したのはシルフィだ。

 俺たちが責任持って調査をしないといけないな。


「分かりました。そんな事なら俺たちが責任持って……ちょ、ちょっと抱きつかないで! 大人のお姉さんにそんな事されたら、俺一体どうなってしまうんだ——!」



■■■■■



 その夜。


「どうした、急に部屋に俺を連れ去って」


 教会に帰り寝ようとした時、シルフィの部屋に連れてこられたのだ。結構無理矢理で。


「いや、ちょっとね」


 シルフィはベッド、俺は椅子に腰をかける。


 少し薄暗いこの部屋、お互いにラフな服装。

 彼女と初めて出会った時の再現のようだ。

 

 それはシルフィも感じたのか。


「へへ、何か洞窟での事を思い出すね。……あの時は驚いたなあ。まさか人がやって来るなんて、思ってもなかったよ」


 微笑みながらシルフィはそう言った。


「そうだな。俺もまさか元魔王軍幹部が居るとは思わなかった」


「ま、言われてみれば確かに。……それでさ話なんだけど……」


 シルフィは少しだけ間をとり、それから決心した顔で言葉を紡いだ。


「私の本名、知りたい?」


 少しの光も反射する綺麗な銀髪を靡かせて、彼女はそう言った。


 ……?


「……へ? 本名? じゃあシルフィって言う名前は?」

 

「あれは愛称。イブキも、ガブリエルとよく一緒に居るからイブキエルって呼ばれてるじゃない。それと同じ」


 シルフィがそんな事を……。


「何だよそれ初めて聞いだぞ! 俺の名前は人工衛星みたいにでっかくなれって言う意味なんだ! イブキエルってただの天使みたいじゃねえかよ!」


 誰だ? 今度ギルドで探してぶっ飛ばしてやる!


「し、知らないよそんなの! ほ、ほら落ち着いて? ……それで、私の本名はどうする?」


 慌てながらシルフィがそう言ってきた。


 何で今更……。

 でも本名があるなら聞いておかないと。


「もちろん聞いておくよ。……お前の本当の名前は?」


 そして彼女はいつしかとったポーズで。


「知りたい? じゃあ教えてあげよう! ……私の名前は……」


「名前は……」


「シルフィーラ・ヘイルメル、だよ」


 ……?


 分からん。


 何かスゴイ溜めて言ったから何かしらの意味があるんだろうが、全く分からん。


 ……あっ、そんな目で見ないで。

 決心して本名明かしたけど、微妙な反応で私の心を揺さぶらないで見たいな目で見ないで?


 と、シルフィは大きくため息をついた。


「はあ……、『ヘイルメル』の名を聞いてもすんとしてるなんて……。イブキって相当な記憶喪失? それともとんでもない田舎生まれ? そうじゃなきゃあり得ないよ」


 そんな事言われても分からない物は分からないよ。


「まあ田舎は田舎だったな。それで? 『ヘイルメル』ってのは一体?」


「うーん、『ヘイルメル』の名前は、魔王軍幹部に与えられる名前なんだけどなあ。そんなに驚かないとこっちが恥ずかしいよ……」


 おっと珍しいシルフィの赤い顔だ。

 

「そりゃそうだ。あの時、お前から自分は元魔王軍幹部だって言ってたし、驚く要素が無い」


「で、でも私こんなだけど『ヘイルメル』なんだよ?」


 だから知ったこっちゃねえ。


「……そうだな。……あと、シルフィってシルフィーラって言うんだな。綺麗で可愛い名前じゃん。何で最初会った時に教えてくれなかったんだ?」


 すると、恥ずかしくなったのかシルフィがそっぽを向いて話し出した。


「あのね、あの状況だったら別に愛称だけで良いかなって思ってたんだ。魔王軍幹部だって明かしたら、キミは驚いて逃げ出すだろうって」


「……まあ、確かにそうだったかもしれない」


「だけど、キミはそんな私でも信じてくれて、私と一緒に外に出てくれた。だから言うタイミングを失ってたって訳。ごめんね」


 シルフィは小さく手を合わせながら謝った。


「別に良いよ。名前も重要だけど、そんなんで関係が変わる訳じゃ無いし」


「そうだよね。良かった良かった。イブキって魔王軍とかの話をすると結構目をキラキラさせるんだよね。よく分かんないな」


 そりゃあね。異世界の定番の話を聞けるなんてテンション上がるに決まってる。


 と、雰囲気が落ち着いたからか欠伸が出てしまった。


 もう時刻は寝る時間。夜更かしする理由も特に無い。


「ふああ、眠くなってきたな。んじゃ、俺はもう寝るよ、おやすみ」


「あ、イブキ、ちょっと良い?」


 もう部屋を出ようとドアノブに手をかけた時、シルフィから呼び止められる。

 

「ん、どうした」


「……ハグしてくれないかな?」


 ……?!


「ままま、まあ、し、シルフィの願いなら叶えてしんぜようぞよ。……急にどうしたの?」


「いや、なんか……特に理由は……。ただ、何かあった時だともう遅いから」


 シルフィはそんなよくわからない事を言う。


 ……良く分かんないけど、


「……はい」


 俺は内心ドギマギしながら両手を前に出す。


 シルフィは俺に抱きつくと胸に顔を埋めた。


「ん、ありがとう。イブキ、大好きだよ。この想いはこれからも変わらないからね」


「……俺も」


なんかラブコメっぽい話は難しいですね……。


面白かったら是非ご評価、ブクマよろしくお願いします!


シルフィが大喜びしますよ!

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