十一話 雪だるまは真夜中に
もう一月の終わり……。
早いですね!
季節の分かれ目。体調管理をしっかりと行なってくださいね!
「——雪だるまを作って欲しい?」
雨期がシルフィのおかげで冬期のようになった翌日。
何かクエストを受けようかとギルドに行った所、お姉さんからそんな事を言われた。
「はい。孤児院からの依頼が入ったんです。なにせ、異常気象で急に雪が降ってきたんじゃないですか」
それ、となりのシルフィがやりました。
そんな事もつゆ知らず、お姉さんは説明を続ける。
「それで、院長さんが子供たちに大きな雪だるまを見せて皆を笑顔にしたいと言う事なんですよ」
なるほど。素敵な世界だ。
納得はしたのだが、シルフィは腑に落ちないような表情でお姉さんに尋ねる。
「でも、何で私たちなの? 冒険者は他にも居るじゃない」
そう。この依頼は俺たちのパーティに指名が入ったのだ。
どこぞのホストクラブの如く、指名のクエストや依頼はそれ程の実績がないと滅多にないのだそう。
「そうですよ、まだ駆け出しの私たちですよ。信頼や実績なんて…………ありましたね。シルフィが」
「そういう事です。シルフィさんは氷魔法や雪魔法が得意でしたよね。ギルドに依頼に来た院長さんがそれらが得意な方々にして欲しいとの事でしたので、ギルド内で話し合った結果、満場一致でシルフィさんを推しました」
なるほど。氷魔法、雪魔法しか使えないシルフィはギルド内でそれらが得意という認識になってるらしい。
丁度いいし、そういう事にしておこう。
「それじゃあその孤児院の場所教えて下さいな。ちゃちゃっと行って作りましょう。シルフィが」
「イブキも手伝ってよね」
そう楽観的に考える俺たちだが、お姉さんは困った顔で。
「あの……それなんですけどね」
「「「?」」」
■■■■■
街外れに位置する孤児院。
ここは何かしらの理由で親がいない子供が生活する施設で、割と多くの子供がここで生活をしている。
俺たちはここの院長さんの依頼を受けて来た訳なのだが……。
「確かに、起きたらでっかい雪だるまがあるってテンション上がるな」
夜中の孤児院の庭に雪だるまを作ってくれと言われたのだ。
しかもとびきり大きいのを。
「……そうですかね。よく分からないですけどパパッと作りましょう。このままじゃイブキが凍え死んでしまいます」
「なあ、それ心配? 皮肉にしか聞こえないから日頃の態度改めろ」
すました顔のガブは置いておき、俺は事前に貰った合鍵で鉄製の扉を開けて庭に入った。
「おー、なかなか広いね。これなら結構大きく作っても問題なさそう」
庭はおおよそテニスコート二つ分の大きさで、そこに雪が三十センチほど積もっている。
俺は二人に向き合うと声を潜めて説明する。
「よし、じゃあ作るとしようか。院長さんが言うには子供たちにバレないように静かに作ってくれだって。だから、この間覚えてた『サイレント』スキルを使ってみようと思う」
『サイレント』スキルは使用者、もしくは対象者の発する音を完全にシャットアウトするスキルだ。
一応原理としては周りに真空の壁を作って音を阻害する。
空気を操っているので風系統のスキルになるらしいとの事だ。
「あと誰かに見られたら不審者確定だから、ガブの『隠密』スキルを使おう」
「やってる事は完全に不審者ですけどね。何なんですかね、そのスキルの使い方。……まあでも子供たちの笑顔の為です。今日ぐらいはそうしましょう」
俺たちはスキルを発動すると、ひとまず一人一個のノルマを設定して作業に取り掛かった。
雪だるまなんて何年振りだろう。
俺の地元でも一年で数日は積もる事があるが、もう何年も作ってないな。
今日本はどうなっているんだろう。
もう年は越してるだろうし、順当に行けばもう卒業して……。
……家族の皆、元気かな。
ふと冷たい風が頬を襲う。その風には何かメッセージがあるのがすぐに分かる。
分かりましたよ。感傷に浸ってないで速く作りますよ。
……あれ、俺なんでアイツに敬語を使ってんだろう。
その後、土台を作り終えた所で、他がどうなってるのか見ようとシルフィの方を向いたのだが。
「……でっか!!」
十メートルは優に超えるだろう雪だるまがそこに鎮座していた。
「いやでか過ぎるだろ! 院長さんの想像を絶対超えてるって!」
俺は唖然とした表情だが、シルフィはとても落ち着いて。
「大丈夫だよ。接合部分はキッチリしてるし安全性は信用できるよ?」
「ふう、良かったそれなら大丈夫じゃなくて! ……もう作ったんならなあ。というか、どうやって作ったの? 明らかに雪の量おかしくない?」
俺はそう言いながら、巨大雪だるまを近くで見ようと移動する。
近くで見ると圧巻だな……。
見上げ過ぎて首が痛くなってしまう。
「『スノー・ボール』って言う魔力に魔力を多めに込めたんだ」
「張り切り過ぎ」
まあ真面目なのはいい事なのか。
もちろんシルフィに悪気なんて無いだろう。
俺は自分の持ち場に戻ると、残りの上部分を乗っけて完成させた。
ガブの方も終わったらしい。何やら持ってきた水筒でお茶を飲んでいる。
「よし、じゃあ終わろうか。夜中だからくれぐれも人に見つからないようにスキルは発動させっぱなしで帰ろう」
「もうイブキの発言がコソ泥にしか聞こえません」
と、その時。
「そこに、誰かいるの?」
子供の声が聞こえた。
見ると、まだ幼げな少女が窓から顔を覗かせている。
サイレントスキルはこちらの音は聞こえないが、向こうの音はこちらは聞こえるという使い勝手の良いスキルだ。
しかし、咄嗟の事。
バレてしまった……と思ったが。
「……あれ? いない。誰かいたとおもったのに」
どうやらバレてないらしい。
というか『サイレント』に『隠密』のスキルのル ダブルコンボをしてるんだ。
それで見つかったら、あの少女こそチートだ。
「よし、帰るか」
俺たちは一種の達成感を味わい、その場を後にしようとしたその時。
「うわあ! 雪だるまさんだ! すごーい!」
喜びの高い声が聞こえてきた。
……良かった。喜んでくれて。
と、シルフィが『サイレント』発動中だが小声で。
「ねえイブキ。『サイレント』スキルはこっちの声は聞こえないんだよね」
「ああ、そのはずだ」
その俺の言葉にシルフィは天使のような笑顔を浮かべて。
「分かった。……そこの君! 良かったねー! 君の人生に祝福の風を!」
シルフィがこの世界の祝福の言葉を、
「ありがとう!」
投げかけた。
……ん? いま返事があったような?
■■■■■
翌日。
「いやーありがとうございます! おかげで皆楽しそうですよ!」
子供たちの様子を見に孤児院を訪れた。
院長さんの言葉通り、三つの雪だるまが見守る庭で、まだ幼い子供たちが楽しそうに遊んでいる。
「いえ、私たちも喜んでくれてとても嬉しいですよ」
「うんうん! そういう事!」
満面の笑みを浮かべるシルフィとガブ。
俺もこいつらと同じで嬉しい限りだ。
「そう言って貰えるとは……。あの子たちには親が居なくて、私が色々親代わりで世話をするのですが、一緒に遊ぶのだけは私の身体が追いつかなくて……」
そう言って涙ぐむ院長さん。
しかしシルフィは虚空を見つめながら、何かを呟いている。
「親かあ。お父さん、お母さん……か」
何を言ってるんだろう。よく聞こえない。
「だから、今日は目一杯子供たちと遊んで欲しいのです。……あれ、どうされました? シルフィさん」
「……あっ、いえ……。分かりました! 私の魔法の威力を試してきますね!」
「待て、違う! お前のそういう発言本気でしそうで怖いからやめて!」
俺がシルフィの腕を掴んだその時、
「もしかして、この雪だるまさんたちお兄ちゃんたちが作ったの?」
金髪の可愛らしい少女が話しかけてきた。
今更隠すのもおかしいので、俺は少女に視線を合わし、そうだよと言った。
「やっぱり! 昨日の夜に作ってた人たちだよね!」
……え?
バレてる?
「なあガブ、俺たち昨日『隠密』に『サイレント』使ってたよな? 何でこの子にバレてるの?」
ガブは困惑した顔で。
「し、知りませんよ。……あ、でも時々そういう耐性を持った子どもが生まれることがあるらしいのです。そういう子には通用しない事があるって聞いた覚えがあります」
そういう事なのか。
意外とスキルを過信してはいけないらしい。
俺は少女の方を向き直した。すると。
「えへへ、ありがとう、お兄ちゃん! 大好き!」
少女が俺に抱きついてきた。
か、かわいい……!
何が可愛いって純粋な瞳と、未成熟な四肢が幼さを際立たせていて、あと綺麗な金髪とか!
と、その様子を見ていたガブが。
「イブキ、あなたは小児性愛者、ロリコンで……ああ、可愛い! イブキ、ズルイです!」
否定はしない。
というかお前、ズルイって言ってるじゃないか。
俺はそのまま少女を、抱き抱えて立ち上がる。
「よし、じゃあ皆の所へ行って遊ぼうか! ほら、皆待ってるよ!」
「うん! 行こう、お兄ちゃん!」
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