間話 夜中のトイレほど怖いものは無い
レアニスト教会で、初めて夜を迎えたイブキ君。
一体、どうなるのか!
ふと、ベッドの中の俺は目が覚めた。
——トイレ行きたい。
寝ぼけ眼を擦りながら俺は起き上がり、ドアの手前まで行った時、思い出した。
そうだ、俺、異世界の教会で寝てたんだった。
ベッドで寝るのが日本に住んでた以来だから忘れていた。
……うう、今尿意で震えてしまった。早く行こう。
……待てよ。ここ教会だよな。しかも真夜中だ。
ヤバい、超怖い。
夜ってだけでも相当なのに、ここは教会だ。
夜の学校、夜の病院に並ぶ怖さだぞ?
……ああ……! まずい、漏れる!
俺は仕方がなくドアを開いた——
——暗い、暗すぎる。
教会の廊下は長く、ひたすら闇が続いていた。
トイレはその進んだ奥。
暗い場所を見るのはしんどいので、横の壁を見続けながら、少しずつ歩みを進めていく。
そして、無限に感じるような時間をかけてトイレの前に行き着いた。
俺は安堵のため息を着く。
……ふう。
「……安心してる所を襲うのが、私のやり方です」
「〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!!!」
「なんてね、ガブですよ。どうでしたか?」
金髪の幽霊……ではなくガブが暗闇から現れた。
「どうでしたか、じゃねえだろ! 死ぬほどビビったわ!」
絶賛腰抜け中の俺に、ガブはニヤニヤしながら。
「夜こそ盗賊の本領発揮。《隠密》スキルを練習してたら、いいカモが居ましてね。それでもう一度聞きます。どうでした?」
そういやコイツ、盗賊職だった。
今まで、あまりにも活躍がなかったので忘れていた。
「いや気づかなかったけどさ、ガブはいつから俺を尾けてたんだ」
「イブキが部屋を出てからですね」
「すぐじゃねえか」
全然気づかなかった……。
というか普段から使えよ。クエストが楽になると思うんだけど。
「あと《敵意感知》スキルも使えます。……イブキ、貴方からビンビンに感じるんですけど」
おっと。バレちゃしょうがない。
「渾身のコールド・ウィンドしようと思ってたんだ。ていうか、そんな便利スキル、今度からクエストで使ってくれ。あと盗賊はどんなスキル使えるんだ? この際だから教えてくれ」
俺は尿意を忘れてガブに尋ねる。
「えーと、《隠密》《敵感知》、後は《罠解除》《ピッキング》ですかね。ダンジョンはお任せあれ、盗みもお任せあれ、ですね」
「もし何か盗んだら警察に突き出すぞ。……しかし、割と使えるな。こういう所は同じパーティで良かったと思えるんだけどなあ。……はあ」
毒舌家なのがコイツの魅力を下げてると思うのだが。
……と、尿意が戻ってきた。先程、びっくりした拍子に忘れていたが、俺はトイレに起きたんだった。
俺は立ち上がると、トイレの魔道具に手を伸ばし光をつけた。
「っと、トイレトイレ。……なあガブ、一ついいか?」
最後に俺はどうしても聞いておきたいことがあった。
「何です?」
「さっき言ってた『安心してる所を襲うのが、私のやり方です』ってさ、盗賊じゃなくて暗殺者のセリフだと思うんだけど。どういう事?」
盗賊職の上位職が暗殺者なのだ。
一端の盗賊であるガブもいずれはジョブチェンジするのか。
しかし、ガブはすんとした表情で。
「いえ、あれは何となくです。気にしなくても良いですよ。イブキ、それではお休みなさい。まだ夜は長いですからね」
その何となくが怖いんだよなあ。
まだ夜は長いのは事実なのか、まだ少し眠い。
早く済ませて自分の部屋で寝よう。
「はいよ、お休み」
その後、帰り道もビビりまくってた俺は。
意外と有能だったガブに、帰り道も驚かされた。
本当にやめて…………。