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九話 レアニスト教会で生活する為に


「……なあ。レアニスト教徒ってこんなんばっかなの?」


 喫茶店にて。

 トレニアと名乗った聖職者を俺たちは保護?した。


 「いや、多分この人だけだから。レアは温厚な女神として有名だから、信者も優しい人ばかりと言われてるよ」

 

 それ本当? 俺を迷いもなくビンタしたけど。


 嫌な予感がした俺はレアニスト教のシンボルがついたペンダントを服の中に隠している。


 一応、雨季が迫ってきてる中どうすれば良いかという話をしたのだが、トレニアは巨大トーストを頬張り続けていた。


 話聞いてんのかな?

 

 そう思っていると、トーストを食べ終わったトレニアがコーヒーを一気に飲み干した。


「何言ってるの? こんなに優しい私に出会えたのよ? 貴方達にはこれから祝福の風が吹くに違いないわ! ……まあ、話は聞かせてもらったわ。それならウチの教会で生活するのはどうかしら? 居住スペースも十分にあるし、結構良いと思うけど?」


「良いんですか? でも迷惑になりませんか? こんな男が教会を出入りすると、評判にも関わるかも知れませんよ」


 ……俺はお前の中でどんな評価なんだ。一度問いただすか。


 というか、俺としてはその提案は乗り気ではない。

 あの女神を祀る教会で生活はしたく無いのだ。


 しかしこのままだと、雨季の中、割りに合わないクエストなどをして稼いだ金が、宿代で使い切ってしまう。

 そして飢えに苦しんでバッドエンド……。


「良いけど、ひとつだけお願いがあるの。これをしてくれたら、教会で寝泊まりしても良いわよ」


 トレニアが指を立てて真剣な顔で俺たちに向き合った。


「そのお願いは?」


 宗教勧誘させろとか? 毎日レアにお祈りを捧げろとか? 

 どれを取っても気乗りがしない。


「毎朝、朝ごはんを作って頂戴!」

「「「………は?」」」


 俺たちがポカンとしているとトレニアが理由を述べてくる。


「だって朝って一日の中で一番しんどい時間じゃない? そんな時にご飯だなんて作れないわ。今日だってそれでお腹減っていて倒れたのよ。という訳でお願いできるかしら!」


 ダメだこりゃ。

 

 どうしようかと思い俺は二人に小さな声で、

(なあ、これ大丈夫? 俺たち相当なダメ人間引き当ててしまったんじゃないか?)


(だ、大丈夫だよ! ご飯なら私が作れるし、心配ないよ!)


(シルフィ、心配してるのはそれじゃありません! ……イブキ、恐らく大丈夫ですよ。仮にも神に仕える者です。やはり、ここはこの提案を受け入れるのが吉ですよ)


(うう……、そう、するか)


 俺は渋々了承すると、トレニアの方を向きながら凛々しい顔を作り出し、


「——お断りします」


 深く頭を下げた。


「いやなんで断ってるんですか! ダメダメ! ノーカン! 朝ごはん作るんで、教会を使わせて下さい!」


 ガブが横から俺の頭を抑えてくる。

 痛い痛い! ちょっと強すぎじゃない?


「分かったわ! それじゃあ食べ終わったし帰りましょうか、私たちのスウィートホームへ! しゅっぱーつ!」


 トレニアが、とびっきりの笑顔で立ち上がり店の外へ出た。


 この人何歳なんだろう。多分俺より年上だろうけど、精神年齢が俺より大分低い気がする。


 ウキウキで喫茶店を出るトレニアを、俺たちは会計をしてから追いかける。


 外はやけに暖かい風が吹いていてトレニアのラベンダー色の髪を揺らしていた。


 すぐに教会には戻ってきたが、こんなダメ人間と生活するのは滅茶苦茶不安だ。


 帰りたい……。あ、帰る場所ここだった…………。

 


■■■■■



 教会の正面扉を開けると、そこは女神レアに祈りを捧げる空間だ。


 奥に女神レアの像が置かれている。……誰だこいつ。


 ——俺は今風呂上がりである。


 実は異世界に来てから風呂に入ったのは初めてだった。


 やはり俺は日本人で、長風呂しすぎてシルフィに急かされてしまった。


 野宿生活の時は近くの湖で体を洗ってたのだが、事故で何回も覗いてしまい、魔法をぶっ放されまくった。


 俺が居住スペースのリビングのソファに座って鼻歌でも歌っていると、


「イブキー、どらいやーしてくれない?」


 ホカホカしたシルフィが寝間着に着替えてやってきた。


「はいよ。んじゃそこに座って」


「ありがと、それじゃあよろしくね」


 そう言ってシルフィは俺の横に座る。


 俺は慣れた手つきで、ウォーム・ウィンドでシルフィの髪を乾かしていく。


 透き通るような銀髪は、雪のように白くて幻想的だ。

 だけどこんなに可愛くても元魔王軍幹部なんだよなあ。


 今は笑顔で髪を乾かされているシルフィだが、魔王城にいた時はどんな風だったのだろうか。


 目を閉じながら、んーと声をあげているこの可愛い生き物は魔王城では——


 と考えていると、シルフィの髪が乾ききった。


「終わったぞ。相変わらず綺麗な髪だな」

「やっぱり? いつもイブキが乾かしてくれるからだよ、ありがと」


 シルフィが笑顔で俺を見つめてくる。


 ……。

 

 恐らく俺の顔が赤くなってるので、他の話題を振ってごまかす。


「え、えーとやっぱり食費が必要だな。生活する場所は確保したし」


 俺がそれとなく呟くと、

「でも、どうするの? 雨季になるとクエストがしづらくなっちゃうよ?」


 食費の殆どを占めるシルフィが聞いてくる。


「まあ、明日に何かのクエスト行こうか。どうせシルフィが一撃で倒すから高難易度のクエストでも問題ないだろ」


 俺は立ち上がるとリビングの先の廊下に歩いて行く。

 するとシルフィもついてきた。


「あーあ、自分の家でも持ちたいなー。なんて」


 そう言って俺は、先程部屋割りで決めた自分の部屋のドアノブに手を掛ける。


「んじゃ、今日はもう寝るよ。シルフィも早く寝ろよ。あと、ガブに伝えておいてくれ、明日はクエストに行くってな」


「うん! お休み、イブキ」


 シルフィの笑顔に送られて自分の部屋に入る。


 部屋にはただテーブル、イス、ベッドがあるだけで、パソコンやゲーム、スマホなんてあるわけが無い。


 そんな場所ではすることはただ一つ、寝ることだけだ。



 という訳で、お休み。明日はいい日だと願おう。


 俺は意識を心の奥深くに仕舞い込んだ。






 ——その夜、夢を見た……気がした。


 ぼんやりと見えるのは、淡い紫色の髪を伸ばした女性。

 

 意識が有るのか無いのかわからない。それが夢の特徴。


 だからよく覚えていない。


 だけどその人は言っていた。



「……今度会ったら、答え合わせをしましょう!」



 今度会う? 答え合わせ?


 分からないのは、夢だから? それとも……。



面白かったら是非、ご評価お願いします!


……お願いします! イブキの頑張りにお願いします!

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