サイカイ
聞きなれた鐘の音が、校舎中に鳴り響く。それを合図に担任が自己紹介をし、その後に続けて学校生活におけるルールや注意事項などの説明があったが、俺の耳にはなにも聞こえなかった。担任からの話が終わると、どのクラスでもいやどの学校でもあるであろう、自己紹介の時間になった。一人ひとり自分の名前・出身中学・好きなもの・一言を順番に言っていった。それらが早く終わり入学式まで時間があったので、自由時間になったためにクラスメートたちは席の近いやつらと口々に話し始めた。それを横目で見ていた俺は、最近の若いやつらのコミュニケーション能力の高さに若干ひいていた。
しばらくして、新入生は入学式のため体育館に集められた。面白くもない校長の話を聞き、ありきたりな文章を新入生代表が読み上げたら、次は生徒会長の話だった。俺の記憶通りなら真面目な堅苦しい挨拶をして入学式は終わるはずだった。しかし次の瞬間、俺は目を疑った。
「次は生徒会長のあいさつ、生徒会長よろしくお願いします。」
そう言われて壇上に上がったのは、あの真面目な生徒会長ではなかった。そこに立っていたのは、よく見慣れた顔だった。最初はただ似てるだけだと思った。そんな考えは一瞬で蹴り飛ばされた。
「みなさん、こんにちは。生徒会長の光泉隆二です。新入生のみなさん入学おめでとうございます。」
それから先の言葉は耳に入ってこなかった。つい昨日まで、一緒に喫茶店に行ったりしていた友達が急に自分の二つ上の先輩になって突如現れては、ポーカーフェイスに定評のある俺も驚きのあまり開いた口がふさがらなくなった。いつもであれば全校生徒の前でしゃべるなんてすごいなと感心する場面であるが、今回は状況も状況なので、それどころではなかった。
生徒会長(隆二)の話が終わると俺たちはすぐに、教室に返された。先ほどの隆二の話は俺の知っている生徒会長の堅苦しい話とは違い、ジョークなどを取り入れ俺たち新入生が飽きずに聞ける面白い話だった。それを聞いたクラスメートたちは教室で、あの生徒会長イケメンだのユーモアにあふれているのだと騒ぎ立てていた。自分の親友がこういう風に言われるのは悪い気はしなかったが、俺の心の中は黒い霧でモヤモヤしていた。
それから、教科書などが配布され下校となった。下駄箱に向かっていく、新入生とは逆方向に俺はあるいていった。向かった先は生徒会室だ。一年生の教室は四階にあるが、生徒会室は一階にあり教員室の隣にある。生徒会室は一つの教室をそのまま使っているようでそこまで大きくはなかった。それに対して教員室はこの学校が中高一貫校であるためにとても大きかった。ダメもとではあったが生徒会室の電気はまだついていた。ドアに貼ってある張り紙通りに二回ノックをすると、中から入室を許可する意味の返答が聞こえてきた。久しぶりに聞いた隆二の声に安心感を覚えつつ俺はゆっくりとドアを開けた。目の前にいたのは、二年間、一緒に高校生活を送った親友であった。
「どうされましたか?学校に関する話は先生に聞いてもらったら、いいと思うのですが…」
今日は入学式のため2,3年生は学校に来ていないので、自分が新入生であることは察しが付く。様子を見るからに隆二は、俺のことをただの新入生としてしか見ていなかった。俺がそれに気づいた瞬間、俺と隆二の二年間はこのとき音を立てて崩れていった気がした。
「すいません。教員室と間違えてしまって…失礼しました。」
どんなに頭のネジが飛んでいても、間違いようのない生徒会室と教員室であったため嘘であるのは自明であったが、隆二は特に何も気にする様子はなかった。俺は教室を出たあと、逃げるようにして教室に帰った。
四話も読んでくださりありがとうございます。先日、Twitterを開設しました(@ParaWorld0903)
徐々にですが読んでくださる人も増え、モチベーションも上がってきています。これからも応援よろしくお願いします。