ナクシモノ
「い、い、い、い、いもうとぉ!?母さん何言ってんだ。頭を打ったのか?」
今日初めて会った女の子がいきなり妹だといわれて、いったい誰が信じるであろうか。たしかにそれがほんとだと仮定すると家族旅行の写真に片っ端から写っていることもうなずける。しかし、さっき家を出るまでは存在していなかった。状況が飲み込めない俺はただただ立ち尽くしていた。
「そんなとこで、突っ立ってないで早く晩御飯の準備手伝いなさい!
その日の夕食は彼女の言っていた通りにハンバーグであったが、今自分の置かれている状況に混乱してかなかなか箸が進まなかった。夕食を終えて風呂に入り自分の部屋に戻ると、わけがわからない状況に振り回されたせいか10時を回る前に眠りについた。
朝起きて時計を確認すると、七時前だった。ぐっすり寝れたのもあってか、とてもよい目覚めだった。布団から出て、ベランダに出て周りの景色を見渡すと見慣れた町の景色に違和感を覚える。
ーまるで別の世界に来たかのようなのに、ここから見える景色はいつもと変わらないってなんか不思議だな。
「おにいちゃん、おはよ!って、え……。なんでそんなにニヤニヤしてんの」
俺にもついにやってきた、かわいい妹に”おはよ”と言われるこの憧れのシチュエーションに、頬が緩まないわけがないだろう。妹の俺に対する目が完全に俗物を見る目であったが、この幸せに比べればそんなことは取るに足らない事案であった。
「まぁ、なんでもいいけどはやく準備していかないと、入学式遅れちゃうよ。」
時間を確認してみると起きてから30分近くが経過しようとしていた。急いで着替え、食パンを加えながら学校に行くために、最寄りの駅に向かって走った。俺の通っている学校、津明学院大学付属第一高等学校は山の上に立っており、電車通学の生徒がほとんどのこの学校ではバスで近くの駅からやってきている。学校までの道のりは今までと同じであったために登校に関しては特に困ったことはなかった。山の上に堂々とたたずむそれは、見慣れたはずなのに妙に新鮮さを漂わせていた。校門には”津明学院大学付属第一高等学校 入学式”と書かれた立てかけ看板が置いてあり、そこで写真を撮っている家族でにぎわっていた。
俺は受け付けを済ませると資料を抱えたまま教室に向かった。記憶が正しければ一年の時は隆二と同じクラスであったし、仲良くなったのも入学式の日だった。早く会いたいという気持ちを胸に四階の自分のクラスのドアを開けた。最初に目に入ったのは担任だった。金色の眼鏡にいかつい顔。本来であれば”俺の高校生活終わった”と思うとこであるが俺は、この先生が優しいことを知っている。いったん席につき、周りを見渡すとまだクラスの半分くらいしか来ていなかった。来ているメンバーは俺の記憶と何も変わっておらず、少し安堵した。入学式のパンフレットのクラス名簿のページを何気なく眺める。すると、違和感があった。
ーなんでだ、なんであいつがいないんだ。
俺は、目を疑った。自分のクラスの名簿を見ても隆二の名前がどこにもないのだ。それどころか全10クラスある名簿を全て確認したが彼の名前はどこにもなかった。
この世界で俺は大切な友達の存在を失った。