イインカイ
それからは何事もなく一週間が過ぎた。
この一週間で今付き合っている彼女のことはだいぶわかってきた。
彼女の名前は西村茉奈。
彼女のお母さんと俺のお母さんが中学の時の同級生だったらしく、小さい時からよく遊んでいたらしい。言ってしまえば幼馴染のようなものだ。そのため、妹である優実とも仲がいい。
パラレルワールドに来る前の世界には、俺に幼馴染などいなかった。幼馴染は俺が妹の次に欲しかった。この世界に来ていろいろ大変だったが、思ったより悪くないことに気付き始めた。
俺たちは、中学一年の時に俺からの告白をきっかけにして付き合い始めたらしい。つまり今年で三年目だ。これらの情報は優実や家の俺の部屋にある日記などから得た。この世界の俺は、まるで誰かに読んでもらうことを前提にしているかのように、事細かにその日その日のことを書かいていた。残念ながらこの日記は俺がこの世界に来た時点で、止まっている。
茉奈も最初の第一印象こそは悪かったものの、話してると楽しいし思ったよりいいやつだった。あれからは毎日一緒に手を繋ぎながら帰っている。俺はハンドボール部の体験に行って大樹が入るっていうのと思ったより楽しかったのもあって、入部した。彼女は特に部活には入らず、俺が部活に行っている間は彼女は教室で勉強していた。
学校に行って部活に行って彼女と帰って夜に優実とゲームする。こんな一週間を過ごしていた。
ーーーキーンコーンカーンコーン
五時間目開始の合図の鐘が鳴る。それを合図にしたかのように、教室のあっちこっちにいた生徒は全員自分の席につく。一週間もすればクラスの中でも仲のいいグループがちらほらとできてくる。
水曜日の五時間目はLHRのじかんは各クラスに与えられた時間であり、クラスによってやることはまちまちだが、高校生活が始まって最初のLHRは大体どの学年もどのクラスもやることは一つである。
「はい、だれか学級委員やりたい人いるかぁ。」
クラスは沈黙に包まれる。それもそのはず、高校は行ってクラスのこともよくわかっていないのに自らいかにもめんどくさそうな学級委員をやりたがる奴なんてそうそういない。しかしそんな沈黙もつかの間、その沈黙を破ったのは大樹だった。
「はい、僕がやります。」
さすがは大樹だ。彼はこの一週間で持ち前のコミュニケーション能力を使って、ちゃくちゃくとクラスでも友達をつくり、クラスからの信用をものにしていた。
「ほかにやりたいやついないか。いないなら中井は決定にするぞ。」
当然、ここにきてやりたいというやつもいないので大樹は学級委員に決定した。各クラス、男女それぞれ一名ずつ選ばないといけないのでそ十分弱かかって、ようやく女子のほうが決まった。
その後は図書委員や保健委員、体育委員そのほかにも国際委員(うちの学校はグローバルを押してるだけに)もテンポよく決まった。
俺は、保健委員会に入った。学級委員以外も男女一名ずつで俺は森麻衣という子と一緒に保健委員をやることになった。
その日の放課後、委員会に入ったメンバーはそれぞれ指定の教室に呼ばれ説明を受けることになった。終礼がはやく終わった俺たちは指定の教室に行くとまだ誰もいなかった。とりあえず、適当な席に座って森となんでもない世間話を始めた。彼女は一般的に見てもかわいい部類に入るほうで、またとても気さくで話しやすくクラスの中でも中心になりつつある。なんでそんな彼女が学級委員ではなく保健委員に来たのかは、謎であったが特に聞くほど気にもならなかったので、聞かなかった。
彼女と話しているとどうやら、中学が同じだったらしく中学の先生の話などで盛り上がっていた。(俺が中学生の時と大して変わっていなかったみたいでその辺はだいぶ助かった。)あまり彼女と接点はなかったのか、懐かし話にもならなかったのでそれに関してもだいぶ助かった。
そんなんで会話しているとチラホラ教室にも人が増えてきた。教室の入り口を見ていると芽衣が誰かと話しながら入ってくるのが見えた。途端に胸が苦しくなったのを感じた。
隣にいる人を見ると、茉奈だった。彼女はこちらに気付くと駆け寄ってきた。
「朝陽も保健委員に入ったんだね。」
「あぁ、なんとなくこれが楽そうだったしな。」
委員会に入らなくてもいいのだが、一応入っといたほうがいいかなと思い、一番楽そうなここにした。ちらりと芽衣のほうを見ると彼女は、茉奈の後ろに隠れながら今にも消えそうな声で
「こ、こんにちわ…」
芽衣が俺に挨拶をしているのを見て
「あれ、二人は知り合いなの?」
「知り合いっていうかなんて言うか…」
「ふーん。まぁいいや。とりあえず、うちらも座ろ。」
そう言って、彼女たちは俺の後ろのほうに向かっていった。
「今のだれ?」
隣にいた森が不思議そうに聞いてきた。それもそのはず、俺たち外部生から見てみれば入学してそんなに時間がたっているわけでもないので普通接点はないからだ。
「まぁ、あれだな。今お付き合いさせてもらってる…」
「え……」
彼女は言葉をなくし開いた口がふさがらなくなっている。
「ど、どうしたんだ。」
「ううん、なんでもないの。気にしないで。」
変な気まずさの中、俺たちの間にそれ以上の会話はなかった。