一人にさせたくない先輩女子(前編)
投稿遅れてごめんなさい。
今回は前後編にわかれます。
優菜視点
私はあの後、詠歌と別れ、自分のクラスで静かに本を読んでいた。
やっぱり教室で本を読んでいるのが一番落ち着く。だって、誰も話しかけて来ないし、楽しい物語を堪能できるのだから。
「あの......優奈さん......」
だが今日に限って誰かが私に話しかけてきた。
私に話しかけて来たのは、たしか、同じクラスの女子で、名前はたしか......北島さんだったかな? だめだ、下の名前は思い出せない。一人でいる事の弊害かな。
「えっと、何か用?」
我ながらぶっきらぼうな言い方だとは思う。本を読んでいる時に話しかけられると、自然と口調が強まってしまうのだ。少し悪い事をした気分だ。
「あ、あの......」
私の口調に気圧されたのか、北島さんは少し戸惑ってオロオロしている。
「北島さんだったよね。
何か用かな?」
私は口調を緩めてまた話しかける。
それを聞いた北島さんは、少しほっとした様な顔になって口を開いてくれた。
「名前覚えててくれたんだ、ありがとう」
元々気が大きい方では無いのか、全体的に弱々しい口調で話しかけてくる。
「あ、あの、優菜さんはどんな本を読んでるの?」
なんだこいつ、なんでそんな事を聞いてくるのだ?
北島さんと私は、けして知らない間柄ではない。北島さんはクラス委員長なので、他人と基本関わらない私とでも、唯一話すことのあるクラスメイトだ。
だが、それはあくまで、クラス委員長としての仕事だから関わっていただけで、彼女個人はむしろ私を苦手としていた印象すらあった。
そんな彼女が、どうして私の読んでいる本なんかの質問をしてくるのだろう。
一 私と仲良くしたくなり、話題を探した
二 単純に私の読んでいる本が気になった
三 なんとなく気分で
「えっと......」
私が熟考していると、北島さんが気まずそうにこっちを見てくる。どうやら、私が長い時間考えすぎたせいで、自分が無視されてると勘違いしたらしい。
「ごめん、別に無視しようとしたんじゃないよ。
ただ、北島さんにそんな質問されると思って無かったから、少しビックリしただけ」
「あ、えっと、私優菜さんと仲良くなりたくて......それで、優菜さんと仲良くなるなら本の話題かなって思ったから......」
「なるほど、一だったか」
「え?」
「気にしないで、ただの独り言だから」
私が勝手に一人で納得していると、北島さんは
少し不思議そうな顔をしたつつも、無視されていたのではないと知って、少しほっとした様子だった。
やりにくいな、私は心の中でそう呟く。
こういうタイプの人は、悪意が一ミリもないぶん、強く突き放せないのだ。
「私なんかと仲良くなってもいい事ないよ?
愛想ないし、話しててもたのしくないよ」
「そんな事、仲良くなってみないとわからないよ!」
やんわりと断りをいれて見たつもりだが、どうやら通じてない様子。
北島さんはどうしても私と仲良くしたいようだ。
「そもそもなんで北島さんは私なんかと仲良くなるなりたいの?
多分だけど、北島さんは私の事苦手だったよね」
そう言うと北島さんは少し気まずそうな顔になる。
「な、なんとなくだよ」
「なんとなく?」
「そ、そう。山里さん、何時も一人だから、なんとなく気になって......」
そう言いつつも、北島さんは私から目をそらす。嘘をつくのが苦手な人なのだろう。
「あ!そろそろ授業だから席に戻るね!」
「あ、うん」
いたたまれなくなったのか、北島さんは自分の席に、逃げるように帰って行った。
「なんだったんだろう」
私は不思議に思いつつも、ひとまずの静けさを取り戻せたのに満足し、とくに北島さんを呼び止めることも、問い詰めることも無かった。
だが、どうやらそれは間違いだったようだ。
「山里さん、一緒におしゃべりしよう」
「山里さん、グループワーク一緒にしよう」
「山里さん、解らない問題ない?教えてあげるよ」
「山里さん」「山里さん」「山里さん」「山里さん」「山里さん......
北島さんと話したのを皮切りに、同じクラスのクラスメイトや、他のクラスの知らない人達が、入れ代わり立ち代わり、私の所に来ては、何とか私と仲良くなろうとしていくのだ。
しかも理由を聞いても、誰も答えようともせず、全員が全員はぐらかす。
「これなに?!新手のいじめか何か?!」
「ありゃりゃ、随分と荒れてるね」
私は昼休み、迫り来る謎の仲良く使用軍団(仮)から逃げるため、職員室からくすねた鍵を使い、屋上に逃げて来ていた。
「て言うか、なんで詠歌がここにいる訳?ちょっと一人でいたい気分なんだけど」
「まあまあ、そう邪険にしないでよ。ジュースあげるからさ」
そう言うと詠歌は私に向けてオレンジジュースを投げてよこす。
私はそれを受け取ると、詠歌を人睨みしてからプルタブを開けて一口飲んだ。
口の中に程よい酸味と甘みが広がり、私の心を少し落ち着けた。
「落ち着いた?」
「まあ、何とか」
「よかった」
詠歌はにっこりと笑っている。
「まあいいや、愚痴を聞いてくれる相手は欲しかったし」
私の許しが出ると、詠歌は「やったー」と喜び、手をパタパタと振る。
なんだかその光景を見ていると、少しだけ冷静に慣れたような気がした。
「実際、なんで急にこんな事になってるんだろう」
私はしみじみとつぶやく。
「思い当たる節が全く無い。理由が分からないんじゃ手の打ちようがない」
静かに本を読みたい、そんな些細な願いを守るために、私は脳をフル回転させるが、どうすればいいのか、全く持ってわからない。
「私さ、理由知ってるよ」
詠歌がなんでもない事のようにそう言った。
「え?!知ってるの?!」
「うん、今朝あった先輩の事覚えてる?
秋野彩先輩。
あの人私と同じ美術部の部長なんだけど、その人がね今朝部室で、優菜は何時も一人で寂しそうだって言ったんだ」
「それはどうも、で?それが何の関係があるの?」
「それがね、彩先輩には熱狂的なファンがいるんだけど、そのファンが先輩の言葉を偶然聞いちゃったらしくてね、優菜と一緒にいれれば先輩の気を引けるかもって思ったらしいの。
で、それが部内に広がって、今に至るってわけ」
私は頭を抱えたくなった。
今の話を聞いた限りだと、今の私には打てる手が全くと言っていいほど無い。
「先輩人気だからなー、多分ほとぼりが冷めるまで我慢するしかないも思う」
「そんな〜」
私の些細な願いは、先輩の不用意な一言によって、儚く消えたようだ。
て言うか、言葉一つでここまで影響が出るなんて、どんだけ人気なんだよ、あの人。
「まあ、昼休みはここにおいでよ。
しばらくは愚痴に付き合うからね」
「随分と嬉しそうだね」
「そりゃあ、昼休み、優菜と一緒にいる理由が出来たからね」
人が本気で困っているのに呑気なものだ。
こうして私は、昼休みを詠歌と二人で過ごし、私一人でクラスへと戻って行くはずだったのだが......
「そっちいた?」
「いいえ、いったいどこに行ったのかしら」
「諦めてはダメよ!せっかくの秋野様とお近づきになるチャンスなのですから」
クラスに向かう途中には美術部員達が、私を探して待ち構えており、まるで逃走中のような状況になっていた。
「......」
もう言葉も出てこない、本当にもう、勘弁してほしい。
「あ、あそこにいます!」
私は廊下の影にいたのだが、どうやら後ろから見られていたらしい。
私は慌てて横の道に逃げ込んだが、その時見えた顔は、私の方を指さし居場所を報せる北島さんだった。
誰だ悪意が一ミリも無いとか言ったやつ!
そうして私はひたすら走って、逃げ続けたのだが、私は元々体力がほとんどない、クソ雑魚ナメクジなので、最初はかなり開いていた距離はもうほとんど詰められていた。
「もう......だめかも......」
私は走りながら捕まるのを覚悟し、曲がり角を曲がった瞬間、何故か横の教室に腕を捕まれ引き釣りこまれた。
「ーーー!」
思わず叫ぼうとする口を私を引き釣りこんだ腕とは別の腕で覆い、「静かにしないと見付かっちゃうよ」と声がかけられる。
私は戸惑いつつも、声に従って声を抑える。
「逃げられたわ!」
「さがして!さがして!」
外から聞こえる声がだんだんと小さくなっていき、完全に消えたあたりで、ようやく私の口にあてられていた手は解かれ、自由の身になった。
「行ったみたいね」
私は声の主をみて、そこにいる人物に唖然とした。
「秋野先輩!なんでここに?!」
「シー!、まだ近くにいるかもでしょ!」
私は慌てて口を閉じる。
「ごめん、驚かせちゃったよね」
そう言いつつ、秋野先輩は後ろに下がり、申し訳なさそうな顔をする。
そこにいたのは間違いなく秋野彩先輩だった。
「優菜に会いに来たんだけど、何故か追われているみたいだったから、思わず強引な方法で助けちゃったの。
ごめんね......」
「それは良いですけど、なんで私なんかに会いに?」
たしかに私は昨日と今日の朝、秋野先輩と話しているが、それだけで、わざわざ二年の校舎まで来る理由が解らない。
「えぇ〜っと、私のせいで優菜が大変なことになってるって聞いて......」
「あー」
なるほど、これは納得だ。
たしかにこの事態を収束できるのは秋野先輩しかいないだろう。
その後、詳しい理由を知らないと言う先輩に事情を説明すると「ほんっとにごめん!」と全力であやまってくれた。
「まさかあの会話を聞かれてたなんて......
ていうか!あんな会話一つでこんな事態になる?!普通?!」
「私に言われましても......」
秋野先輩は綺麗な髪の頭を抱え、うんうんと唸る。
そりゃあまあ、自分が何気なく言った一言でこんな事態になったら、頭を抱えたくもなるだろう。
私は少し秋野先輩に同情した。
「ごめんね〜、まさかあの子達がここまでするなんて、思わなかったのよ......」
「別にいいですよ、でもできれば早くこの事態を解決していただければ......」
それを聞いた先輩は少し微妙な顔になる。
「うん......部活のメンバーにはちゃんと伝えるけど、多分もう部活のメンバー以外にも広まっているみたいなの......」
「えっ?」
「だから多分、事態が収まるまで時間がかかると思うの」
「えぇぇえ!」
「優菜!声声!」
私は慌てて口をふさぐも、心の中では大絶叫がなおも響いていた。
「てことは、まだしばらくはこんな生活が続くって事ですか?!」
「うん......そういうことだね......」
私は倒れるように地面に手をっけガックリとらうなだれる。
さようなら、私の静かな生活。
先輩も罪悪感からか、どうするべきか必死に考えているようで、はっ!っと何かを閃いたような顔をした。
「あのね、優菜さえ良ければだけど......」
そう言って語られた先輩の作は驚くべきものだった。
後編も随時追加します。
誤字脱字があったらごめんなさい。