一人になりたい女子高生
一人でもブクマしてくれたら、次の話を投稿します。初投稿なので誤字脱字があったらごめんなさい。
『ゆうか、私は貴女がいないと生きていけない......』
『私もです、はるな様。貴女がいないと私はダメになってしまいます』
そう言うと二人はお互いの体を強く抱きしめ合う。
『ゆうか......』
『はるな様......』
そうして二人は名前を呼び合い、ついにはお互いの唇を重ねあわせ......
私はそこでパタンと音を立てて本を閉じた。
「あー、そこからが良いところなのに!」
「良いところなのにじゃない、なんて本を読ませるのよ!
そもそもこれ、学校で読むような本じゃないでしょ!」
そう言うと私は目の前に立っている女を睨んだ。
薄い茶髪にお世辞にも高いとは言えない背丈、薄い胸、童女のような顔を持つ女が悪びれもなくこちらを見て笑ってる。
「いやいや、未亡人の奥様と美少女メイドの恋、なかなか萌えるものがない?」
「ないよ!私にはそっちのけが無いって何度言えば分かるの!」
私のツッコミにもにこにこと笑うだけでこいつは何一つ悪びれない。その悪びれず笑う顔が余計に私のカンに触った。
こいつは西原詠歌と言い、私の幼稚園からの幼なじみだ。過剰なスキンシップが大好きなほとほと困った女なのだが、一年前に私のいた学校から転校していった。それで、ようやく縁が切れたと思っていたのに、一年後、私もその学校から転校する事になり、しかもその学校が、詠歌の転校先と全く一緒で今に至る。まったく、腐れ縁とは怖いものだ。
「優菜にもこの素晴らしを知って欲しかったのになー」
優菜とは私のことだ。本名は山里優菜。
この学校には一週間ほど前に転校してきた転校生である。
ここは伊達里高校と言う、都内で有数の進学校で、私は今その伊達里高校の二年三組の自分の席にいるのだ。
「優奈には何で伝わらないかなー、この素晴らしさがさー」
「恋愛なんてくだらない、それも女の子どうしなんて、冗談じゃない」
「残念だなー」
そう言うと詠歌は私から本を受け取り、
「じゃあ次の授業始まりそうだし、そろそろいくね」と言って自分のクラスに帰って行った。
「やっと静かになった」
私は一人つぶやいた。
クラスはまだ授業が始まってないので、お世辞にも静かとは言えないが、少なくとも自分に話しかける人はいなくなった。
私は一人が好きだ。
静かで、落ち着けて、誰のことも気にする必要のない世界。それが大好きでたまらないのだ。
私はカバンから本を取り出した。その瞬間チャイムがなり授業の開始を伝えるが、そんな事は関係ない。
私は読書の世界に落ちていく。
ああ......この世界に私と本しかなければいいのに......
子供の頃から本が好きだった。毎日寝る前に母が呼んでくれる不思議な物語達は、私を引き付けて止まなかったからだ。
ある時は遠い異国の地で大冒険を
ある時は絶海の孤島でミステリーを
またある時は小さな学校での恋愛を
私の世界は、本を中心に回っていたと言っても過言ではなかった。
幼稚園を卒業する頃にはシャーロック・ホームズを読破し、学校に入学してからは図書室の本を端から端まで読んだ。
本を読んでいる時だけは自分じゃない自分でいられた。それが楽しくて嬉しくて、幸せだった。
だけど私の周りの世界は、私を放っておいてはくれなかった。
「優菜ちゃん、周りともっと遊ぼ」
ほっといてよ
「なんで外で遊ばないの」
ほっといてよ
「一人で本読んでいて楽しいの?」
もうほっといてよ!
私は本を読んでいたいのに、周りがそれを許さない。
そんな中、私は意固地になって本を読み続けた。授業中も 休み時間も 家でもずっと。
そんなことを続けていたら、案の定孤立した。クラスでも話す人はいなくなって、先生からもあまり話しかけられなくなった。
だけど私にはその孤独がとても居心地が良かった。
本を読むのを邪魔されず、私の周りはとても静かだったからだ。
それからの私は一人でいることに執着するようになった。周りも私を変人として扱うので、近づこうとしなかった。
そのおかげで、一人でいることはとても簡単だった。
詠歌のような例外もあるが、彼女は私が本当に一人でいたい時は一人にしてくれる、私と言う人間を理解してくれているのだ。
そうやって私はずっと一人でやってきた、多分あの日までは......
「んっ......」
私は机に突っ伏していた体をゆっくり起こす。どうやら本を読みながら寝ていたらしい。
「嫌なことを思い出しちゃったな......」
辺りを見渡すがクラスには人が一人もいない。
「そう言えば三限目は体育だっけ、すっかり忘れてた」
一人でいることに不満は無いけど、こう言う時に一声もかけて貰えないのはさすがにちょっと不便だ。
「まあ、寝てた私が悪いんだけどね」
どうしよーかななーんて考える。
本当ならすぐにでも体育館かグラウンドに行くべきなのだろうけど、どうにもそんな気にはなれない。
「いいや、ここで本でも読んでおこう。」
私はそう思い、また本を開けた。そうして私はまた魅惑の本の世界へ......
「何してるの?」
急に私の読書をぶった斬る声が聞こえた。
誰だろう?クラスの奴らなら声をかけてくるわけないし、先生かな?
私はそんなふうに思いながら、若干不機嫌そうに声の主を見る。
そこには、私とは一年違いの先輩が立っていた。
綺麗な人......
思わず私は心の中でそう呟いた。
ブロンドで長く艶やかな髪、日本人離れした切れ長で整った顔、白く透き通った肌、背は私よりも若干低く、まるで女性と言う存在の美の全てを集めたような姿だった。
「このクラスって確か、今第一体育館でバレーしてるはずでしょ?
何でここにいるの?」
その先輩は再び私に質問する。
けして責めているような口調ではなく、優しく諭す様な口調、私はその言葉で我に帰った。
「えっと......居眠りしてたら置いてかれちゃいまして......」
「え?! 誰も起こしてくれなかったの?!」
「えぇっと、私、クラスに友達いないから」
私がそう言うと、先輩は心配そうな顔をする。
「そっか......」
神妙にそういう先輩を見て、私は慌てて話を変える。心配なんてされたくないから。
「それより、先輩は何でここにいるんですか?
まさか、私と同じで置いてかれたとか?」
「えっ?! 違うよ〜、家庭の事情で少し学校に来るのが遅れちゃっただけ。
それより、何で私が先輩だってわかったの?」
「制服のリボンです。この学校、学年によってリボンの色が違いますから」
「あっ、そっか。すっかり忘れてたよ」
その後も、たわいも無いことを少しだけ二人で話した。
そうして話してるうちに、先輩からさっきの、心配そうな雰囲気は消えている。私は内心ほっとしつつも、少しだけ、うんざりしていた。
やけに絡んでくる先輩だな、こういう人は苦手だ。
詠歌とはまた違う、相手との心の距離とかを計らず、ぐいぐいこっちに入ってくる人間。
悪意がない分、対応に困るのだ。
ていうか、何で会ったばかりの私にこんなに話しかけれるの、うんざりを通り越して尊敬すらおぼえるわ。
こんなかんがえのせいか、さっきはじめてあった時の印象は、早くも薄れつつあった。
そうやって私が先輩について考えて間も、先輩はずっと話し続けていて、私も適当に相槌をうっていたのだが、先輩が何気なく時計を見た瞬間大慌てになった。
「あっ!ごめん!
私が話しかけたせいで授業完全に遅刻させちゃった!
このままじゃ君が先生に怒られちゃう!」
先輩はよほど慌てているのか、おろおろとし始める。
さっきまでの美しく凛々しい表情が、今では申し訳なさでいっぱいになっていた。
「だいじょうぶですから、落ち着いて」
私は何とか先輩を落ち着かせようとするが、先輩は
「いいえ、私のせいだから私が何とかしないと......そうだ!
私が君の体育に着いて行って、先生に事情を説明するよ」
と、全く話を聞かない。
「元々私が寝てたせいですし、先輩が気にすることないですよ」
「それにしたって、私が話しかけなければ五分ぐらいの遅刻で済んだのに......」
「本当に大丈夫ですから!
そもそも行く気無かったし!」
その瞬間先輩の表情が固まる。
しまった!
私は心の中でそう叫ぶ。熱くなって勢いにまかせて言ってしまった。
先輩は一瞬固まると、また私を心配するように私の顔を見てきた。
「どうしてか......聞いていい......かな?」
またそんな顔をする、やめて欲しいのに。私が虐められてるとでも思っているのだろうか......
私は何だかイライラしてきていた。
なぜ私がこの人に気をつかう必要があるのか。
「と、とにかく、私は一人で行きますから!」
私は半ば強引に話を切り上げ、教室の扉に向けて歩きだした。
このまま話していたら何故かイライラが限界になる気がしたのだ。
私がつかつかと歩き、扉に手をかけた瞬間、先輩から声がかかった。
「まって!」
私は今度こそ完全に不機嫌に後ろを振り向く。
「なんですか、ついてくるなんて言わないでくださいよ」
「もう言わないよ、でもせめて名前ぐらい教えてよ」
先輩の言葉に私は少し間をおいて答えた
「山里優菜です」
私は今度こそこれっきりで後ろを振り向かず、教室をさって行った。
「本読みたかったなー」
先輩視点
私は山里さんが去って行った教室に呆然と立っていた。
実を言うと私は山里さんのことを知っていたのだ。
授業中に堂々と本を読み、たった一人の友達以外誰も寄せ付けない謎の美少女転校生、彼女をこの学校で知らない人はいないのだ。
私もチラリと見た程度だったので、どんな人か気になっていたのだが、家庭の事情で学校に来るのが遅れたことを職員室伝えに行こうとしていた時、彼女が一人で教室の机で寝てるのが、廊下側の窓から見えたのだ。
声をかけようか迷ったが、彼女の寝顔を見ていると、何故か声をかけるのが躊躇われるような気がした。
こうして見ると山里さんはとっても綺麗な顔をしていた。
少し大人びた顔に、綺麗で吸い込まれそうな黒い髪は肩ほどで切りそろえられていて、閉じているから分からないが、きっと目もとても綺麗なのだろう。
「触れてみたいな......え?!」
自分の口から出た言葉に、自分で驚いた。
何で私はこんなことを言ったのだろう。
「んぅ」
その瞬間、山里さんが目を覚ました。
私はさっきの言葉が聞こえたのかと思い慌てたが、どうやらそういうわけではないようで、ぼんやりと何事か呟くと周りをキョロキョロ見渡している。
私に気づくかなと思ったが、どうやらクラスの中だけを見てたようで私に気づく様子はない。
そして誰も居ないことを確認すると山里さんは何と本を読み始めようとしたのだ。
私は思わず声をあげてしまう。
「何してるの?」
やっちゃった!
私はとても慌てる、山里さんは私の方を向いて困ったような、不機嫌なようなそんな顔でこちらを向く。
私は取り繕うように山里さんに近づき、質問した。
「このクラスって確か、今第一体育館でバレーしてるはずでしょ?
何でここにいるの?」
あってるよね?
確かこのクラスは毎週この時間は体育だったはず......
「えっと......居眠りしてたら置いてかれちゃいまして......」
「え?! 誰も起こしてくれなかったの?!」
「えぇっと、私、クラスに友達いないから」
私は絶句した。クラスに馴染めていないとは聞いていたが、まさか声もかけて貰えないほどなんて......
私はあまりに驚いて
「そっか......」
としか言えなかった。
クラスの中でずっと一人でいるってどんな気持ちだろう、寂しくはないだろうか、悲しくはないだろうか、そんな考えが、私の頭の中をグルグルと回っていた。
助けてあげたいな......
私は心からそう思った。
それから優奈とたわいもない話を少しの間だけした。優奈と話すのはとても楽しくて少し話し込んでしまって、気づいて時間を見た時にはすでに、時間が十分もたってしまっていた。
「あっ!ごめん!
私が話しかけたせいで授業完全に遅刻させちゃった!
このままじゃ君が先生に怒られちゃう!」
私はかなり慌てた、このままでは私のせいで山里さんが怒られてしまう。
そこで私は山里さんについて行って、事情を説明しようと言ったのだが、なぜか全力で断られる。
それでも私が食い下がると、山里さんが衝撃の一言を発した。
「本当に大丈夫ですから!
そもそも行く気無かったし!」
私は多分固まっていたのだと思う。だが直ぐに立ち直り、山里さんに質問した。
「どうしてか......聞いていい......かな?」
多分、デリケートな問題だと思うから、私は強制はしない形で質問する。
けど山里さんは、もう質問に答える気は無いらしく、
「と、とにかく、私は一人で行きますから!」
そう言って扉の方に向かって歩きだした。
私は反射的に
「まって!」
と、声をかけてしまう。
山里さんは明らかに不機嫌そうな顔でこちらを見てくる。
私はなおも質問を続けようか迷ったが、やめてこう言った。
「もう言わないよ、でもせめて名前ぐらい教えてよ」
それを聞いた山里さんは少しだけ考える素振りをして、
「山里優菜です」
とだけ言って、今度こそ後ろを振り返らず私の前から去って行った。
そんなこんなで私はこの教室で呆然と立ち尽くしてたのだが、私の頭の中には疑問が渦巻いていた。
私は何でこんな質問をしたのだろう、名前なら知っていたはずなのに......それに行く気が無かったってどういうこと? 友達がいない授業だと、やっぱり辛いのかな......
結局私の疑問に答えは出ず、結局結論を出せないまま私はその場を後にしたのだが、職員室に行く途中も、ずっと山里さんのことが気になってもんもんとしていた。
『えぇっと、私、クラスに友達いないから』
そう言った山里さんのこと思い出す。
そして決めた。
「せめて私にできることをしよう」
ブクマありがとうございます。
次の話は1週間以内に投稿予定です。
タイトルは『一人にさせない先輩女子』です。
まだまだ未熟な文章ですが、次も読んでいただけたら嬉しいです!