23話:温泉を決闘の場にするなぁぁぁぁぁぁ!!
紳士は腕を組んで眉根を寄せた。
「いいだろう。特別措置として、今回だけ許可する」
しれっと特別措置出さないでくれる!?
紳士はモノクル越しに僕をじっと見下ろすと、「うむ」と頷いた。
「そういうわけだ。君、この子と付き合ってくれ」
ホワイ?
なぜ?
どうして僕がこの子と決闘しなくちゃならないの?
「騎士たるもの、決闘を挑まれたら受けるのが定め」
紳士は何もかもを理解したような口調でそんなことを言ってのけた。
そして、目を見開いて告げるッ!
「――今より決闘を開始するッ!」
馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 決闘だと!? 日本では決闘したら決闘罪で罰せられるんだぞ!
と思ったがここは中世ファンタジー風味の異世界! 何でもかんでも決闘で決着がついてもおかしくはない!
紳士はどこからともなく金属製の球体物体を取り出した! 紳士が金属球体を宙に掲げると、たちまち周りの空間が歪んで結界みたいなものが生成されるではないか!
「決闘領域・ハラペコ式、生成!」
おい
おいぃぃぃぃぃぃ!!!
勝手に温泉を決闘の場にするなぁぁぁぁぁぁ!! しかもなんだ決闘領域・ハラペコ式ってのは!!
「ふん! 本当はこんなもの使いたくもないんだけど、今回だけなんだからね!」
エルフっ娘がツンデレ気味に言いながら、どこからともなく巻物を取り出した!
「《早着替え》の巻物ー!」
《早着替え》の巻物。そのまんまなネーミングである。
うん。あれだ。
よく分からないが、巻物を使うのはエルフっ娘的にはNGらしい。どういう感覚なんだろうか。
まあいい。
紳士とエルフっ娘は様子から察するに《異次元収納》を持っていると見た! 何も無い空間から物を取り出すなど《異次元収納》以外に有り得ない! 何ということだ、こんな場所に《異次元収納》持ちの人がいたなんて!
いっそ、この2人と同化してしまうのもアリなのか?
などと思っている間に、全裸のエルフっ娘が《早着替え》を完了させていた。全身に付着していた温泉の水滴やら何やらはなぜか消滅していた。
はえーよ。MMORPGのアバターの着替えシステムか何かか。ワンタッチで着替えが完了する系なのか。少なくとも便利ではある。
《早着替え》したエルフっ娘の姿を見て、僕は仰天した。
ツ……ツインテールだ。
カイジュウの方ではない。漫画やゲーム界隈で使用される髪型の話だ。
うわー!
すごい!
ツインテール、生まれて初めて見たよ! 動きに合わせて左右の髪先が揺れてる! かわいい!
ツインテールの根元にはリボンが付いている! かわいい!
髪の色は赤くて情熱的だし、ツインテールがよく似合っている! かわいい!
そして、ツインテールの間から垣間見える耳!
改めて見ると、この子は耳が長い!
エルフである。
間違いなくエルフである。
ファンタジー世界界隈でよく生息しているエルフ族である。
でも、毛の色が赤毛なんだよなー。
エルフで赤毛って珍しい気がする。僕のイメージだと、エルフって金髪で緑色の服を着てる感じなんだけど、この世界のエルフってどうなんだ? みんな金髪なのか? それともそうじゃなかったりするのか? 分からない。この世界は謎が多すぎる!
じろじろと顔を眺めているのもなんだか気恥ずかしいので、服装に視線をやる。
このエルフっ娘は黒いマントを羽織っていた。防寒用かなー? 落ち着いた雰囲気のマントで、縁には金糸らしきものの刺繍が入っている。大人びてるなー。
マントの隙間から見えるのはー?
制服だ。
こう、あれだ。学校で着るような感じの制服だ。ファンタジーっぽい感じの制服なので安心できた。
上は分かった。
下は……ミニスカか。
ファンタジー世界でミニスカってアリなのか? 文明的にアリなのか?
それはともかくとして、ミニスカの下は黒いスパッツを履いているようだ。
なるほど、これなら風が吹いて後衛に下着を見せ付けるという謎のラッキースケベ展開を防げるわけだ。
スパッツの下はー?
黒のソックスを履いていた。下着はどうでもよろしい。
靴もシックな感じだなー。大人びている。
しかし、胸は……
小さい! 真っ平らだ!
うむ。
まあ、いいか。
生前の僕は巨乳美女に騙され、結婚詐欺に遭ったという境遇持ちだ。
最早、大きな乳はトラウマに近いなり。
別に胸が小さいとか大きいとかどうでもいいのだ。
「ちょっと! いつまでもどこ見てんのよ!」
エルフっ娘がぷんすかと顔を赤らめて怒っていた。
人間形の若い女性は自分の胸の小ささを気にするものらしいので、当然の反応だろう。
胸ばかり見ていても気まずいので、少し視線を外す。
上へ……上へ……。
胸の上、制服の襟の辺りには刺繍みたいなものが貼り付けてあった。
自分の尾っぽを食べてる蛇の刺繍だ。何かの紋章か?
いや、待てよ?
この紋章っぽいもの、RPGで見たことあるな。身を食らう蛇――確か《ウロボロス》ってやつだ。
僕はあまり錬金術には詳しくない。《ウロボロス》を見ても、無限ループみたいだなーという感想しか湧いてこなかった。
ピコン。
『スキル《無限???》の発想値が25上昇しました。
《無限???》発想値 25/100』
うおっ!? 無限ループを発想したらスキルの発想値が上がったぞ!?
スキル《無限???》って何だ? 名称不明ってことか?
もう少し発想値を上げれば《無限???》の名称が分かるのか? だったらいいんだけどなー。
そんな妄想に耽りつつ、僕は温泉から上がった。
温泉の中で戦っては受付のスライムに申し訳ない。というか温泉で決闘する方がおかしいのだが、この狂気に満ちた世界観の中にあり、僕の常識はガリガリと削れつつあった。
紳士が温泉をバックにコールする――。
「ハラペコ式・決闘ルール! 決闘領域内・ハラペコ式では全てのダメージが《満腹度低下》に変換される!」
なんだと!? どういうことだ!?
エルフっ娘は「ふん!」と鼻を鳴らした!
「分かってないようだから説明してあげるわ! この領域内でダメージを受けた者はね、満腹度が低下するのよ!」
なん……だと……?
そんな間抜けなルール、聞いたことがない。
人工闇竜に満腹度ってあるのか? 見た目は完全にロボッt……げふんげふん、甲冑っぽいのだが、胃腸ってあるんでしょうか。
多分、あるんだろう。胃腸的な何かが。もうどうにでもなーれ☆
エルフっ娘が更に怒涛の説明口撃を行う!
「要は、生命力の代わりに満腹度が減るのよ。相手にダメージを与えまくって、お腹を空かせればいいの! 決闘相手に『お腹が空きました』と宣言させれば勝ち! ね、単純でしょ?」
おいおい☆
斜め上の方向性で攻めてきたな! 殺戮を嫌う人間が描いたようなルールじゃないか!!
エルフの美少女が出てきたからと言って日和りやがって!! ここは美少女しか出てこない系の漫画雑誌の世界じゃないんだぞ!! むしろそういう世界から途轍もなくかけ離れたドス黒い世界だと言うのに!!
ははーん、さては『ここは森とリスが大好きな女の子がふわふわした感じで日常を送る系の世界です☆』と見せかけて残酷描写を描きまくって癒やしを求める異世界転生者を絶望の淵に叩き落す系の展開だな!? そういう展開はアニメで見た!! 絶対に騙されないぞ!!!
「なお、危険な場面においては審判が乱入して行動を制止する!」
タオルを腰に巻いて腕組みする紳士が宣言した!
審判が乱入するなら安心だな! うっかり☆餓死☆することもないってワケだ!
「先生! 《錬金星剣》貸して!」
「良かろう」
紳士は異次元から引っ張り出した剣をエルフっ娘に放り投げた。
それを難なくキャッチするエルフっ娘! この瞬間、僕はヤバいと感じた。
このエルフっ娘はおおよそ10才ぐらいである。
放り投げられた剥き身の剣を、10才の児童がキャッチしたのである。
いよいよ本格的にヤバイと感じた。
剣だぞ? 普通の人間だったら包丁を握るだけでも恐怖に襲われるのだ。
放り投げられた包丁をキャッチできるか? 無理だ! 地球の普通の人間には到底無理だ! 僕だって怖い!
それを――
ショートソード並の長さを持つ剣を! たかが10才児が! キャッチしたのだ!
狂気に満ちているとしか言い様がない。
なんなんだこの世界は。
ヤバイ世界に転生してしまった。僕は改めてそう感じた。
「ついでにデータ収集もしてくれると助かる」
「お安い御用よ!」
おいぃぃぃぃぃ!! 僕が冷静に分析している間に審判が決闘者に味方したぞ! ルール違反じゃないのか!?
つーかですねー、その子、10才ぐらいですよねー? 刃物なんか持たせても大丈夫なんでしょうかー? そのー、法律的にも倫理的にもー?
10才のエルフっ娘はスッと瞼を閉じると、右手で錬金星剣を構えた。
誓いのポーズか何かなのだろうか。騎士はよく誓いを立てるものだ。
エルフっ娘は目を見開くと、今度は僕に剣の切っ先を向けてきた。
「申し遅れたわね! 私の名はイリシャ・フィーム! 《錬金騎士》を目指す天才錬金術師よ!!」
沈黙が周囲を覆い尽くした。
「――ちょっと! 決闘なのよ!? あんたの名前を教えなさいよ!」
なにを言ってるんだこの子は!? あまりにも意味不明すぎて反応に困るぞ!?
しかし参ったな。僕は人間語を喋れない! ああー、早くヒトになりたーい!
「イリシャ。相手は《共通語》を話せないようだぞ」
「はあ?」
いや、こっちが「はあ?」と言いたい気分だよ!
イリシャと呼ばれた少女は、剣を振るってビシッと左の人差し指で僕を指差した。
「仕方ないわね。勝ったらあんたの記憶、覗いてやるわ!
いざ、尋常に勝負!」
待て。待てぇぇぇぇぇい!!!
なんだこの展開は!? どこから突っ込めばいいんだ!?
――僕は諦めた。
この狂気に満ちた展開を、生暖かい気持ちで、そっと受け入れることにした。
「かかってきなさい!」
夕日が沈みつつある中、イリシャが錬金星剣の切っ先を向けて言う。
僕とイリシャの周囲には結界みたいなものが張られている。
温泉の遥か向こう側に泳いでいってしまったフェリスさんとエミルちゃんは、この事態に気づいていない。決闘領域とかいう結界のせいで精神会話が遮断されてしまっているのか、何度念じても心の声が届かない。頼むから早く戻ってきてくれ。
くそう! 決闘なんて野蛮だ。野蛮な文明だ! いつか野蛮な文明を根こそぎ破壊してやる!!
僕は《剣化》したリスタルサーク2本を握り締めると、イリシャとの決闘に臨んだ。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:佐藤孝一
LV:1
種族:人工闇竜・幼生体
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神、守護の精神、巨乳美女を警戒する、古代兵器級
隠し称号:神帝から観察されている
スキル:存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV4、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、ゲーマー魂覚醒LV1
存在ストック:リスタルサーク、リスタルサーク
存在ストック上限:2/8
パーティ:フェリスのパーティに所属
隠し効果付与:神帝の観察
スキル 発想値
『《スキル交換》 50/100』
『《スキル譲渡》 50/100』
『《???》 ???/100』
『《無限???》 25/100』




