21話:温泉で明かされる驚愕の真実!
脱衣所。
それは、魔が混在する空間。
何が魔なのかはあえて言うまい。
この世界の温泉には脱衣所が存在している。それだけで僕は嫌な予感に襲われた。当然ながら、脱衣所の籠の中にはフェリスさんとエミルちゃんの鎧やら衣服やらが脱ぎっぱになってるわけで。
――なんだ?
――何なんだ、この感覚は?
――何かを見落としている気がするッ……!
何かとてつもない失敗をした気がする。
何かを……大事な何かを忘れている気がするッ!
だが、この狂った世界観に困惑せしめられし我が心には、何もかもが麻痺して見えた。
故に――
わーい温泉だー☆ あったかーい☆
麻痺した心が赴くままに、僕は温泉にどぼーんと入り込んだ。
地球における温泉のルールやマナーなど最早すっ飛んでしまっていた。それより温泉だ! 地熱で熱せられたと思われるベリー大事な湯の温かさを感じるのだ!!
オゥ、イッツマイジャスティス! 温泉イズグッドカルチャー!!
迷宮越えで疲れ果てた体と心に温泉の熱が染み込んでいく!
露天風呂最高なりー! 雪が積もった森を堪能しながら入る温泉はベリーベリー最高なりー!
嗚呼、これが人生における癒やしなのだな。
――温かい。
なんと温かいことか。
温泉の熱が五臓六腑に染み渡る。中身の無い甲冑なのに熱が染み渡るとか突っ込んではいけない。考えるな、感じるんだ。オーウ、これまでの苦難は温泉のためにあったのだ。温泉の素晴らしさを称えるのだ――。
『わーい、温泉温泉ー!』
『こらー! エミル、温泉で泳ぐな!』
ふふふ、子供が温泉に入ると泳ぐものよな。王女たるエミルちゃんとて例外ではないのだ。
温泉を泳ぎ回るエミルちゃんを追って、フェリスさんがクロール泳ぎを始めた。
うん。この狂気にも慣れてきたぞ。
僕はすっかりくつろぎモードに入っていた。
ぼんやりと湯船に浸かっている内に、頭が冷静さを取り戻してきた。
僕の頭は相変わらず、何かを忘れているぞと静かな警報をならしていた。
何かを忘れている。
それは間違いない。
だが、何を忘れているんだ?
どうも気になる。頭の中に鳴り響く警報が、僕に致命的な結果をもたらすだろうと予言しているような気分になっていた。
なぜだ? なぜ、ここまで頭がチリチリと騒ぐ?
僕は――どこで失敗した?
よく考えてみるんだ。
いつ、どこでこの警報じみた思考が頭を巡った?
温泉宿だ。温泉宿で喋るスライムを見た後だ。
この辺りから思考が麻痺していた記憶がある。
麻痺した記憶を解いて中身を観察するために、僕は両腕を組んで思案した。
考えろ。
考えるんだ。
地球の日本では温泉に入る時に何をしていた?
日本人は脱衣所で服を脱いでから温泉に入る。
今の僕は服を着ていないらしい。甲冑なのに服を着ていないとはどういうことか? なぜお湯を肌の感覚で味わうことができるのか? 多分、アレだ。この甲冑こそが僕の肌であり皮膚なのだ。服を脱がずに入浴でき、しかも、お湯の感覚を正常に味わえるということは――つまり、僕は常に全裸だったのだ!
あまりにも盲点すぎて普通に気づかなかった。
やべーな。僕、全裸だったのか。ということは幼女の前で全裸で戦っていたということになるのか?
幼女を守るために戦う全裸の戦士。地球の日本だったら間違いなく事案だ。
ここが異世界で助かった。ついでに言うと人外で助かった。人間として生まれていたら、初戦において男性器を露出させて戦う羽目になっていただろう。恐ろしや。
えーと、なんだっけ。思考が逸れたな。
そうだ、生殖器だ。
この世界にもオスとメスの概念はある。フェリスさんとエミルちゃんはあまりにも堂々と僕と一緒に温泉に入ったがために完全に感覚が麻痺していたが、彼女らは一応、女性なのだ。
その……アレだ。あまり大きな声ではいえないが、女性としてのアピールポイントとかもばっちり見てしまった。フェリスさんはどうも着痩せするタイプらしく、いわゆるボンキュッボンな体型だった。非常に俗な言い方をすると、おっぱいが大きかった。EかFカップぐらいはありそうな気はしたが、そこまでおっぱいが大きいと『戦闘時にクーパー靱帯が損傷するのではないか?』という疑問を抱かざるを得なかった。
クーパー靱帯は大事だ。地球の日本ではクーパー靱帯は切れたら二度と元には戻らぬ靱帯と語り継がれてきた。もしクーパー靱帯が切れてしまったら、乳が垂れてしまうのだ。スポーツ選手は過酷な運動をするがためによくクーパー靱帯が切れると言う。ゆえに、僕はフェリスさんのクーパー靱帯を守らねばと思った。何しろ僕は《巨乳美女を警戒する》称号持ちなので、乳よりもそれを支える筋肉や靭帯、強いては乳をここまで育てさせる栄養豊富な環境を守りたいと優先的に思ったのだ。
エミルちゃんは典型的な幼女体型だった。詳しく語ると犯罪臭がするので語らないが、愛おしい存在だと思えた。今にも折れそうなぐらい華奢なので、守らねばと堅く誓った。
――しかし、2人ともあまりにも堂々としている。堂々とマッパになって温泉を泳ぐぐらいだったので、僕は彼女らに性的興奮を一切覚えなかった。
いやいや、待て。待てよ。
異性の生身のボディを見ても一切の性的興奮を覚えないなんてことがあるのか?
うーむ。肉体は精神の入れ物にすぎないとも言うしな。
今生の僕は人工闇竜・幼生体だから、人間に近い形状の生物には欲情しないのか?
あの2人も僕のことをいっさい気にしていないようだったし、ひょっとして僕、男として見られてないのか? その意識が僕の魂に伝染して、性的興奮を剥奪せしめたのか?
有り得る。
いや、待て。問題はそこじゃない。
そもそもの話をしよう。
どうしてこの温泉は、男女一緒に入れるんだ?
ハッ!
そうか!
この温泉、男湯と女湯に分かれていないんだ!
この温泉は――混浴だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
なんということだ。
なんということだッ!
まずいことになってしまった!
ここは混浴! いつ誰が入ってくるともしれぬ魔の空間ッ!
二足歩行するメスの竜が温泉に入ってきて、僕をしれっと誘惑してくる可能性だってあるのだ! 人工闇竜・幼生体である僕はその誘惑に耐えられるのか!? 耐えられる自信は多分無い! 僕はケモナーではないが、肉体は精神の入れ物にすぎない理論に基づき、人工闇竜・幼生体としての生殖本能が目覚めてしまうとも限らないのだ!
くっ、そんな事態になっては僕のハーレム拒否信念が覆されてしまう!
いかん、遺産相続を巡る争いが勃発してしまう! そうなったが最後、僕の子孫たちが血で血を洗う紛争を引き起こしてしまうに違いない!
こうしてはいられない! 一刻も早くこの温泉から脱出せねば!
ごつーん☆
お湯から出ようとした瞬間! 僕の脇腹に何かが当たった!
嫌な予感がむくむくともたげてきましたよ。
「――いったぁぁぁぁっ! なによ、このデカブツはっ!?」
ぎゃああああああああ!! 喋ったああああああああああああああ!!
湯気が香る温泉から出現したのは、かわいらしい赤毛の少女! 無垢な体に水滴をまとわりつかせた、人間の……いや、エルフだッ!
長い耳を持つ、どこからどう見てもエルフにしか見えない、エルフの少女だッ! エルフの少女が温泉を泳いで僕の体に当たってきたのだッ!!
うわあああああああああああああああ!! もうだめだああああああああああああ!! 僕の貞操が奪われるううううううううう!!
「――何事だ?」
ダンディな声を響かせ浴場に現れたのは、背中に鷹の翼を生やしたナイスミドルな紳士だった――。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:佐藤孝一
LV:1
種族:人工闇竜・幼生体
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神、守護の精神、巨乳美女を警戒する、古代兵器級
隠し称号:神帝から観察されている
スキル:存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV4、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、ゲーマー魂覚醒LV1
存在ストック:リスタルサーク、リスタルサーク
存在ストック上限:2/8
パーティ:フェリスのパーティに所属
隠し効果付与:神帝の観察
スキル 発想値
『《スキル交換》 50/100』
『《スキル譲渡》 50/100』
『《???》 ???/100』




