フェリス視点:騎士の使命
フェリスには、カーンの行動の意図が難なく理解できた。
カーンは、光線を放つ《クラッツバイン》からエミルを庇ったのだ。
フェリスは咄嗟にエミルを連れ、その場から跳躍した。
カーンの意図を察したからこその行為だ。
(このような時にスキルを使えないとは……不覚ッ!)
クラッツバインとの戦闘の最中、フェリスは魔力切れを起こしていた。これでは《光竜光波斬》と《光波盾》は使えない。
恐らくは、カーンもフェリスの魔力切れを察知したに違いない。故に、あえて自身を盾とすることでエミルへの光線の直撃を防いだのだ。
カーンの行動を無駄にするわけにはいかない。フェリスは凍てつく山道を削って着地すると、エミルを自身の背後に隠れさせた。
カーンのお陰でエミルを敵の攻撃から回避させることには成功したが、ここから先はどうする。《光竜光波斬》が使えない現状では、決め手に欠ける。
スキル《半竜化》はまだ使えない。あのスキルは一週間に一回しか使えないスキルだ。以前に《半竜化》を使用した日にちは、六竜歴1557年12月13日。まだ一週間も経っていない。
両手を組んで体を震わせるエミルの鼓動が、元素越しに伝わってくる。
怖いのだろう。エミルはまだ7才の少女に過ぎない。彼女に戦闘を強いるのは流石に酷と言うものだ。
エミルを戦闘に駆り出してはならない。彼女に戦わせてはならない。
――そうだ。今は亡き国王と大臣に誓ったはずだ。
万が一にもエミルが《竜化》したとなれば、王位継承権が崩れかねない。
リレイン国が崩壊した今、王位継承権に何の意味があるのか定かではない。だが、例え世界が灰燼に帰したとしても、国を守るうのは騎士の務め。
嗚呼、だが、しかし、この状況で振るえるのか? この《対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態》を。
(なんと弱気な)
逆境に遭い震える内心を、フェリスは鋼の精神で御した。
今は心折れる時ではない。命尽きる時まで、国に全てを捧げる。国民を、国を守る。それが騎士の務めなり。
フェリスは《対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態》を構えた。
(カーン殿があれほどまでに踏ん張ってくれているのだ。客人の手前、命に賭してもエミル王女は守ってみせるッ!)
残された手段はただ一つ、《対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態》に秘められたスキルだ。
この世に遺された古代兵器には、装備者にスキルを一時貸与する機能が備わっている。フェリスが手にする《対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態》こそ、その古代兵器の1つなのだ。
《対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態》に秘められし一時貸与スキルは、《寿命燃焼・超絶限界加速》。
その名の通り、自身の寿命を燃焼させることで敏捷性を限界突破させる一時貸与スキルだ。
(このスキルを用いて、状況を打破する!)
フェリスが《対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態》に寿命を注ぎ込もうとした、その時だった。
黄金に輝く光がカーンの体内から溢れ出し、周囲を明るく染め上げた。
(なんだ!? 何が起こっている!?)
背後に佇むエミルが顔を上げた。
恐怖に震えていたはずの少女が、尊敬と信頼を混在させた声音で告げる。
「――来るよ」
なに――?
エミルの言葉の意図を逡巡するフェリスを余所に、眼前で奇跡とも呼べる現象が起きた。
カーンの姿が変貌した。
漆黒の馬騎士だったカーンが黒き甲冑姿となり、背中に闇の翼を生やす。
(闇の翼!)
エミル曰く、カーンは闇竜神の候補だと言う。ならば闇の翼を生やすのは納得もできよう。
度肝を抜かれたのは、カーンの背後に出現した12本の剣だった。
(――何だ、あの剣は)
煌く輝きを纏った12本の剣がカーンの背後で円を描き、後光を放っている。
――この輝きは、伝承の彼方に在る黄金竜神の輝きに匹敵するのではないか?
不遜にもそう思ってしまう。フェリスは《寿命燃焼・超絶限界加速》の発動を中断し、カーンが放つ輝きに見入った。
(カーン殿。やはり、貴殿なら……)
未だ見ぬ輝きを眼前にして、フェリスの胸中には希望が芽生え始めていた。




