8話:外道ですいませんでした
4つの魔法が合体した魔法球(仮)。受け切れるか?
まあ、受けるんですけどね!
背後のエミルちゃん(王女)をかばうため、僕はあえて魔法球の直撃を食らうことにした。
どうしてエミルちゃんをかばうのかって? 理由は2つあるなー。
ひとーつ! 自分の良心に従ってるからだよ! 助けを求めてる幼女が自分のせいで死なれちゃ寝覚めが悪いわ!
あ、残りの半分は王女に恩売っておけばコネ作れるなー、有益だなーというゲスい理由です。
うーん、僕って割とゲスいな。汚い大人だなー。生前は38歳だからそんなもんだよなー。
そんな下らない思考をハムスターの如く頭の中で回転させている間に、魔法球(仮)の直撃を食らった。
すまんな、下半身のナイトメア君。同化している君だけが頼りなんだ。耐えてけろ。
――結論。
アサシン盗賊4人が放つ魔法球(仮)は、めちゃんこ痛かった。
うぐぅ! いてぇ! 熱い! 体中が沸騰するような感覚だ! 人(?)に向かってこんな魔法使うんじゃねーよ! 痛いし熱いし苦痛のあまり気絶しそうになったわ!
急速に減少していくHPゲージ。今の一撃で半分持っていかれた。
あ、あぶねー。折角チートスキル使ったのに敵の方が上手でした、てへぺろーとか無しだからな!
ちなみに、魔法球(仮)の威力はやっぱり凄かった。
余波で、周囲の大気(存在が確定しているのかは定かではない)がビリビリ唸ってる。周囲の床を構成する鏡も溶解しておった。
あぶねーーーーーーーー! なんつー威力だよ! ここで僕が避けてたらエミルちゃん蒸発してたわ!
あまりの威力に、エミルちゃんはビクついてた。可哀想に、エミルちゃんは僕のナイトメア君の後ろ足にすがりついてた。
そりゃそうか。こんなバカ火力、間近で見せ付けられたら誰だってこうなるわ。僕だって二度と食らいたくないわ、こんな魔法。
ピコン。
『称号【忍耐の精神】を獲得しました。称号【守護の精神】を獲得しました』
あ、うん。2つの称号を貰ったのは嬉しいんだけどさ、ちょっとそれは後回しにしておくね?
「ぬぅっ、馬鹿な! 【連携陣・攻】でもとどめを刺せんとは……!」
盗賊連中がなんか言ってた。
うるせーよ! だまらっしゃい! と言いたい気分だった。が、僕には口が無いので発音できないのだった。残念。
「度々申し訳ないが、背後から失礼する!」
「うぐっ!」
女騎士さんが背後から盗賊Dを斬り付けた。
さっきから何なんだ、この女騎士さんと盗賊は。ギャグか? ギャグなのか?
「クソッ、魔力切れを起こしてやがる!」
「撤退だ! 撤退! てったーい!」
こいつらホントにアサシンなのか? 盗賊かどうかすら怪しいぞ。
やたらと無様な言葉を残して、盗賊集団は左側の通路に走り去っていった。
深追いはしないでおこう。さっき【人殺し】とかいう称号を獲得しちゃったから、これ以上殺人をするのは危険な気がする。【傲慢LV1】とかいうやばげなスキルも獲得しちゃったし。
一応、盗賊の死体はこの場に残ってるけど、所持品を奪おうか? いや、これもダメな気がする。
『アルティメットオンライン』じゃ人間の死体から道具を奪うのは悪行扱いだった。この世界じゃどんな法則が働いているのか分からないのだから、用心に越したことはない。
ま、脅威は去ったわけだし、ゲージとステータスでも確認しておきますか。
HPゲージは残り半分。どこかで回復できればいいんだけどなー。
MPゲージは全然減ってない。
SPゲージは四分の一減ってる。
あ、あれか。《疾走撃》使ったからSPゲージが減ったのか? なんでMPゲージじゃなくてSPゲージの方が減るんだ?
ちょいとこれは謎だな。後で調べてみよう。
で、ステータス。
『ステータス
本名:佐藤孝一
LV:2
種族:不明
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神(NEW!)、守護の精神(NEW!)
スキル:存在同化、自動翻訳、情報把握、地属性耐性、疾走撃、その他色々なスキル、傲慢LV1
存在ストック:ナイトメア
存在ストック上限:1/3』
んー? ふむふむ。【存在同化】できる数は上限があるみたいだね。
今のところ、存在ストックは1/3。あと2体まで存在同化できるってことなのかな。
てか、【存在同化】したMOBってリリースできるのかな? リリースしないとあっという間にストック上限に達しちゃうんだけど。
試してみよ。出ろ、ナイトメア!
……。出ねー。
もう1回試してみよ。今度はノリノリでやってみよ。
出でよ、ナイトメア! 我が命に従い、黒き旋風を引き起こせ!
ピコン。
『スキル【同化存在解放】を獲得しました』
あ、出来るようになったっぽい。
つーか、考えただけでスキル獲得できるとかスゲーな! 妄想が捗るじゃないか!
そんなどうしようもない思考をハムスター的に回していた僕とエミルちゃんに、女騎士さんが近寄ってきた。
「大丈夫ですか、王じ……いや、エミル。怪我はないか?」
今、思いっきり王女って言おうとしたぞ! 大丈夫か、この女騎士さん! 機密情報の扱いがガバガバすぎるぞ!
エミルちゃんは僕の棺桶を見上げると、そっと表に出てきた。
「うん、大丈夫。使徒様のお陰だよ」
「使徒……? このお方が?」
女騎士さん、呆気に取られてる。
てか、なに? 使徒って何よ?
よく分からないので棒立ち(尻尾をとりあえず振っておく)の僕に、エミルちゃん(王女)が振り向く。
その声には、明らかに憧れが混じっていた。
「使徒様だよ、きっと。六竜神様が遣わしてくれたんだ」
うっ。なんかややこしい話になってきたぞ。宗教っぽい話は苦手なんだけどなー。
誰かー、説明してー。説明、プリーズ。
女騎士さんは空気を察して、僕の前に一歩歩み出た。
深々とお辞儀すると、女騎士さんはご丁寧にも自己紹介をしてくれた。
「この度は、申し訳ない。貴殿の助太刀に感謝する。私の名はフェリス・ウェインと言う。
わけあって、この子を――エミルを連れて旅をしている。
よろしければ、貴殿の名を教えて頂けないだろうか」
●ステータス
本名:佐藤孝一
LV:2
種族:不明
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神(NEW!)、守護の精神(NEW!)
スキル:存在同化、自動翻訳、情報把握、地属性耐性、疾走撃、その他色々なスキル、傲慢LV1、同化存在解放(NEW!)
存在ストック:ナイトメア
存在ストック上限:1/3