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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第三章:魔王の日常
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西暦2451年:スキルシステム

地球の話です。


 ――地下シェルター内、シアタールーム。

 そこでは、過去の地球の映像がスクリーンに目一杯映されている。


 学習のために過去の映像を眺め続ける実験体1555の隣席に、実験体1125が腰かけた。


「また飼い猫に引っかかれたのか」


 猫の爪で引っかかれた頬の傷を見て、実験体1125が言った。


 実験体1555は、通路に去っていく黒猫の後ろ姿を一瞥すると、肩を竦めた。


「あいつは誰でも引っ掻くし、パンチもする。枕は占拠するし、パソコンの電源ボタンを連続で押しまくったりする。

 どうしようもないぐらいに手の付けられない暴れん坊なんだ」

「そんな凶暴な生物をよく飼う気になったな」

「人間から押し付けられたんだ」

「その人間は鬼か悪魔の親戚なんじゃないか?」

「瀕死だったんだよ。死に際に『この子を頼む』と言って、飼い猫を押し付けてきた」

「ふーん。大変だな。

 このご時世だ、絶滅危惧種とは言え猫一匹飼うのも楽じゃないだろ」

「お陰様で、支給品の消耗が増えて、仕事も増えた。

 だが、見ていて飽きないものがある。これが『面白い』という感情なのかもしれない。『困る』という感情の方が上回っている状態ではあるが」

「そうかいそうかい。ところで、その猫……ええと、名前はなんてったっけ」


 実験体1555は頬の傷に意識を集中させた。

 人の細胞が持つ肉体治癒能力。その一端が一時的に異常値に突入するほど活性化し、たちまち傷が癒えていく。


「イリシャだ」

「そう、それそれ。イリシャも楽園の種子(エデン・シード)を埋め込まれるんだろ?」

「そうなるな」

「で、ワームホールゲートを使って異世界に転送されると」

「それは俺たちも同じだ」

「こちら側の話はどうでもいい。

 俺様が聞きたいのはお前さんの感情だよ。その猫が俺らの知らない世界に行くと知って、『寂しい』っていう感情は得られたか?」

「まあ、少しは」


 人工子宮から生まれてきた実験体たちは皆、感情が希薄だ。共感性も薄く、人間の抱く感情への理解度も低い。


 だから、実験体たちは積極的に学んでいる。人間が抱く感情という概念の正体を。


「何に使うんだろうな、人間の感情なんて」


 実験体1555の呟きに対し、1125は冷静に問いかける。


「ここ最近の実験の内容を覚えているか?」

「仮想人格形成実験、多重記憶移植実験、非破壊式魂魄転写実験、破壊式魂魄転写実験、魂魄圧縮、魂魄解凍、魂魄憑依、疑似人格回路形成法などなど。実験のオンパレードだ」

「いい加減、うんざりしてきたか?」

「いや。だが、どのような目的の下に、このような実験を行っているのかを知りたい」

「『疑問』と『好奇心』ってやつだな。

 いいじゃないか、人間っぽくなってきた」

「お前ほどじゃないがな」

「言えてる言えてる」


 実験体1125は、「ははは」と笑った。

 実験体1555は、その笑いにどのような感情が含まれているのか理解しかねた。


「ま、疑問を抱いたまま任務を実行するとストレスになる。ストレスは脳を破壊する。それは良くない。非常に良くない。

 そこで、お前さんよりも上位の権限を持つこの俺様が、特別に教えてやろう」


 実験体1125は、胸を張って言った。


「よく聞け。実はな、これらの実験は、異世界で使用する新システムの基礎なのさ。

 その名も、スキルシステム! どうだ、驚いたか?」

「俺には難しいことは分からない。何なんだ、スキルシステムというのは」

「この俺様が独自入手したマニュアルによるとだな……えーと、なになに?

 ――『スキルシステムは異世界の原住民に有利なシステムとして機能する。一見すると原住民に利を与えているように見えるが、スキルシステムに内包されたスキルを使用する度に原住民の脳内神経網に疑似人格回路が形成されていき、最終的には量子ネットワークを通じて、スキル使用者の人格を乗っ取る』らしい。

 俺様が言うのも何だが、こりゃあ大したシステムだよ。まあ、前提条件として俺ら地球人に破壊式魂魄転写を行い、ネットワークに人格と記憶を移す必要があるってのがネックだが」

「どういうことなんだ?」

「魂が量子情報で出来ているのは知ってるだろ? 破壊式魂魄転写ってのは、ニュートリノを使って肉体を原子分解し、魂をネットワークに保存する方法なんだよ。

 こいつのメリットは、非常に精度の高い転写が可能になる点だな。ほぼ100%に近い精度で魂をネットワークに転写できる。これは非破壊式魂魄転写には無いメリットだ。

 一方で、破壊式魂魄転写の最大のデメリットは、肉体が無くなっちまうって点だ。一度でも破壊式魂魄転写を行ったら、現実空間における肉体は完全に破壊され、魂だけがネットワークに保存される」

「肉体が無くなったら意味が無いんじゃないのか?」

「そのためのスキルシステムなんだよ。

 肉体が無くなったら、肉体を借りてしまえばいい。スキルシステムを通じて、異世界の原住民の体を乗っ取ればいいのさ。そのために、()()()()()()()()()()()()()

 借りた体が破壊されても、魂はネットワークに帰る。スキルシステムを異世界に定着させれば、俺ら地球人は潜伏性の疑似不老不死を獲得できるってわけだ。

 ま、分かりやすく言えばトロイの木馬と同じだな。

 俺らは自分自身をアプリケーション化して異世界に送り込み、異世界の原住民の魂をハックする。ハックに成功したら、原住民同士を争わせて自滅させるって寸法さ」


 実験体1555は、難しい説明は分からない。

 だが、何となく理解できることもあった。


 実験体1555は、疑問を実験体1125にぶつけた。


「全ての異世界が滅びた後に、俺たちはどうなる?」

「さあ?」


 実験体1125は、実験体1555を真似て、肩を竦めてみせた。



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