オーク兵視点:魔王【ベルゼブブ】との遭遇
オーク兵視点(一人称)の話です。
「恐竜は魔法を使えないぞー! ウラァァァァ、突撃だぁぁぁぁ!!」
先輩オーク兵が鬨の声を上げ、槍を掲げてエルフ軍団に突撃します。
「魔法を使えないならこっちのもんッス! フェリス師匠直伝スキル――」
「なに!? フェリス教官のスキルを使えるのか!?」
密かにフェリス教官を口説こうとしていたオーク兵たちが反応します。
私も女なんですけどね……。まあそれはいいです。
魔王カーン様より賜った【ミスリルスピア】を媒体として、私はスキルを発動しました。
「――というのは嘘ッス! 【緑樹浸波斬】ー!!」
「うぎゃああああああ!?」
緑色の闘気が斬撃と化してエルフの軍勢を襲い、大量の花粉を撒き散らします。
エルフたちは止まらぬ涙とくしゃみに襲われ、狂乱していきます。
「ごっほごっほ、なんだこれは! 涙が止まらぬ!」
「毒か!? 毒だな!」
いいえ。花粉です。
フェリス教官の特訓を受ける最中に習得した、地属性のスキルなのです。
「やるじゃないか、後輩!」
「おッスおッス!!」
魔法と物理の複合範囲攻撃スキルは便利です。フェリス教官と出会えて良かった――心の底からそう思いました。
ピコン。
おや? 何やら頭の中に響く声が。
『進化の風が吹きました。【オーク】から【オークド・ドライアド】に進化します』
!
こ、これはっ!
噂に聞く【進化】です! 私は光の繭に包まれ、【オークド・ドライアド】に進化しました!
「お、おおッ!? 進化したッス!」
胸とお尻がふくよかになり、お腹がスレンダーになりました。
胸が平らだったことがコンプレックスだったので、これは中々に劇的な変化です。
「こ、後輩! お前、進化したのか!?」
「はいッス! 行くッスよ、先輩!!」
目を丸くする先輩オーク兵の前に立ち、私は【ミスリルスピア】に意識を集中させました。
私の体から伸びた蔦が【ミスリルスピア】に絡みつき、以前とは比べ物にならない魔力が通います。
これならやれます。
私は襲い来る恐竜の爪をミスリルスピアで払いのけると、再びスキルを発動しました。
「【緑樹浸波斬】ーッ!!」
緑の衝撃が前方一帯を襲いました。
効果は抜群です。進化したお陰でスキルの威力も上がったのか、さっきよりも大量のエルフを仕留めることに成功しました。
巫女スライムがせっせと異次元にエルフを収納していく中、私は上機嫌に笑顔を振り撒きました。
「この調子で押せ押せガンガン行けッスー!!」
「――調子に乗るなよ、オークめがッ!」
「ヒエッ!?」
貴族です。
空を飛ぶ恐竜に乗って、貴族のエルフが現れたのです。
金細工が施された豪奢な服に身を包み、筋骨隆々とした貴族エルフは叫びます。
「俺の名はネーロ・キャピレ! 貴様らを食らい尽くす貴族だッ!」
「貴族だとッ!?」
先輩オーク兵が警戒を露わにします。
「まずいッ! 奴に近寄るな、後輩! 記憶を奪われるぞッ!!」
「エッ!?」
記憶を奪われる?
それはどういう……?
ネーロと名乗るエルフは拳を天高く掲げました。
何やら陽炎のようなものがネーロの背後で揺らめきます。
「俺と同化しろ、【ベルゼブブ】!
――奴らを食らい尽くせ!!」
次の瞬間、衝撃が私たちを襲いました。
――黒い波。そうとしか形容しようのない何かが、空間を貪っていくのです。
私たちは抗う余裕もなく、黒い波に呑み込まれました。
黒い波が私の意識を食らっていきます。
ああ、どんどん意識が遠ざかっていきます。
薄れゆく意識の中、最後に私が目にしたものは、魔王――。
「――【ベルゼブブ】……」
伝承の彼方に消え去ったと聞く、古き蝿の魔王。
ネーロというエルフを依り代にして、【ベルゼブブ】が顕現したのです――。