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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第三章:魔王の日常
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イリシャ視点:マシーナ外層『見捨てられた地』

イリシャ視点の話です。


 曇り空がどこまでも続いている。

 暗雲広がる空から降り注ぐは重金属雨。腐食の雨が視界を覆い尽くす。



 とめどなく雨に濡れた高速道路。

 今もなお電力が通っているのか、チカチカと点滅する外灯。

 道端に視線をやると、風化した車や重機が打ち捨てられている。




 ――ここは演劇世界【マシーナ】。

 ウラグルーンとは異なる文化を擁する世界にして、機械的発展を遂げた世界。




 雨に打たれるイリシャは、安らげる場所を目指して街を徘徊する。


 視界に映るは、倒壊した高層鉄屑ジャンクビルの群れ。

 主を失った高層鉄屑ジャンクビルは重金属雨に晒され、骸を露わにしていた。


「人っ子一人いないわね」


 高層鉄屑ジャンクビルを訪ねても、人気は無い。

 雨を払ったイリシャは、静寂が覆う高層鉄屑ジャンクビルの中を歩む。



 通路の至るところに設けられた扉は、その全てが電子的に施錠されていた。

 イリシャは手にした剣で扉を斬り伏せ、部屋の中を見て回る。



 ある一室には、銃器が壁に飾られていた。

 ある一室には、弾薬が眠っていた。

 ある一室には、エネルギーゼリーが大量に保管されていた。




 ――初めて目にするはずなのに。

 ――知らないはずなのに。



 次々と名前が思い浮かぶ。



 銃器。弾薬。エネルギー。知らないはずの単語が次々と脳裏に蘇ってくる。



(知っている……?)



 金属の匂い。火薬の匂い。合成食料の匂い。



 この世界で目にする全てが、イリシャにとっては知らないものであり、同時に、どこか懐かしさを喚起させるものであった。


 イリシャは初めて感じるはずの感覚に懐かしさを覚え、戸惑った。


(私は知っている? この世界を?)


 自己の感覚に埋没するイリシャの意識を呼び覚ますかの如く、外から振動が伝わる。


 ぴりっ、と空気が揺れ動いた。


 咄嗟に床に伏せたイリシャの身に、砕け散ったガラスの破片が降り注ぐ。


 一拍遅れて、衝撃と音の塊が部屋を襲った。


「――ぐっ」


 耳障りな音波が高層鉄屑ジャンクビルに響き渡り、共振現象を引き起こして砂のように崩れ去る。


 イリシャは稲妻の如く疾く去り、別の高層鉄屑ジャンクビルの屋上に次元移動した。


 音速を超える速度で襲い掛かる超音波攻撃に対し、次元移動で回避する――

 この芸当は、イリシャが竜機フレースヴェルグになったからこそ出来る行為だ。

 


 しかし。

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 銀雨降り注ぐ曇天を飛翔する機体が5機。



 そのいずれもが、【竜機フレースヴェルグ・フェイズ10】だった。



 機械仕掛けの竜たる【竜機フレースヴェルグ・フェイズ10】は、両肩部に搭載された二挺のマシンガンをイリシャに向けて発砲する。


(どうしてこんなところに竜機フレースヴェルグがいるのよ)


 90mm徹甲弾の連射に対し、次元移動を繰り返して回避する。

 戦いを契機としてフラッシュバックが引き起こされる。イリシャの脳裏に閃いたのは、自分がウラグルーンに送り込まれた経緯だった。



 そうだ。

 何を忘れていたのだ。



 イリシャという存在は、元々、マシーナ側だった。



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 イリシャはこの時、確かに思い出した。

 自分が侵略する側の人物であった事実を。



 だがしかし――それが何だと言うのか。



 イリシャは回避行動の最中に拾った銃器と弾薬を合成した。人工聖水剣アルケミックホーリーソードが描く虹色の虚空に銃器と弾薬を投げ込み、新たな武器を合成する。



 今となっては錬金術の真理が分かる。

 次元橋【ビフレスト】を通じて物質を十一次元に転送し、分解・再構成を行う。データを十一次元存在に回収して貰った後、用済みとなった物質を【ビフレスト】を通じて三次元に落下させて貰う。

 錬金術の【合成】とは、このプロセスによって成り立つわざだ。合成を行った時点で必要なデータは【主】に回収されており、三次元の住民はそこから零れ落ちた残滓を利用しているに過ぎない。



 そう。

 全ては残滓に過ぎない。



 分かってしまうと下らないものだ。

 あれもこれも、全て下らない。

 その下らないものの中で、我々定命の存在は生きている。



 イリシャは冷徹に標的を見据える。拾った銃器と弾薬を合成して手に入れた【対物狙撃砲】を構え、【竜機フレースヴェルグ・フェイズ10】を狙い撃つ。



 驚くほど簡単にトリガーを引けた。

 トリガーを引くと同時に、次元移動を行い、全ての時間と角度から敵を狙撃する。



 躊躇する必要は無い。

 戦うためのすべは、全て魂が覚えていた。



 無人のコックピットに被弾した竜機が爆発、炎上して落下した。



 墜落する5体の竜機を見届けたイリシャは身を翻す。



 ――行こう。


 我らが偉大なる父たる身食らう蛇(ウロボロス)に、全てを問い質すのだ。



 生きる意味を。

 なぜ生まれてきたのかを。



 己の使命を思い出したイリシャは、雨が降りしきる高速道路を歩き続ける。


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