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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第三章:魔王の日常
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ミゼルローン視点:ぐうの音も出ない

ミゼルローン視点の話です。


 順調だった魔王殺害計画は、100万℃と化した魔王カーンによって阻止された。


 100万℃の魔王の体当たりによってアリシアは墜落し、広場に穴を開けて周囲を溶解させた。

 アリシア自体はスキル【暗殺無効】の効果によって無傷だ。ロミオンとジュリエンもまた、精霊【フェニックス】と精霊【フレイヤ】の加護によって被害を最小限に抑え込んでいた。


 ――ところが! かの魔王はアリシアにこんな戯言を吹き込んだのであった!


「勇者よ。お前たちは戦うべき相手を間違えている。

 我が国は1日8時間以下の労働、昼寝おやつ付きのホワイトな職場だ。

 ――しかも!」


 ミゼルローンは周囲に吹き荒れる熱風と衝撃波とその他諸々を適当な魔法でガードしつつ、内心で絶叫する。


(や、やめろ! やめろ、カーン!! それ以上勇者を誘惑するなぁ!!)


 ――魔王は残酷な真実を告げた。


「――働きたくない者は働かなくても良い!」


 その時、アリシアに衝撃走る――。


「――働かなくてもいいの!?」

「うむ!」

「1日21時間カカオ栽培しなくてもいいの!? 3時間以上寝られるの!? 夜中の3時に魔族に襲撃されなくても済むの!?」

「う……うむ。勇者よ。お前がどういう境遇にあるのかは分かった。お前がそこまで苦しむ必要はないのだ」


 アリシアの境遇の一片を聞いた魔王は、精霊魔法【フレア】を解除した。

 辺り一帯がドロドロに溶けて超高熱を発する状況になっていたが、魔王もアリシアもロミオンもジュリエンもミゼルローンもフラスフィンもダメージが0だ。際限の無いパワーインフレとは恐ろしい。

 むしろ街を修理する方が痛手と言えるだろう。何しろ修復費用は魔王持ちなのだから、魔王を討伐する勢力としては、魔王の財産が減るのは勿体ない出来事であった。


「働きたくない者は働かなくても良い? ぼくには絵空事のように思えるよ」

「我輩には農家ルート最終形態ファイナルフォームの力がある」


 至極真っ当な意見を述べるロミオンに、魔王カーンは農家の力を主張した。


「農家ルート最終形態ファイナルフォームの力によって我が国の土地は常に肥沃であり、絶えず果実が実る」


 魔王カーンがマッハ22ぐらいの速度で飛び立つ。次の瞬間には、魔王は山盛りのリンゴを抱えて勇者パーティにお裾分けした。


「これは南の農園で出来たリンゴだ。食べてみると良い」

「むしゃむしゃ。あら、美味しいですわ」

「もぐもぐ。毒も入っていないようだね」

「わたしも食べるー!」


 シャリシャリもぐもぐ。


 天然リンゴのあまりの美味しさに、アリシアの瞳が輝いた。


「おーいしー! じゅーしー!! ねぇねぇ、このリンゴ、もっと食べてもいい!?」

「うむうむ、たんとお食べ」


 アリシアがもぐもぐとリンゴを貪る間、魔王カーンが両腕を広げて演説する。


「このように、我が国は富を有している。華桜国とは同盟を結んでおり、資金面や軍事力の面においても保障されている。

 この富は有効的に国民に還元されている――」


 ぐぬぬ、とミゼルローンは眉間に皺を寄せた。

 事実、魔王カーンによる純粋人間族解放令や公営ダンジョン事業によって、純粋人間族のみならず多くの者が富で潤いつつある。

 魔王カーンが有する戦闘能力の高さもまた、この国における長期間の富を保証させると想像させられるものであった。

 王の強さは国の強さの証だ。強さこそが信頼に繋がるのだ。


 しかし、それでも許せないものがあった。

 結晶迷宮の発掘事業である。

 ミゼルローンは墓守の末裔だ。墓守としては、墓を荒らす魔王の所業は絶対に許せぬ行為であった。


「勇者よ。倒すべき敵は別にいるのではないか?」


 魔王カーンが再度問いかける。

 アリシアとロミオンとジュリエンが顔を見合わせる。まずい。このままでは勇者の信頼を失ってしまう。

 ミゼルローンは魔王カーンの失策を糾弾した。


「オールス国の件はどうする! 此度の争乱は貴様が招いたことであろう!」

「元々はオールス国側が仕掛けてきたことだ。我輩は防衛しているのみ」

「何をッ、このッ、フラスフィンの駒如きが――!」

「ちょっとちょっと、待って待って!!」


 竜神同士の諍いにアリシアが割って入った。

 聖剣【世界守護剣ワールドガード】をぶんぶん振り回すアリシアの姿に、カーンとミゼルローンが後退る。


「聞いていた話と違うわよ、ミゼル。魔王カーンはちゃんとした統治をしてるじゃない。悪い魔王には思えないわよ」

「こやつが戦争を起こす発端を担っているのは確かだ!」

「否定はせん。リレイン国の土地を買収したのは我輩だ。土地の買収が戦争に結びついたと言うのであれば、我輩にも非はあろう」


 魔王カーンの言葉をロミオンとジュリエンが肯定する。


「意外とまともですわね」

「うん。意外とホワイトだ」

「意外とは余計だ」

「くっ」


 最早これまでか。

 魔王カーンの印象操作は失敗だ。最初にカーンと出会った時は、使える駒、あるいは自身の後継者程度にしか思っていなかったが、数年という月日はカーンをこの世界に適応させるに十分すぎたようだ。

 ミゼルローンはカーンの成長ぶりに内心驚愕と感嘆を覚えつつも、踵を返した。


「……ふん。今日のところは見逃してやろう。

 だが、魔王カーンよ」


 捨て台詞としか思えない言葉が次から次へと湧き上がってくる。

 ミゼルローンは怒りで頬をひくひくとさせながらも、威厳を保つために鼻を鳴らした。


「――貴様は墓守りの一族の怒りを買ったのだ! それだけは覚えておけ!!

 行くぞ、勇者パーティよ!!」

「じゃあね、魔王さん」

「ごきげんよう、カーン様」

「バイバーイ!」



 ミゼルローンは舗装されたミスリル道路をドスドスと踏み鳴らし、勇者一行を引き連れて首都ゴルバンから退場したのだった――。



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