0-5:魔王の日記(同化の仕組みと楽しい工作と予知夢)
六竜歴1560年7月1日:
【貪欲の黒剣】を修理して貰うためにガイン・ガームを探しましたが、見つかりませんでした。
どうやら勇者(仮)のメンバーは巧妙に身分を偽装して各地に潜んでいるようです。もう少し調査に時間をかける必要があるかもしれません。
六竜歴1560年7月2日:
リレイン国跡地に派遣した冒険者が六竜神殿本部を発見しました。報告によると、六竜神殿本部は既に崩壊しているようです。
六竜神殿本部の第一発見者に当たるハーフフットに銀等級勲章を与えました。
以降、六竜神殿本部の全ての機能は、六竜神殿支部に移管することにしました。
六竜歴1560年7月7日:
今日はエミルちゃんの誕生日です。僕はケーキを焼いて、エミルちゃんとフェリスさんとフラスフィンさんと一緒にケーキを食べました。
この日、エミルちゃんは10才になりました。
誕生パーティの最中、エミルちゃんはこんなことを聞いてきました。
「ねぇねぇ、カーン様! この国は戴冠式をやらないの?」
はて。戴冠式ですか。
フェリスさんが助け舟を出してくれました。
「リレイン国では新国王が戴冠する際に六竜神殿本部神官長から冠を頂いたり、剣を引き抜く儀式といった行事があるのだが、ヴァラド国ではそういう行事は無いようだな」
「僕が就任した時は色々あったからなー。次期魔王が就任した時のことを考えておくかー。
じゃ、冠を授ける役はコルバットにお願いするねー」
「エーッ! ワタシがやるんデスカ!?」
「本部が倒壊してるんだからしょうがないでしょー?」
というわけで、今後は戴冠式の際にコルバットが新国王に冠を授ける役になりました。
六竜歴1560年7月25日:
今日はフェリスさんの誕生日です。僕はケーキを焼いて、エミルちゃんとフェリスさんとフラスフィンさんと一緒にケーキを食べました。
この日、フェリスさんは25才になりました。
フェリスさんの報告によると、オーク兵の育成は順調だそうです。
うんうん、いいぞいいぞー、その調子だーです。
六竜歴1560年8月5日~6日:
【星剣】の出所を調査することにしました。
と言うのも、この世界に星はありません。月は人工物ですし、太陽は光竜神です。ウラグルーンをぐるぐる回って観察してみたところ、島でした。ウラグルーンは奈落の闇に浮かぶ孤島だったのです。
つまるところ、この世界には天然の惑星が存在しないことになります。星という考えが民間に定着していないということは、『星座』という思想も無いということです。従って、『星座の特徴を宿した剣』は発想できませんし、製造もできません。
しかし、現に【星剣】は僕が知る星座の特徴を宿しています。
調べてみると、僕やテラ・コンダクトがこの世界に来る前から【星剣】はあったようです。
誰が【星剣】という概念をこの世界に持ち込んだのでしょう? フラスフィンさんに聞いてみたところ、すばらしい答えが返ってきました。
「ウラグルーンに存在する【星剣】は、他の異世界と接触した際にもたらされた物です」
経緯がよく分かりません。フラスフィンさんは「話が長くなるので、【星剣】が生まれた経緯だけ語ります」と言いました。
「異世界と異世界が接触すると、同化現象が発生します。同化現象を引き起こした2つの世界は融合して溶け合い、1つの新しい世界として生まれ変わります」
「ウラグルーンも他の世界と同化したことがあるの?」
「肯定。他の世界と同化した影響は今もウラグルーンに残っています。その1つが【星剣】と考えて頂いても良いでしょう」
僕はちょっと考えました。
スキル【存在同化】。僕がこの世界に生まれた時、如何にもそれらしいスキルを持って生まれてきました。
僕は、それについて尋ねることにしました。
「僕の【存在同化】って、もしかして世界同士の同化現象に由来してない?」
「肯定。貴方は体内に人工冥界【ニヴルヘイム】を搭載している人造生命です。ニヴルヘイムをウラグルーンに展開させても、同化現象は引き起こされます」
「えぇー。じゃあ、僕が今までウラグルーンと同化しなかったのはなんで?」
「安全装置がかけられていたためです。ニヴルヘイムとウラグルーンが同化現象を引き起こせば、互いに消滅して新世界が創造されてしまいます。
そういった事態を避けるために、ニヴルヘイムには幾つもの安全装置をかけることにしました。世界記述で制御できる域にまで権限を低下させた結果、ニヴルヘイムの展開という行為はスキル【存在同化】となったのです」
「ははぁ、なるほどなぁ~」
「スキル【存在同化】は段階を経て安全装置が解除されていき、最終的にニヴルヘイムの現実展開に変化するという仕組みになっていました。
しかし、安全装置は無用となりました。今の貴方には同化現象を制御する能力が備わっています」
「制御能力の仕組みってどんな感じなの?」
「同化現象を制御する能力とは、非日常と日常を行き来する能力です。
日常こそが自分の居場所であると認識し、自分はここにいる、という感覚を獲得することで、存在は非日常と日常を行き来できるようになります。これが同化現象を制御する能力の正体です」
「自分はここにいる、ねぇ」
自分はどこにいるのか、という問題は非常に古典的で普遍的な題材です。
「ところで、私も質問してもいいでしょうか。
――なぜ地の元素を踏み抜いたのですか?」
僕とフラスフィンさんは、奈落の闇を漂流していました。
そう、あれは1日前の話です。僕とフラスフィンさんがデートしていたところ、僕がうっかり地の元素を踏み抜いて奈落の闇に落下してしまったのです。
「うっかりです。うっかりミスです。すみませんでした」
「うっかりですか」
「うっかりです」
「しょうがないですね。次からは気を付けて下さい」
わーい、フラスフィンさん大好きー!
次からは地の元素を踏み抜かないように気を付けましょう。
というわけで、錬金術師ルート最終形態に変神しました。【元素硬化爆弾】を合成して、あちこちに埋めました。これで、奈落の闇に落っこちても平気でしょう。
とは言え、AaE限使に進化した副作用でスキルの不発が目立つようになってきたので、そろそろ僕の体を調整したり、改造したいと思います。
楽しい楽しい工作の始まりです!
六竜歴1560年8月7日~31日:
AaE限使は想像具現化能力を持つので、スキルと同じような効果を発揮できます。例えば、【ファイアボール】という魔法系スキルがあったとします。原住民が【ファイアボール】を発動すると、世界記述の法則性に則り、【ファイアボール】という魔法が発動します。
世界記述から外れた存在であるAaE限使が【ファイアボール】を発動した場合、【ファイアボール】は発動しません。ただし、AaE限使自身が想像具現化能力を持っているので、【ファイアボール】に似たような現象は引き起こせます。加えて、【ファイアボール】は実は1万℃の火球だと思い込めば実際にその通りになります。原住民が【ファイアボール】は1万℃だと思いこんだ状態で【ファイアボール】を発動しても、普通の【ファイアボール】が発動するだけで、1万℃の温度は出せません。
という感じで、AaE限使になった僕は想像力を以てスキルを強制的に発動させてきたのです。
一見するとAaE限使は万能なようですが、裏を返せば、想像力や記憶を失うと何もできなくなる存在でもあります。スキルの情報が分からなければ、そのスキルが発揮する現象を引き起こせなくなります。
想像力や記憶に依存しない、外部記憶装置的な何かが欲しい……欲しいのです!
そこで僕は考えました。記憶をコピーしてしまえばいいのですと。
僕は外部記憶装置と量子演算回路とアダマンタイト装甲とアダマンタイトコアを合成しました。これで外殻は完成しました。見た目は小さな棺桶です。
次は機械細胞の出番です。機械細胞を接着剤並びに伝達素子代わりに使い、小さな棺桶を左腕に同化させます。
続けて、僕の体内に存在する量子世界【ヘルヘイム】を、小さな棺桶の内側に搭載されている外部記憶装置に移植させます。機械細胞が伝達素子として機能してくれているので、僕の脳と小さな棺桶は神経的に直結している状態です。
左腕に嵌めた小さな棺桶にちょこっと電流を送り込み、【ヘルヘイム】を起動させます。
おおっ、上手くいきました。量子世界【ヘルヘイム】の起動に成功です。
今後は、量子世界【ヘルヘイム】を通じてスキルを発動できるようにします。【ヘルヘイム】は、言ってしまえば量子コンピュータのようなものです。自分の記憶を【ヘルヘイム】の記録領域にコピーし、いつでもスキル情報を引き出せるように調整します。
電気信号を流したり、受け取ったりして、調整を重ね……よし! 上手くいきました! スキル情報の閲覧と読み込みに成功です! これでもう物忘れはしません!
六竜歴1560年9月5日:
ああー、失敗してしまいました。
エルフ族との戦闘中に、【ヘルヘイム】の外殻に被弾しました。外殻が破損してしまったため、内部に保存されているデータが失われてしまいました。
確かに、よく考えてみれば【ヘルヘイム】自体はただの量子コンピュータです。衝撃には脆いです。このままでは戦闘には使うのは厳しいです。
どうやら、【ヘルヘイム】を保護する機能を付ける必要があるようです。
色々と考えた結果、僕は【ヘルヘイム】の表面に人工冥界【ニヴルヘイム】を常時展開させることに決めました。【ニヴルヘイム】はワールドです。世界です。【ヘルヘイム】を【ニヴルヘイム】で覆ってしまえば、ウラグルーンに存在する物体や現象の効果をほぼ遮断できる上に、接触したものを【ニヴルヘイム】に同化できるという芸当もできるのです。まさに攻防一体のアイテムです。
早速、【ヘルヘイム】を【ニヴルヘイム】で覆い、テストします。
まずは僕と同じく世界記述外存在であるフラスフィンさんにテストして貰います。通常攻撃を打ち込んで貰い、その後、原住民の目線でテストして貰うためにフェリスさんからスキルや通常攻撃を打ち込んで貰います。
結果は大成功。【光竜光波斬】と【光波盾】と【光竜爪斬波】の完全なガードに成功。ウラグルーン上に存在するほぼあらゆるスキルを遮断できることが判明しました。
こっちはこっちで、【ヘルヘイム】を通じてウラグルーンのスキル情報を読み込めるようになっています。これでスキルの効果を忘れても【ヘルヘイム】に保存されたデータを読み込んで、スキルの疑似発動ができるようになったのです。
ただ、【ニヴルヘイム】の部分的常時展開の代償としてカロリーがどんどん減っていくようになってしまいました。我、空腹なり。食事の回数が増え、1日に5回食事する必要が出てきました。
でも、凄く楽しいです。発想次第で面白いアイテムを作れるし、ご飯は美味しいしで、異世界生活を最高にエンジョイしている気分です。
六竜歴1560年10月17日:
予期せぬ事態が発生。【ヘルヘイム】の外殻の内部回路に熱が籠もり、溶けてしまいました。
これは盲点でした。外部からの衝撃や熱は表面に展開させた【ニヴルヘイム】で遮断できますが、内部回路が発する熱は防げないのです。
色々と考えた結果、思い切って【ヘルヘイム】の外殻に変形機構を付けてみました。スキル【変形】と神経を直結させて、【ヘルヘイム】の外殻が自動的に変形するようにしたのです。
【ヘルヘイム】の外殻が高熱を発した時は、前方に向けて3枚の放熱板を出すようにしました。蒸気とかも出るようにしました。放熱板から発せられた熱や蒸気は即座に【ニヴルヘイム】に吸収されて凍結される仕組みです。見た目としてもかなりロマンを感じるので良しです。
六竜歴1560年11月27日:
予期せぬ事態が発生、今度はうれしいニュースです。
【ヘルヘイム】の外殻に搭載した3枚の放熱板から放出した熱や蒸気が【ニヴルヘイム】に触れると、即座に相転移現象を引き起こして凍結します。この凍結部位は、氷の爪として利用できるようです。
効果音はこんな感じです。しゅわわーシャキン。
しゅわわーの内、しゅの音が発せられた瞬間にシャキンという音がでるようなイメージです。
放熱時に発生する氷の爪は、僕の意志で引っ込めることができますし、出しっ放しにすることも可能です。ただし、出しっ放しはカロリーを消費します。僕としてもカロリーの無用な消費は避けたいので、放熱時に発生する氷の爪は非常時の攻撃手段として使うことになりそうです。
六竜歴1560年11月28日:
放熱時に発生する氷の爪を【フェンリルクロー】と名付けました。
僕の兄弟ことフェンリルにちなんだ名称です。外部記憶装置にしろ、放熱板にしろ、フェンリルと同化した際に引き継いだもの……いわば彼の肉体を借りている状態です。彼の名誉のためにも名前を借りることにしたのです。
六竜歴1560年12月1日:
フェンリルクローで試し斬りしてみました。
すると、フェンリルクローでは物を斬れないことが分かりました。どうやらフェンリルクローに接触した物体は即座に【ニヴルヘイム】に同化されてしまうようです。触れた物体をナノセカンド以下の秒単位で同化してしまうため、『斬る』という動作を実行する瞬間には、敵の体は【ニヴルヘイム】に同化されてしまっており、フェンリルクローは何も無い宙を斬ることになってしまうようです。同様に、『貫く』こともできません。触れた瞬間に同化してしまうので、実際に斬ったり貫いたりすることは出来ないのです。敵を斬ったり貫いたりする感触が無いので、人斬りが好きな人には不評かもしれません。
六竜歴1560年12月16日:
今日は僕の誕生日です。僕は3才になりました。
フラスフィンさんとエミルちゃんとフェリスさんが僕を祝ってくれました。
フラスフィンさんは僕にキスをしてくれました。
いやっほー! 最高の気分です!!
六竜歴1560年12月25日:
この世界に来て四度目のクリスマスです。
僕は【ヘルヘイム】に保存されている技能情報を読込し、【マグマプロージョン】を疑似発動してみました。
結果は大成功! 今や【マグマプロージョン】は、ケーキとビッグチキンを焼くためのスキルではないのです!
調子に乗ったせいか、ケーキとビッグチキンが焦げてしまいました。次からは気をつけます!
六竜歴1560年12月29日~31日:
気になることがあったので、試しに人工冥界【ニヴルヘイム】を丸ごと現実空間に展開してみました。
やってみたところ、カロリーが低下しまくりでした。満腹状態で【ニヴルヘイム】を展開しても、3分も経てば空腹になってしまうほどです。
次に、【ヘルヘイム】の外殻表面に【ニヴルヘイム】を部分的常時展開した状態で1日を過ごしてみました。すると、【ニヴルヘイム】を全て展開した時と比べて、カロリーがあまり減っていないではありませんか。1日に5回食事すればいい程度のカロリー消費量です。
用途を限定したお陰で、コストパフォーマンスが飛躍的に高まったようです。これは嬉しい収穫です。
今後は、【ヘルヘイム】の外殻に【ニヴルヘイム】を部分的に常時展開した状態で生活しようと思います。
話が盛大に脱線しました。
何はともあれ、世界記述を超越している状態でも、【ヘルヘイム】のお陰でスキルを疑似発動できるようになりました。
スキルとごっちゃになると紛らわしいので、僕はこれらの機能に名前を付けることにしました。
◆世界記述外機能:【技能情報・閲覧】
◆世界記述外機能:【技能情報・読込】
◆世界記述外機能:【技能・疑似発動】
3つの新規機能を搭載したハイテクロボット(見た目は男の子)の完成です!!
これで安心して眠れます。
むにゃむにゃ、お休み~。
(日記はここで途切れている)
――六竜歴1561年1月1日。
僕の意識は『何か』と繋がった。
金色に煌く糸の連なりは、僕に未来の断片を見せる。
グローブ座に光が照らされた。
人形たちが踊り続ける舞台。その中央に居座るは、機械仕掛けの身食らう蛇。
円環を描く蛇が宣告した。
「一般的な小説の登場人物は5~6人である。それ以上の人数が登場する物語は破綻する」
「――汝の物語を破綻せよ」
僕は、目を覚ました。
●ステータス
名前:カーン・オケ
LV:system error(測定不能)
性別:男子
年齢:3才(NEW!)
種族:AaE限使
職業:魔王
HP:system error(975)
MP:system error(798)
SP:system error(931)
STR:system error(895)
VIT:system error(821)
DEX:system error(610)
INT:system error(311)
AGI:system error(829)
LUK:system error(159)
称号:古代兵器級、鉄壁の魔王
装備:星剣【蛇遣い座】、ヘルヘイム外殻(NEW!)
所持品:雷電器官、元素硬化爆弾、機械細胞×90、電子信号爆弾、ボーンスピア・オブ・グラムグレイズなど
特徴:AaE限使の能力はAaE限使自身の想像力に依存する
スキル:system error(存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、全属性耐性・強、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、竜の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV10、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、治癒、マグマシールド、サンダーシールド、強酸化、表面体液、水圧波、自己電気制御、マグマプロージョン、サンダーストーム、リフレッシュヒール、合体、集束太陽光、スキル交換、スキル譲渡、異次元収納LV10、地雷操作、ゲーマー魂覚醒LV2、思考超加速、無限加速宇宙、過去集約、主人公交代、幼き日の光、覇王闘気、覇王竜斬波、多重並列発動、超成長、ノヴァ、フレア、AaE開花進化など)
人工冥界:リスタルサーク×93、リスタルサーク・レッド×20、リスタルサーク・ブラック×10、リスタルサーク・イエロー×30、リスタルサーク・ピンク×5、スライム・アビスアース、クラッツバイン、サラマンダー・アビスファイア、ウンディーネ・アビスウォーター、シルフ・アビスウィンド、ノーム・アビスアース、貪欲の黒剣、フェンリル
人工冥界居住可能人数:165/一世界
世界所持数:2(人工冥界ニヴルヘイム、量子世界ヘルヘイム)
搭載機能:技能情報・閲覧/読込、技能・疑似発動
パーティ:【安らかなる旅路】に所属
パーティメンバー:フェリス、エミル、フラスフィン
(次回から第三章の本編が始まります。もしかしたら設定やキャラクターの解説が入るかもしれません)