1:予知夢
第三章の前振りに当たる部分です。
彼女は夢を見ていた。
白の光で満たされた神殿の跡地。新緑が繁茂する大理石の破片。光差す瓦礫の中心に、“彼”は佇んでいた。
“彼”は、眼前の大竜を睨み付けた。
「――僕が異世界を使い潰すとでも?」
「先代闇竜神がやったことは、まさにそれなんですよ。闇竜神となったあなたも、彼女と同じことができるんです」
「闇竜神にそんな権限は無いだろ」
「あるんですよ。
万物の死と再生を司る闇竜神なら、それができるんです」
彼は、自身の左腕に嵌めている小さな棺桶から世界の一部を引き出した。
――魔狼フェンリル……。
伝承の彼方に語られる存在。
神々に災いをもたらすと囁かれる魔狼の爪が、現世に顕現する。
「地球の日本でやってたCMみたいな言葉を並べても、僕を倒す理由にはならないぞ」
「地球の話など……。あなたと話していると神格が下がる」
「神格低下系パッシブスキルだよ。話しているだけで自分と相手に精神的なダメージを与えるんだ。自虐の一種だな」
「なっ!? そのようなスキルが存在するとは……! 世界は広いですね」
「いや、冗談だから! 頼むから、冗談を真に受けないでくれ!」
「自虐と冗談を混ぜて精神攻撃を与えるとは……! 恐れ入ります」
「そんなトコは恐れないでいいから! お前は本ッ当に相変わらずだな――
――待て。誰かが僕らの会話を見ている。
誰だ?」
アリシア・アルシエルは、目を覚ました。