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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第二章:棺桶の就職
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幕間:最強=平穏

嫉妬ジェラズィ】視点の話です。


「西暦2650年の地球から人類がウラグルーンに移住してきたと仮定すると、矛盾が生じませんか」


 【嫉妬ジェラズィ】はウラグルーンに転移してきた地球人だ。


 【無限加速宇宙アクセルコスモス】の影響を受けて、地球人の肉体は消滅しつつある。

 グラムグレイズの提案により、【嫉妬ジェラズィ】は人格と記憶を【箱】に移植した。それは、地球人としての肉体を捨てるという意味を孕んでいた。



 剥き出しとなったパイプが無数にうねる薄暗い地下室。

 中央に設けられた培養槽の中では、【嫉妬ジェラズィ】の新しい肉体である大竜【リヴァイアサン】がすくすくと成長していた。




 【リヴァイアサン】の脳細胞に【嫉妬ジェラズィ】の人格と記憶を転写することで、【嫉妬ジェラズィ】の転生は完了する。




 【嫉妬ジェラズィ】は、【箱】の中からグラムグレイズに語りかけた。


「地球は【無限加速宇宙アクセルコスモス】を受けて消滅したはずです。それも、西暦2020年の段階で。

 西暦2650年の地球に生きるあなたが異世界に移住できるとは思えません」


 タイムパラドックスだ。

 この世界が未来の地球人の移住先だとすると、過去の地球が消滅した場合、この世界に生きる地球人は全員消滅してしまう。


 グラムグレイズは、「うふふ~」と笑ってみせた。


「見た目に騙されやすいけれど~、【無限加速宇宙アクセルコスモス】はね~、時間を加速させる魔法なのよ~。物理的衝撃を与える魔法じゃないのよ~」

「……と言いますと?」

「【無限加速宇宙アクセルコスモス】は~、指定した物体に命中した時にのみ時間加速の効果を発揮する魔法なの~。

 でないと、【無限加速宇宙アクセルコスモス】が発動した瞬間にウラグルーンが滅びちゃうわ~。それは困った事態よね~?」


 【嫉妬ジェラズィ】は混乱した。

 グラムグレイズは自分の子供に教育を施すかのように、世界の原理を説明する。


「対象物体の時間を加速させることで、その物体を無限に転生させるのが【無限加速宇宙アクセルコスモス】なの~」

「分かり難いです。もっと分かりやすく教えて下さい」

「そうね~、じゃあこう考えたらどうかしら~。

 【無限加速宇宙アクセルコスモス】は、指定した物体に命中するまで効果を発揮しない、時限爆弾のようなものなの~」

「分かりました。爆弾なら理解できます。

 それで、加速した時間の中で地球人はタイムパラドックスをどう解決したのですか?」

「そうね~、厳密にはタイムパラドックスとは言えないのよ~。

 他の世界の人たちから見れば、【無限加速宇宙アクセルコスモス】を受けた地球は消滅したように見えるけれど~、地球は加速した時間の中で生と死を繰り返しているの~。

 加速した時間の中でも、地球人が異世界に辿り着く道具を作り出せば、地球人が異世界に脱出することは可能なのよ~」

「地球人が異世界に脱出しても、【無限加速宇宙アクセルコスモス】は魂の繋がりを経由してダメージを与えます。【無限加速宇宙アクセルコスモス】の影響を免れるとは思えませんが」

「実はね~、【無限加速宇宙アクセルコスモス】の影響を回避する方法はあるのよ~」

「どのような方法を用いて回避するのですか?」

「それはね~、ひ・み・つよ~」


 うふふ~、とグラムグレイズは微笑む。

 【嫉妬ジェラズィ】は別の方角から話を切り出した。


「あなたの話が真実だと仮定しましょう。

 西暦2650年の段階で地球は滅亡寸前だったそうですね。

 でしたら、地球人は【箱】の中に移住すれば良かったのではないでしょうか。

 人格と記憶を仮想空間に移動させてしまえば、わざわざ異世界に転移しなくても、地球人という種は存続できます」

「ええ、勿論、そう考えた人もいたわ~。

 けれど、結局は【箱】の中も安全とは言えなかったのね~。

 当時の量子世界【ヘルヘイム】は試作段階だったの~。【ヘルヘイム】は今の【ニヴルヘイム】と違って、現実空間にも展開できるほどの強力な量子観測効果を持ち合わせていなかったのよね~」

「【ニヴルヘイム】。さと……カーン・オケが体内に抱える人工冥界の名前でしたね」


 【黒蛇ニーズヘッグ】の本名を言おうとして、【嫉妬ジェラズィ】は、それすら思い出せなくなっていたことに内心驚愕した。


 【無限加速宇宙アクセルコスモス】の影響だろう。地球の記憶が急速に薄れていっている。


 グラムグレイズは、【箱】の中の【嫉妬ジェラズィ】に答えた。


「フラスフィンちゃんはカーンちゃんを【世界の種子】にすると言ったそうよ~。

 わたくしもそれを支持するわ~。だって、カーンちゃんはもう世界の種子に()()()()()()()んだもの~。

 カーンちゃんは自分にはセンスが無い、想像力が無いと言っているけれど~、本当にセンスと想像力が無い人は、魂内領域を完全に制御したまま現実空間に拡張させることは出来ないのよ~」



 魂内領域を現実空間に拡張させる。

 それは、言ってしまえば、想像で現実を塗り潰す行為だ。


 下手をすれば想像と現実が混じり合い、現実空間が二度と元の姿に戻らなくなってしまう。


 カーンは、それを見事に制御してみせた。


 カーンは【世界の種子】となった。彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


「カーンちゃんは、地球人の手で作られた【生きる箱】としては大成功の類よ~。

 このままカーンちゃんが成長すれば、【ヘルヘイム】も獲得するでしょうね~。もしかしたら、他の世界も獲得しちゃうかも~」

「あなたの話が真実だと仮定した場合、今後、カーン・オケは複数の世界を獲得することになります。

 私には、いささか危険なように思えます」


 グラムグレイズは、艶然と微笑んだ。


「危険であればあるほど安全なのよ~。

 【演劇世界マシーナ】がエルフに与えた影響もあるし~。

 他の異世界に手出しされないぐらい強くなれば、カーンちゃんが求める平穏に近づけるはずよ~。

 それにね~」


 グラムグレイズは培養槽の中に突き刺さった【世界守護剣ワールドガード】に視線をやった。



 【世界守護剣ワールドガード】は、正統なる持ち主アリシア・アルシエルに譲渡する。



 さて、アリシアはどんな選択をするのだろう。



 グラムグレイズは、うふふ、と笑った。



「競争相手がいないと、魔王も退屈だと思うのよ~」




第三章・魔王の日常(仮)に続きます。

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