75話:勇者も魔王も救うよ
――受け止めた。
僕は僕に課した約束通り、【覇王竜斬波】を受け止めてみせた。
HPゲージは……ああ、そういえば今の僕は世界記述を外れているんだった。僕のHPゲージとMPゲージとSPゲージは、視界に表示されていない。
だが、生きている。全身傷だらけだが、まだ動ける。
耐えたぞ、シュトルム。
今度はこっちの番だ。
――【覇王闘気】、発動。
決着を付けよう。
「覇王――」
僕は星剣【蛇遣い座】に【覇王闘気】を集中させた。
シュトルムの技なら知っている。今、この身で味わったばかりだ。
「そのスキルは――」
シュトルムの声音に明確な驚愕が浮かんだ。
模倣でいい。
模倣から全てが生まれる。
底の無い模倣の中に落とし込んでなお、浮かび上がってくるのが、自分という存在だ。
「――竜斬波!」
全力全開。これが僕の闘気だ。
シュトルムが【貪欲の黒剣】を盾代わりする――。
僕が放った【覇王竜斬波】は、【貪欲の黒剣】を刀身の真っ直中からへし折った。
「――ぐっ!」
騎士にとって剣は自分の分身だ。
覇王竜斬波の直撃を受けたシュトルムは、潔く宣言した。
「余の、負けだ」
「勝った……のか?」
「勝ったよ! カーン様が勝ったんだよ!」
フェリスさんが目をぱちくりとさせる中、エミルちゃんがはしゃぐ。
「あの一瞬でスキルをラーニングしたか」
「へぇ、カーンってスキルラーニングするタイプの種族だったのね」
セイル先生とイリシャが互いに感想を言い合う。
なるほど、スキルラーニングか。地球の『ラストファンタジー』に出てくる『青魔法使い』みたいだな。『ものまね使い』も混じっている気がする。
僕は息を切らせて、シュトルムに歩み寄った。
シュトルムは折れた愛剣をじっと眺めていた。
「すまなかった、【貪欲の黒剣】。
余が不甲斐ないばかりに、貴様を折らせてしまった」
……愛着がある剣だったんだな。
シュトルムは眼前に佇む僕の姿を認めると、その場で跪いた。
両手で折れた剣を拾い上げ、僕に差し出す。
多分、これは彼なりのけじめなのだろう。僕は剣に手を伸ばす前に、彼に尋ねた。
「本当にいいのか?」
「剣は、それを振るうに相応しい持ち主に渡るべきだ。余ではこいつを活かし切れなかった。ただそれだけの話よな。
――華桜国の鍛冶屋、ガイン・ガームに会え。あいつなら折れた【貪欲の黒剣】を直せる」
「分かった」
僕はスキル【存在同化領域】を発動し、【貪欲の黒剣】に触れた。
【貪欲の黒剣】が細かい光の粒となり、僕の体内に存在する人工冥界に吸収される。
「うっ」
【貪欲の黒剣】を人工冥界に収納した瞬間、【貪欲の黒剣】に刻まれた情報が僕の脳内に駆け巡った。
【貪欲の黒剣】は、ガインが打った剣であり、エンザルクの祝福を受けた剣でもある。
ガイン・ガーム。【古き救済】のメンバー。種族はオーガ。現在は華桜国で刀鍛冶をしている。
エンザルク。火竜神。この世界に文明をもたらした神。地球の情報が収められたアーカイブから文明情報を解凍した存在。
【貪欲の黒剣】を人工冥界に収納した途端、それらの情報が一気に開示された。
どういう理屈かは定かではないが、作り手の情報を読み取れてしまったのだ。
これは同化の影響なのだろうか? 混乱する僕をよそに、コルバットが決闘の勝敗を告げる。
「決闘終了! カーンの勝利デス!」
これで無事に決闘は終了というわけだ。結果は、僕の勝ち。
ふぅ。さすがに疲れた。
肉体のみならず精神的な疲弊もあって、僕はその場にへたり込んだ。シュトルムも疲労のあまり、床に突っ伏す。
こうしていると、何だか青春物語みたいだ。
王城の天井にはぽっかりと穴が空いて、青空が垣間見えている。
ああ、綺麗だ。青い空は、大好きだ。
「そういえば、さっきの質問だけど」
余韻に浸りながら、僕はシュトルムに尋ねた。
「さっき、僕に言ったよな。貴様に勇者を救えるのかって」
「ああ、言ったとも」
「その答えを言う前に、シュトルムの意見を聞きたい。
魔王とは何なんだ?」
「我々は人間ではあるが、元を正せば、魔族だ。
この世界に住まう者は皆、魔族の血を引いている」
「僕も魔族なのか?」
「そうだ。貴様もまた魔族の一員だ」
僕もまた魔族。
僕は、この世界で生きることを肯定されたように思えた。
「この世界で王になるということは、魔王になるということだ。
魔王が暴虐を働くようであれば、勇者が魔王を討つ。
魔王とは独裁者であり、勇者とは魔王に対する抑止力だ」
「魔族を統べる独裁者か」
「人間の定義など、純粋人間族が勝手に決めたこと。
余は魔族の王たらんとした。
人間など下らん、生物皆、魔族であり、魔族として振る舞うべきだと」
基本的には、この世界では書類仕事は純粋人間族の担当だ。しかも純粋人間族は絶滅危惧種指定されているので、その仕事には誰にも文句を付けられない。
よって、純粋人間族は勝手に「あれは人間、これも人間」と定義していき、最終的には魔族全員を『人間』として定義してしまったのだ。
誰がどの程度の魔族として記憶と誇りを持つのかは、僕にも分からない。
だけど、ちゃんとした魔族の記憶と誇りを持つ者からしてみれば、純粋人間族という存在や、『魔族も人間である』というある種乱暴な定義は、目障り極まりないものだったのだろうと推測できた。
「……しかし、アリシアは純粋人間族でありながらも、眩しく輝いていた」
あ、うん。
それって、あれじゃん。
魔王が勇者に恋したってことじゃん。
大体わかった。
シュトルムの苦悩の原因が。
「余は人間などという定義を壊し、生物を魔族として定義し直すつもりだった。
余の計画は頓挫した。他ならぬ純粋人間族に惹かれてしまったのだからな」
「何に惹かれたんだ」
「圧倒的なパワーさ。声で元素を震わせ、神にすら影響力を及ぼす。
余は惚れたのだよ。劣等種族たる純粋人間族が神をも圧倒する姿に」
まあ、今の純粋人間族はフォノン天魔族だからしょうがないね。
暗示を打ち破って覚醒したフォノン天魔族は、神殺しの才を帯びた種族だ。神とて手に負えるかどうか怪しい。
「あれだけの力の持ち主が埋もれてしまうとは、惜しいものだ。
そう思ったのが運の尽きだったのかもしれん」
気持ちは分からないでもない。
シュトルムは言葉を続ける。
「結果、余は純粋人間族に対してぬるい政策を打ち、構造の改革もできなかった。
シロガネは気づいておったのだろう? 余の情けなさに」
「はい。勇者に恋い焦がれた魔王では正しい政治は出来ない。そう感じました」
「この通りさ。魔族の世界に人間など要らぬ。本来だったら純粋人間族は世界の外に追放処分してもおかしくはない存在だ。
しかし、余はアリシアを知り、それを実行できなくなった。
純粋人間族の中から現れたアリシアという突然変異体には、それほどの影響力があった」
魔王とは因果なものだ。
勇者に恋したらまともに政治も出来なくなる。
だったら、こうしようじゃないか。
「僕が救うのは勇者だけじゃない」
「貴様、まさか……」
僕はニヤリと笑った。
「勇者も魔王も、まとめて僕が救う。安心しろ」
シュトルムは、ふっと笑った。
「正真正銘、余の負けだな」
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:system error(佐藤孝一?)
LV:system error(測定不能)
性別:男性
種族:AaE限使
職業:system error(無職?)
HP:system error(692?)
MP:system error(267?)
SP:system error(572?)
STR:system error(602?)
VIT:system error(498?)
DEX:system error(185?)
INT:system error(125?)
AGI:system error(356?)
LUK:system error(112?)
称号:system error(古代兵器級?)
装備:星剣【蛇遣い座】
所持品:雷電器官、元素硬化爆弾など
特徴:AaE限使の能力はAaE限使自身の想像力に依存する
スキル:system error(存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、竜の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV10、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、治癒、マグマシールド、サンダーシールド、強酸化、表面体液、水圧波、自己電気制御、マグマプロージョン、サンダーストーム、リフレッシュヒール、合体、集束太陽光、スキル交換、スキル譲渡、異次元収納LV10、地雷操作、ゲーマー魂覚醒LV2、思考超加速、無限加速宇宙、過去集約、主人公交代、幼き日の光、覇王闘気、覇王竜斬波、AaE開花進化など)
人工冥界:リスタルサーク、リスタルサーク、スライム・アビスアース、クラッツバイン、サラマンダー・アビスファイア、ウンディーネ・アビスウォーター、シルフ・アビスウィンド、ノーム・アビスアース、貪欲の黒剣(NEW!)
人工冥界居住可能人数:9/一世界
世界所持数:1
パーティ:【安らかなる旅路】に所属
パーティメンバー:フェリス、エミル、イリシャ、セイル、フラスフィン