73話:ニーズヘッグとフレースヴェルグの仲の悪さに思いを馳せながら決闘を再開する
僕は約束を果たすべく、翼を羽ばたかせて謁見の間に降り立った。
「奴らは片付いたのか」
「ああ」
シュトルムの言葉に僕は頷く。
僕の言葉を証明すべく、フラスフィンさんが告げる。
「敵勢力の99%の消滅を確認しました」
「残りの1%は何だ? 残党か?」
「そうだ。だが、あいつらの力は全て奪った。放っておいても問題は無いだろう」
あいつらの力の源である地球は消滅した。【無限加速宇宙】の影響により、白蛇神の使徒や眷属は自然消滅していくだろう。勿論、その中には僕も含まれているわけだが。
僕はシュトルムに向き合った。
「さあ、決闘の再開といこうか」
「その言葉を待っていた。
コルバット! 聞こえているなら来い!」
「はいぃぃぃデスー!」
シュトルムの声を受け、コルバットとシロガネ大臣とイリシャが窓から謁見の間に戻ってくる。
「シロガネ、只今帰還しました」
「帰ってきたわよー!」
威勢よく戻ってきたイリシャの姿を見て、僕はびっくりした。
なんだこりゃ。あいつの背中から機械の翼が生えてるぞ。
などと思っていたら、エミルちゃんが疑問を発してくれた。
「イリシャちゃん、その翼はどうしたの?」
イリシャはさらりと自慢した。
「進化したのよ」
進化?
どう見てもメカ系に進化してるんですが、これは大丈夫なんでしょうか。セイル先生も訝しんでいるぞ。
【思考超加速】、オン。
【過去集約】で検索だ。
えーと、イリシャがメカ系に進化しました。これはどういうことなんでしょうか? 教えて下さい。
ピコン。
『エラー。該当する項目は存在しません』
あれっ?
もう一度検索だ。
ピコン。
『エラー。該当する項目は存在しません』
おうふ。
なんてこったい。検索が効かないぞ。
どうなってんの、フラスフィンさーん。
『お答えしましょう』
フラスフィンさんは【精神会話】の入力先と出力先を調整し、僕だけに聞こえるような会話状態を発生させた。いわゆる、ネトゲで言うwis機能だ。
『原因は単純です。貴方が未来地平を超えてしまったため、未来地平に集積された全てのデータが過去に追いやられてしまったのです。エヴァレットの多世界解釈はご存じですか?』
『何となくはね。僕が何かを選択する度に世界が無数に分岐する。それが詩文分岐の正体なんだろ?』
『肯定。貴方が思考するだけで世界は無数に分岐します。貴方が思考を巡らせる度に並行世界が生み出されます。それら並行世界の終着点が【未来地平】でした』
この時点で既に過去形なんだよなー。
『で、僕は未来地平を超えてしまったと』
『肯定。【AaE開花進化】を実行した瞬間、貴方という存在は未来地平を飛び越え、未来を過去にしてしまいました。世界は更新され、従来の歴史が全く別の歴史に切り替わったのです』
『僕は歴史改変を行ってしまったのか?』
『肯定でもあり、否定です。ここから先は完全に未知の領域です。今までの歴史には存在しなかったはずのイベントが発生し、イベントが世界に干渉して歴史を更新していくと推測されます』
なるほど。隠しイベントが発生するようになったようなものか。
しかし、意外だ。
『フラスフィンさんにも分からないことがあるんだな』
『肯定。私は観測者です。未知の歴史を観測するのもまた、私の役目です。
現在の私は、今回の歴史に対して多大なる興味を抱いています』
僕はイリシャの背に生える機械の翼に視線を向けた。
今の僕は世界記述から外れている。【鑑定】や【過去集約】のようなスキルを使っても、正常に作動するとは限らない。こうなると最早、直接戦ってみないことには相手の技量は計れない。
うん。あれだ。ネトゲで大規模アップデートがあった時の感覚に似ている。
今まで使っていた便利な攻略本が、一瞬にして陳腐化した気分だ。昔あった出来事を知るための資料としては使えるが、攻略本としてはいささか力不足と言える。
僕は素直にフラスフィンさんに尋ねた。
『イリシャが進化したのも隠しイベントの1つなんだろうか』
『肯定。これまでの並行世界の歴史においてはイリシャは進化を重ねてはいますが、エルフを逸脱するほどの進化はしていません。
貴方の行動が周囲の人間の心理に影響を及ぼした結果、イリシャはエルフを逸脱する進化を選んだと推測されます』
バタフライ効果ってやつだな。
『僕とイリシャとではどっちが強いと思う?』
『計測中……計測完了。
彼女の今の種族名は【竜機フレースヴェルグ・フェイズ1】です。彼女のステータスは、人工闇竜だった頃の貴方のステータスを凌駕しています』
フレースヴェルグ。北欧神話に出てくる鷲の姿をした巨人だ。フィクションでは、巨大な鳥のモンスターとして登場することが多い。
鷲なのに竜機とは、これ如何に。いや、そこは突っ込みどころではない。むしろ気になるのは、北欧神話上におけるニーズヘッグとフレースヴェルグの関係だ。
北欧神話によると、どうもニーズヘッグとフレースヴェルグは仲が悪いらしい。ラタトスクというリスを仲介して罵り合う仲なんだとか。
うーむ、悪い意味で運命的なものを感じるな。イリシャとの最初の出会いはあまりにも最悪だった。僕の人生における黒歴史そのものと言ってもいい。
もしイリシャと出会わなかったら、僕はどうなっていたのだろうか。イリシャと出会わなければエミルちゃん脱走事件も起きず、セイル先生とも出会わず、互いにすれ違って旅をしていたのかもしれない。
それもまた、並行世界で有り得た『もしもの物語』、ifの話なのだろう。
僕の思考を遮り、フラスフィンさんは言った。
『今の彼女は軽度の次元移動能力と魔法遮断性を有してします』
『魔法遮断? 【無限加速宇宙】は効くのか?』
『肯定でもあり、否定です。現時点でのイリシャの魔法遮断性ならば、【無限加速宇宙】の威力が50%軽減された状態で効果を発揮します。しかし、彼女が次元移動能力を使えば、【無限加速宇宙】は回避されるでしょう』
『地球はほとんど動かなかったからなぁ』
あまり動かないものには当たるが、過激に動くものには当たらない。それが【無限加速宇宙】だ。
もっとも、イリシャに【無限加速宇宙】を当てれば、魂の繋がりを経由して僕にも致命的なダメージが入るので、当てるつもりはないが。
『質問。彼女と本当に張り合うつもりですか?』
『あいつが何をしでかすかによるな。しばらくは様子を見るしかない。それこそ、数年単位――最悪の場合は数十年、数百年単位で見てみないと分からないよ』
『場合によっては戦うのですね?』
『多分。そうならないことを祈るしかないな』
そう言ってから、僕は祈る対象を付け足した。勿論、『フラスフィンさんに』だ。
【思考超加速】、オフ。
「えー、それデハ、決闘を再開シマス!」
瓦礫だらけの謁見の間で、シュトルムが【貪欲の黒剣】を抜き放つ。
僕は星剣【蛇遣い座】を人工冥界から引き抜いた。
コルバットの声が、謁見の間に響き渡った。
「決闘、開始デス!」
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:system error(佐藤孝一?)
LV:system error(測定不能)
性別:男性
種族:AaE限使
職業:system error(無職?)
HP:system error(692?)
MP:system error(267?)
SP:system error(572?)
STR:system error(602?)
VIT:system error(498?)
DEX:system error(185?)
INT:system error(125?)
AGI:system error(356?)
LUK:system error(112?)
称号:system error(古代兵器級?)
装備:星剣【蛇遣い座】
所持品:雷電器官、元素硬化爆弾など
特徴:AaE限使の能力はAaE限使自身の想像力に依存する
スキル:system error(存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、竜の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV10、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、治癒、マグマシールド、サンダーシールド、強酸化、表面体液、水圧波、自己電気制御、マグマプロージョン、サンダーストーム、リフレッシュヒール、合体、集束太陽光、スキル交換、スキル譲渡、異次元収納LV10、地雷操作、ゲーマー魂覚醒LV2、思考超加速、無限加速宇宙、過去集約、主人公交代、幼き日の光、AaE開花進化など)
人工冥界:リスタルサーク、リスタルサーク、スライム・アビスアース、クラッツバイン、サラマンダー・アビスファイア、ウンディーネ・アビスウォーター、シルフ・アビスウィンド、ノーム・アビスアース
人工冥界居住可能人数:8/一世界
世界所持数:1
パーティ:【安らかなる旅路】に所属
パーティメンバー:フェリス、エミル、イリシャ、セイル、フラスフィン