イリシャ視点:竜機フレースヴェルグ
イリシャ視点の話です。
「お待たせー!
シロガネさん、私に何か話でもあるの?」
首都ゴルバンの一角に聳える集合住宅の頂きに降り立ったイリシャは、シロガネに尋ねた。
「侵略者はカーン様が消滅させたようです」
「へぇ。カーンもやるわね」
光が降り注ぐ青き空を一瞥すると、イリシャはシロガネに視線を向けた。
「で、何なのよ。カーンの話に関係でもあるの?」
「率直に言うと、彼は危険すぎます」
「……うん?」
妙な方向に話が向かっているようだ。
シロガネはヴァラド国の大臣として、有り得る可能性の話をした。
「これから先、彼の持つ力を巡って争いが起こる可能性があります。
彼は人の手に余る。彼は人ではなく、道具として管理するべきだと。
彼の所有権と管理権を巡り、争奪戦が勃発するでしょう」
「あはは、大臣さんって面白いこと言うのね。誰があいつを所有したがるって言うのよ?」
「――オールス国です。
彼らが黙っているとは思えません」
オールス国。エルフたちが統治する国。
苦い思い出が残るあの国の名を聞いては、イリシャも黙ってはいられなかった。
「オールス国に対する抑止力として機能していたリレイン国は滅亡しました。
今すぐにとは言いませんが、オールス国はヴァラド国に攻め込んでくるでしょう。
彼らの欲望に際限はありません。この時点で予防策を打っておく必要があります」
イリシャは押し黙り、ぽつりと呟いた。
「奴らは権威と血統こそが全ての種族だしね……」
シロガネは頷いた。
「貴女の経歴は承知しています」
「セイルが喋ったの?」
「いいえ。失礼ながらも、戸籍を調べさせて頂きました」
さすがに大臣の目は誤魔化せないようだ。
腕組みするイリシャに、シロガネ深々とは頭を下げた。
「これは貴女にしか出来ない仕事です。
どうか、進化して頂けないでしょうか。貴女にはエルフを超越した存在となり、この国を陰から守る者になって頂きたいのです」
「……分かったわ。大臣にそこまで言われちゃしょうがないわね」
いつかこうなるとは思ってはいたが、まさか、こんなにも早くその時が訪れるとは思わなかった。
進化の要領は知っている。
イリシャは溜息をつくと、抑圧していた激情を解放した。
そうとも。
イリシャの目的は、復讐だ。
自分を追放したエルフどもを見返す。そのために、生きているのだから。
「進化の風よ、吹きなさい! 私に、力を!
あいつらを……エルフどもを! 私を追放した同族を見返す力を!
――風よ! 復讐の力を! 怨嗟の刃を! 私に、イリシャ・フィームに、授けなさいッ!」
ピコン。
『進化の風が吹きました』
解放された激情を【進化の風】が食い、進化の力を呼び覚ます。
風が吹き荒れ、イリシャの瞳が黄金色に輝いた。
「進化ツリーを開示しなさい」
ピコン。
『進化ツリーを開示します』
エルフから派生する進化種がツリー形式で表示される。
ファイアエルフ、ウォーターエルフ、アースエルフ、シーエルフ、ウッドエルフ、ウィングエルフなどなど。
それらを超越した先、進化ツリーの頂きには、【????】の文字が表示されている。それに至る進化ルートもまた、【????】の文字で彩られている。
これだ。セイルにも分からなかった進化種。
イリシャはずっと、この種族が気になっていたのだ。
「シロガネさん。進化ツリーの未判明進化種を解放するための古代兵器は持ってない?」
「ここにあります」
シロガネは懐から【ノスフェラトゥのオーブ】を取り出した。
「オーブよ。彼女のあるべき姿、未来の種を解放せよ。生贄はここに」
【ノスフェラトゥのオーブ】が求めるのは魂。すなわち、レベルだ。
シロガネは躊躇無く、自身のレベルを差し出した。
「シロガネさん、何もそこまでやらなくても」
「ふぉっふぉっふぉ。レベル倉庫にレベルを預けておりますからな。多少は蓄えがあるのですよ」
「……ふーん? じゃ、遠慮なくやらせて貰うわよ。
――未判明進化種、解放!」
パキン。
音を立て、進化ツリーに刻まれた【????】の箇所が割れた。
割れた【????】の中より現れたのは、聞いたこともない種族名だった。
その名も、【竜機フレースヴェルグ】。
イリシャの意識は、【竜機フレースヴェルグ】へと向かった。
「【竜機フレースヴェルグ】の簡易説明文を表示しなさい」
ピコン。
『種族名:竜機フレースヴェルグ
進化条件:6属性の魔法適性が0であること。
説明:次元移動能力と完全なる魔法遮断性を備えた竜型の無機生命体。高いスペックを有し、その戦闘能力と移動能力は神をも超える。フェイズ5以上に進化した場合、代償として、人間形態に戻れなくなる。また、フェイズ5以上になった場合、分岐進化できなくなる』
(完全なる魔法遮断性! そっか、この力を獲得するために私は……)
この力を獲得するために、自分は魔法への適性が無かったのだ。
自己を肯定してくれる力と出会い、イリシャは歓喜に打ち震えた。
「決めたわ。私、進化する」
「では、なって頂けるのですな。ヴァラド国の影の騎士に」
「ええ。私、エルフを滅ぼすわ。
フレースヴェルグの力で、私は、奴らに復讐する」
正式に【竜機フレースヴェルグ】に進化するには、10段階の進化を経る必要がある。
全てのレベルと称号とスキルを進化用養分に変換し、イリシャは【竜機フレースヴェルグ・フェイズ1】に進化した。
魂が再起動し、駆動システムがβ版ver2.00に入れ替わる。
――背中が熱い。
背中に意識を集中させると、いつの間にか金属の翼が生えていた。
黒き鳥の機械翼。
竜機フレースヴェルグの象徴たる翼を、イリシャは獲得した。
●ステータス
名前:イリシャ・フィーム
LV:1(NEW!)
性別:女性
種族:竜機フレースヴェルグ・フェイズ1(NEW!)
職業:錬金術師
HP:1257(NEW!)
MP:0(NEW!)
SP:1256(NEW!)
STR:725(NEW!)
VIT:954(NEW!)
DEX:936(NEW!)
INT:782(NEW!)
AGI:2522(NEW!)
LUK:651(NEW!)
称号:無し(NEW!)
装備:人工聖水剣
所持品:無し(NEW!)
特徴:軽度の次元移動能力と魔法遮断性を有する
スキル:無し(NEW!)
パーティ:【安らかなる旅路】に所属
パーティメンバー:カーン、フェリス、エミル、セイル、フラスフィン