72話:巨大プランクトンを食べる
複数の視点が入り乱れる話です。
前半部分はカーン視点、中盤は三人称視点(ジェラズィ寄り)、最後はビトレイヤル視点です。
僕は世界に拡散させた量子情報を回収すると、人工冥界【ニヴルヘイム】を体内に収納した。
パキン、と音を立てて空間が割れ、氷の都市が消え去る。
量子観測効果によって書き換えた現実が、元に戻った。
遥か彼方の頭上には、いつも通りの青空が広がっている。
第一使徒【恐怖】は、消滅した。地球と白蛇神もまた、消滅した。
ふと思うところがあり、僕はマッハ20の速度で北の海に向かった。
放置された【アイスナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】にトドメを刺す必要があったのだ。
後で誰かに利用されても困るので、僕は【無限加速宇宙】で【アイスプラント・ビトレイヤルリレイティブ】を消滅させた。【無限加速宇宙】を使えば魂の繋がりを通じて【裏切り】本体にもダメージが入るので一石二鳥だ。
「これでよし」
ぐぅぅ、とお腹が鳴った。
運動しすぎてお腹が空いたようだ。
北極に住む生物を食べよう。北極にはどんな生物がいるのだろうか?
「おっ、プランクトンがいるじゃん」
北極海には大きなプランクトンが沢山泳いでいた。
でかい。体長5メートルぐらいはあるプランクトンだ。
僕はプランクトンを捕まえると、星剣【蛇遣い座】で丁重に切り刻み、元素超振動で火炙りにした。
「いただきまーす」
ぱくぱく、むしゃむしゃ。
「植物の茎みたいだな」
でっかい茎のような食感だった。一口かじると、塩分を大量に含んだ海草のような味が口内に広がり、「海だな……」という感覚に陥った。
食べてから、栄養価が気になった。AaE限使の力で栄養素を計測するための生体スキャナーを脳内に具現化させて、栄養価を調べてみる。
スキャニング完了。
ほうほう。この巨大プランクトンは各種ビタミン、カリウム、水溶性食物繊維、タンパク質などを含んでいるようだ。それなりに栄養豊富じゃないか。
しかし、この味はどうしたものか。とにかく塩っぽい。水を飲みたくなる。
ちらっ。
僕は海水を飲んだ。
「うべぁぁぁぁぁぁっ、塩辛いぃぃっっ!!」
やはり海水は海水だった。塩分濃度が高すぎる。これでは脱水症状を起こしてしまう。
そんなことを思っていたら、AaE限使の力が働き、本当に脱水症状を起こしてしまった。
――なんて不便な力なんだ。
想像が具現化するなんて、信じられないにもほどがある。
僕は遥か東の華桜国に飛び、山の中腹に着地した。
よろよろとした足取りで川に向かい、がぶがぶと水を飲む。
水を飲んでいる途中、マタギのような人間と出会い、驚かれた。
「天狗か!?」
天狗と間違われてしまった。
「通りすがりの冥王です!」
現地住民に迷惑をかけるわけにはいかない。僕は竜翼を羽ばたかせて速やかにその場を去り、オールス国に向かった。
歯磨きがしたかったのだ。
ジャングルの中に生えた歯磨きの木で歯を磨いていたところ、通りすがりのエルフたちと遭遇した。
エルフたちは、小型ティラノサウルスに乗っていた。
「か、かっこいい!」
僕は思わず叫んでいた。
サイズこそ小さいが、ティラノサウルスと言えばロマンの塊だ。小さなティラノサウルスを手綱で使役するエルフの姿はロマン×ロマンで超ロマンだった。
しかし、当のエルフたちからは猛烈に罵られてしまった。
「貴様、俺の領地で何をしている! 死ね!」
「死ね!」
「死ね!」
エルフたちは問答無用で魔法を発動した。
黄色と緑色が混じった光と魔法陣が出現したかと思ったら、数千の矢が空中に具現化し、次の瞬間には僕の体にそれらの矢が刺さっていた。
「いてっ、いててっ!」
おかしいな。エルフってこんなに野蛮な種族だったっけ? 地球の『腕輪物語』に出てくるエルフはもっと高貴で温厚だった気がするのだが。
「すいません! 今すぐ立ち去るので許してください!」
「俺の【サウザンドアロー】を食らっても死なんとは! 貴様、ジュリエンに与する者か!? それともリレインのトカゲどもの手先か!? どちらでも構わん、黄金の血統無き者に死を!」
「死を!」
「死を!」
「ひええっ!」
わけのわからない罵倒を繰り広げるエルフが怖くなり、僕は上空に逃げた。
おかしいぞ。僕のエルフのイメージと違う。
第一、ティラノサウルスを使役するエルフなんて聞いたことがない。こいつら、本当にエルフなのか?
色々と疑問に思い始めた矢先、懐かしい声が脳裏に響いた。
『何をやっているのですか。早く王城に戻りなさい』
「フラスフィンさん!」
【精神会話】を通じてフラスフィンさんが語りかけてきたようだ。
『決闘でシュトルムに勝利し、王になるのでしょう?』
「ああ、そうだった」
王になった後は、神に転職してフラスフィンさんと結婚するんだった。
何かを忘れているような気がするが、まあいいか。その内、思い出すだろう。
「さて、王城に戻るか」
脱水症状も収まったので、僕は首都ゴルバンに戻った。
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一方その頃、白蛇神・第三使徒【嫉妬】はミゼルローンらと邂逅していた。
カーンが【無限加速宇宙】を地球に放った影響で、【嫉妬】の肉体は徐々に消滅していく。
空を飛ぶミゼルローンとすれ違う瞬間、【嫉妬】は命がけで【世界守護剣】を抜き放った。
「――その剣は、【世界守護剣】! なぜ貴様がそれをッ!」
出会いはいつも突然だ。
空中で急停止するミゼルローンたちに振り向き、【嫉妬】は尋ねた。
「――単刀直入に問います。この世界は未来の地球なのですか?」
「ん~? そうとも言えるし、そうでないとも言えるわね~」
「グラムグレイズ!? 何を言っている!?」
わめくミゼルローンを手で制し、グラムグレイズは語った。
「この世界はね~、地球人の手でテラフォーミングされた異世界なの~。
あなたはわたしたちに何の用件かしら~?」
「同盟を締結したい。交渉材料として、【世界守護剣】をここに。
――私をあなたの使徒にしていただきたい」
「なに? どういうことだ!? わけがわからんぞ!」
混乱するミゼルローンをよそに、グラムグレイズは艶然たる笑みを浮かべた。
「異世界転生をお望みなのね~。
――元地球人として歓迎するわ~、過去の地球人さ~ん」
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ちなみに――
【アイスプラント・ビトレイヤルリレイティブ】を通じて【無限加速宇宙】の影響を受けた【裏切り】は、誰の目にも付かないところでひっそりと死亡した。
【裏切り】は肉体の欠片すらも残さず、物の見事に消滅したのだった。
――【裏切り】、永久に再起不能。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:system error(佐藤孝一?)
LV:system error(測定不能)
性別:男性
種族:AaE限使
職業:system error(無職?)
HP:system error(692?)
MP:system error(267?)
SP:system error(572?)
STR:system error(602?)
VIT:system error(498?)
DEX:system error(185?)
INT:system error(125?)
AGI:system error(356?)
LUK:system error(112?)
称号:system error(古代兵器級?)
装備:星剣【蛇遣い座】
所持品:雷電器官、元素硬化爆弾など
特徴:AaE限使の能力はAaE限使自身の想像力に依存する
スキル:system error(存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、竜の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV10、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、治癒、マグマシールド、サンダーシールド、強酸化、表面体液、水圧波、自己電気制御、マグマプロージョン、サンダーストーム、リフレッシュヒール、合体、集束太陽光、スキル交換、スキル譲渡、異次元収納LV10、地雷操作、ゲーマー魂覚醒LV2、思考超加速、無限加速宇宙、過去集約、主人公交代、幼き日の光、AaE開花進化など)
人工冥界:リスタルサーク、リスタルサーク、スライム・アビスアース、クラッツバイン、サラマンダー・アビスファイア、ウンディーネ・アビスウォーター、シルフ・アビスウィンド、ノーム・アビスアース
人工冥界居住可能人数:8/一世界
世界所持数:1
パーティ:【安らかなる旅路】に所属
パーティメンバー:フェリス、エミル、イリシャ、セイル、フラスフィン