情報収集
第一使徒と第二使徒視点の話です。
■ 【裏切り】視点■
【恐怖】が時間を稼いでいる間に、【裏切り】は【スナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】100体の人工転生に成功させていた。
覇王竜斬波で崩壊した氷山を資源として利用し、【スナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】を【アイスナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】に転生させる。
この転生には、先の狙撃の反省も活かされていた。
実は、先の一斉狙撃により、100体の【スナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】は砲身過熱状態に陥っていた。
そのため、異次元=地球から引っ張り出した楽園の種子を【スナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】に装填しようにも装填できなかった。
砲身が過熱した狙撃植物で楽園の種子を発射しようものなら、暴発しかねない。そういった事態は避ける必要があった。
そして、現在。
氷山を構成物質として取り込んだ【アイスナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】は、氷山に多量に含まれる水の元素の作用により、砲身の急激な冷却が可能になった。
これが意味するところは1つ。連続的な狙撃である。
100体の【アイスナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】に楽園の種子を装填したビトレイヤルは、今度こそカーンたちを葬るべく、王城に照準を定める。
(連続狙撃でチェックメイトだ)
【裏切り】が敵意と殺意をカーンに向け、【アイスナイプラント・ビトレイヤルリレイティブ】の引き金を引こうとした――その瞬間。
カーンに向けられた敵意と殺意が逆流・具現化し、ビトレイヤルに突き刺さった。
「うごっ!?」
無数に発生した闇の元素が刃の破片の如く【裏切り】に突き刺さる。これら全ての元素は、カーンが【裏切り】の意識を逆利用して生み出したものであった。
(馬鹿な! 何だ、この現象は! 何が起こっている!?)
――全くの想定外。急速に減少していくHPゲージ。
ウラグルーンの元素を用いて製造されたパワードスーツ【元素外殻】を着用しているにも関わらず、カーンが発生せしめた元素は、無慈悲にも【裏切り】のHPを削り取っていく。
(し、死ぬ! 死んでしまう! 逃げなければ、死んでしまう!)
死の危険を察知した【裏切り】は、精神会話で【恐怖】に撤退の意向を伝えると、拠点に転移した。
■ 【恐怖】視点 ■
カーンが具現化させた闇の元素は刃と化し、元素外殻を貫いて【恐怖】の体に突き刺さった。
と同時に、自在に宙を飛び回る闇の元素は【恐怖】を上空へと吹き飛ばした。
なぜ自身を上へ押し上げたのか? 【恐怖】の脳裏に疑問がよぎる。
『て……撤退する!』
【裏切り】にもまた同様の現象が発生したらしい。
【裏切り】は状況悪しと見るや、さっさと転移して撤退したようだ。元素外殻のレーダーマップには最早彼の姿は映っていなかった。
王城の天井をぶち抜いて空へ吹き飛ばされる最中、【恐怖】は瞬時に思考を切り替えた。
敵を殺戮するための思考から、敵の正体並びにその力量を見極めるための思考にシフトする。
【恐怖】は民間軍事会社に属する人間であり、つまるところ、傭兵だ。軍人ではない。
【恐怖】の地球での仇名は“狂犬”だった。自身がどんな目に遭おうが、とにかく敵に食らいつき、最後の最後まで戦う。そういう類の人間だった。
【恐怖】は、自身の体を使って敵の情報を収集し始めた。闇の元素はどれぐらい痛いのか。どこから飛んできたのか。なぜ発生したのか。
【恐怖】は拠点に撤退せずに、最後まで居残り、敵の情報を可能な限り収集する。
【恐怖】は【裏切り】を心の底から信用しているわけではない――だが、【裏切り】が撤退すれば現場で獲得した生の情報をテラ・コンダクトに伝えられる。
【裏切り】が取った選択には価値がある。【恐怖】はそう思った。
自身の思考と元素外殻を情報収集モードに切り替えた【恐怖】は、青く広がる空に押し上げられながら、哄笑した。
「――ハハッ! いいねぇ、わくわくするじゃないかッ!!」