冥界の剣
三人称視点(フラスフィン寄り)の話です。
【恐怖】の【加速元素線】が引き起こした化学反応爆発は、パーティに壊滅的打撃を与えた。
【恐怖】と近接戦闘を繰り広げていたシュトルムとフェリスとセイルは爆発の衝撃で壁まで吹き飛ばされ、かろうじて意識を繋ぎ留めている状態だった。
焼け焦げた謁見の間の中央で、【恐怖】は首を傾げた。
「――おいおいおいおい。
【加速元素線】を浴びせても無傷ってのはどういう理屈だぁ?」
――フラスフィンは無傷だった。
フラスフィンの背後にいたお陰だろう。治癒魔法を唱えるエミルもまた、無傷だった。
「ここまで頑丈な奴は初めてだぜ。お前さん、気に入ったよ」
【恐怖】は星剣【蛇遣い座】を担ぎ、ゆっくりとフラスフィンに歩み寄る。
フラスフィンは【人工なる破滅の杖】を構え、【恐怖】の動きに意識を集中させる。
「どこまでお前さんが頑丈か試してやろうじゃないか。
防げるものなら防いでみな」
【恐怖】が正面から星剣【蛇遣い座】を振り下ろす。
――パッシブスキル【棒術】、オン。
この世界に記録された動作プログラムが、フラスフィンの魂と肉体を駆動させる。
フラスフィンは【人工なる破滅の杖】で星剣【蛇遣い座】の斬撃を受け流した。
杖の中心で星剣【蛇遣い座】の切っ先を受け止めると同時、衝撃を利用して身を回転させ、こちらに与えられるダメージを全て逃す。自身の回転力を利用して、蹴りと杖の打撃を恐怖の顎に見舞う。
手応えあり。
【恐怖】は首をこきりと鳴らし、笑った。
「――ハハハ! 棒術か! 映画に出てくる中国武術みたいだな!」
「否定。この世界の棒術はオリジナルです。この世界は中つ国。そちらの世界と同一視されては困ります」
「だったら、俺をもっと楽しませてみろ!」
会話の最中、斬撃と受け流しが繰り返される。
目の前で繰り広げられる攻防に怖気づき、エミルはびくりと肩を震わせた。
「フ、フラスフィン様っ!」
「貴女は私が守ります。私のことは気にせず、カーンに語りかけて下さい」
「は、はい……!」
エミルは【竜眼石の杖】を握り、必死に治癒魔法を唱える。
「お喋りの時間は済んだかい、嬢ちゃん! 俺とダンスしてくれよ!」
【恐怖】が星剣【蛇遣い座】を横に薙ぎ払う。
フラスフィンは思い切りしゃがむと、頭上を掠める剣の切っ先に杖を当て、上に打ち上げた。
瞬発力を活かした打撃が、星剣【蛇遣い座】から【恐怖】に伝わる。
剣の柄を握る指――そして、それらの指を制御する手首の神経系が一時的に麻痺し、剣をコントロールする能力に不調が生じた。
フラスフィンは一気呵成に【恐怖】の懐に滑り込むと、星剣【蛇遣い座】の柄を下から強打した。
先刻の一撃で剣の水平性を崩すことに成功している。真下からの強打を受け、星剣【蛇遣い座】が【恐怖】の手から弾かれた。
盛大に弾かれた星剣【蛇遣い座】が回転しながら宙を飛び、壁に当たって方角を反転させ、カーンの傍に突き刺さる。
【恐怖】は左手の五指を動かして調子を整えると、拳を握った。
「ハハッ。俺の得物を落としてくれるとはな。恐れ入ったよ。
記念に、お前さんを八つ裂きにしてやろうじゃないか」
【恐怖】は異次元から大型チェーンソーを引っ張り出した。
チェーンソーのエンジンが唸りを上げ、フラスフィンに襲い掛かる。
高速回転する大型の刃とそれを自在に操る筋力に圧倒されながらも、フラスフィンはかろうじてその場に踏み止まった。
「剣を――」
カーンの傍には星剣【蛇遣い座】が突き刺さっている。
冥界に属する剣が、真の主を待ち侘びている。
フラスフィンは、凛とした声で彼に命じた。
「――剣を取りなさい、カーン!」
●ステータス
名前:フラスフィン
LVレベル:1
性別:女性
種族:system error
職業:system error
HP:100
MP:0
SP:200
STR:100
VIT:100
DEX:300
INT:0
AGI:200
LUK:0
装備:人工なる破滅の杖、神帝のローブ
スキル:暗殺無効、味見、棒術
称号:system error
ステータスポイント:0
スキルポイント:0