オーク・ジェネラルが見たもの
色々なキャラの視点が混じった特殊な形式です。
イリシャは ジャイアントウツボカズラを てにいれた!
イリシャは ジャイアントウツボカズラを てにいれた!
イリシャは 井戸水を てにいれた!
イリシャは 祝福された札を てにいれた!
剣刃翔機に乗り、あちこちを巡って素材を採取したイリシャは、既にへとへとだった。
「ハァ、ハァ、なんとか採取したわよ……合成、合成……」
錬金星剣【ニューウェーバー】で空間をぐるぐると混ぜ、素材をポイポイ入れて完成。
【聖水】の出来上がりだ。
宙から首都ゴルバンを見下ろすイリシャは、絶叫した。
「――って、聖水をどうすればいいのよ!」
「あのー、聖水って亡霊のようなアンデッドを打ち払う効果がありマスヨネ? 聖水と合成するってコトは、聖水と同じ効果が剣に宿ってコトデスヨネ……?」
「! そっか、それよ!」
コルバットの助言で頭の中が整理されたイリシャは、ニューウェーバーを虹色の空間に入れた。
虹色の空間で合成が実行され、【人工聖水剣】が出来上がる。
「やった! 亡霊を打ち払う剣の完成よ!」
しかし本番はここからだ。
イリシャは街中でオーク兵と戦う亡霊たちを見渡すと、後方のシロガネに大声で伝えた。
「シロガネさん! 聞こえる!? 私を剣刃翔機に乗せたまま、円を描くようにして首都を飛翔させて! 亡霊を一網打尽にできるはずよ!」
「恐れながら、それではイリシャ殿の正確な位置が把握できませぬ。危険ですぞ」
うっ、それもそうか、とイリシャは思った。
だが、幸いにもコルバットが助けに入ってくれた。
「私がスキル【視界共有】を発動しますノデ、それを参考にして下サイ」
「ふむ。なるほど、それならば安全な運用が出来ますな。承知しました」
スキル【視界共有】は、指定した人物と自身の視界を共有させるスキルだ。
従って、コルバットが【視界共有】を発動すれば、コルバットが見ているものがイリシャとシロガネの目にも映ることになる。
コルバットが上空に飛び立ち、その真下の空中回廊にシロガネが降り立った。
「【視界共有】、オンデス!」
コルバットが見渡す風景がイリシャとシロガネに流れ込み、剣刃翔機の正確なコントロールが可能になった。
シロガネはコルバットと共有する視界に意識を集中させると、イリシャを乗せた剣刃翔機を飛翔させる。
「うりゃあああああああああああああああ!!」
【人工聖水剣】を横に構えたイリシャが、円を描くように首都を飛び回る。
それは、包囲作戦に加わっている亡霊軍団を一網打尽にする動きでった。
「なんだ!?」
「エルフだ!」
市外から上空を見上げるオーク兵の目には、エルフが亡霊軍団を薙ぎ倒しているように映った。
聖水効果を持つ剣で亡霊を次々と強制成仏させていくイリシャの雄姿に、オーク兵が感嘆の声を上げる。
「おお」
「見ろ!」
「エルフだ!」
「エルフが俺たちを救っているのか!?」
「あの剣刃翔機はシロガネ大臣の物だ!」
「シロガネ大臣があのエルフと協力しているのか!?」
エルフの娘、イリシャの活躍はオーク兵の記憶に刻まれた。
イリシャの剣は台風の如く振るわれる。
一陣の風が去った後には、あれほどいた亡霊が綺麗に成仏していた。
荒い息をしながら、イリシャはガッツポーズを取る。
「やったわ! 亡霊を全部片付けたわよ!」
数多の亡霊に生命力を吸い取られ、消耗し切っていたオーク兵たちにとって、イリシャの活躍は非常に眩しいものだった。
市街各地から、続々と亡霊の成仏模様が伝えられていく。
「亡霊、各地で成仏完了! サイクロプスとガーゴイルの眼にも映っていません!」
「おお……!」
「救世主か!」
「まさかエルフがこのようなことをするとは」
「エルフって実はいい奴なんじゃないか?」
「いやいや、あの娘がいい子なんだよ」
「エルフ万歳!」
「エルフ、ばんざーい!」
亡霊軍団に生命力を根こそぎ奪われかけたオーク兵にとって、イリシャを神聖視するのは自然な流れであった。
【精神会話】で各オーク兵からの連絡を受けたオーク・ジェネラルは、思慮を巡らした。
(剣刃翔機はシロガネ大臣が擁する古代兵器。古代兵器は認証された者にしか起動できぬ。
……シロガネ大臣はこの娘に手を貸したのか)
王城が如何なる状況になっているかは知らない。国王が死亡したのかもしれないし、何らかのスキルの作用によって、軍に指示を送るための【精神会話】が遮断されたのかもしれない。様々な可能性がオーク・ジェネラルの脳裏をよぎる。
しかし、どんな可能性を描いたとしても、最終的な結論としては、この辣腕を認めざるを得ないという点に尽きる。
初動こそ不可解な点が多いが、強引にこの事態を解決した手法は評価できる。評価できるが故に、こう思わざるを得ない。
この手法を、たった10才程度のエルフの少女が導き出せるものだろうか?
オーク・ジェネラルは、エルフの娘の背後にいる何者かの存在を敏感に感じ取っていた。
状況から推測するに、エルフの娘の背後にいる何者かは、緊急時において最速で事態を解決できる作戦を実行した。そうとしか思えなかった。
(亡霊を掃討してみせた手腕と言い、この娘とその背後に立つ者は将来の王となるかもしれぬ)
オーク・ジェネラルはジャイアントバードの背に跨ると、剣刃翔機で浮遊するイリシャの横に飛んだ。
「失礼。貴君の名は何と言うのだ?」
「うおわっ!?」
突然の出会いにイリシャは驚いた。
驚きつつも、ぐっと力を込めて告げる。
「私の名前は、イリシャ・フィームよ! 覚えておきなさい!」
「イリシャ・フィーム……」
オーク・ジェネラルはその名を頭に刻み込んだ。
「貴君はいずれ、この国を動かす者となるかもしれぬ。いや、そうあって欲しいものだ。
我々は、その時が来る日を心待ちにしている」
「そ、そう? あ、シロガネさんから連絡が来てる! 戻らなくちゃ! じゃあね、オークさん!」
イリシャはオーク・ジェネラルに手を振ってシロガネ大臣の下に帰還した。
一人残されたオーク・ジェネラルは、朝日が差す首都を見下ろしながら胸中で呟く。
(赤き髪のエルフか。彼女こそが歴史に名を残す英雄……いや、魔王となるかもしれんな。
背後に立つ者もまた、王の資格を持つ者であろう。その正体は、覇王か。はたまた暴君か。それとも帝王か。今はまだ機は熟していないが――
――待とうではないか。時が至るまで。貴君の素性が明らかになった時には、共に国を守る者として、我らも尽力しようぞ)
それは、やがてこの世界に君臨することになる【冥王】と【魔王】の配下誕生の瞬間でもあった――。