15話:他人には見えないゲージ類
『フェリス。すまぬが、手を離してはくれぬか。
我輩のHPゲージが赤色になっているのでな』
ふぅ、ようやく言葉を捻り出せた。
フェリスさん、ハッとしてパッと手を離した。
『お、おお、すまない!
して、HPゲージとは何なのだ?』
え。
HPゲージ、知らないの? 騎士なのに?
『この世界に来た時より、我輩の眼にはHPゲージなるものが見えるようになった。
どうやらこれは自身の体力を表してるようだが、何か知らぬか』
フェリスさんとエミルちゃん、顔を見合わせた後、ぶんぶんと頭を横を振った。
『いや、知らないぞ。そも、HPとは如何なる地域の方言だ?』
『ヒットポイントの略だ』
フェリスさんは「ん?」と首を傾げた。
『意味を理解しているではないか。私を試すとはカーン殿も意地が悪い』
『じゃあ、HPはカーン様だけが持っている思想なんだね!』
え。
『念のため聞くが、MPゲージは知らぬか?』
『MP? なんだそれは?』
『SPゲージは?』
『SP? なんだそれは?』
――ダメだこりゃ。
僕の頭が痛くなってきた。つーか棺桶に頭ってあるんですかね。
しかし、まさかここまで会話が成立しないとは思わなかった。
フェリスさんにもエミルちゃんにも見えないHP・MP・SPゲージ。まさかこのゲージ類が見えるのが自分だけとは……。
この世界の住民は、どうやってHPとか管理してるんだ?
そういえば、盗賊集団が魔力切れとか言ってたな。魔法が発動できなくなってから初めて魔力切れだと気づくパターンなのか、この世界。
うわー雑だなー。雑すぎるわー。
うん。この流れになるとさ、あれだよね。
僕がパーティメンバーのHP・MP・SPのゲージを管理するようになるタイプの展開だ。
システムメッセージさん、そこら辺どうなのよ?
ピコン。
『スキル《情報把握》がスキル《情報把握・強》に進化しました』
よっしゃあああああああ! キタコレ! スキル進化!
って喜んでる場合じゃねぇぇぇぇぇぇぇ! 本当にフェリスさんとエミルちゃんのHP・MP・SPゲージが見えるようになっちゃったよ!
あわわわわ。フェリスさんとエミルちゃんの頭上に3つのゲージが並んでおる。
ザ・ネトゲで見た光景。ファンタジー要素、台無し。
僕のスキル《情報把握・強》が他の人にバレたらまずい。パーティメンバーのHP・MP・SPを管理せよという仕事を押し付けられかねん。
嫌だぞ、そんな聖職者みたいな真似事! ただでさえこの世界に来たばかりなのに、パーティメンバーのHP・MP・SPの管理なんて出来るか! 第一、回復スキルなんて持ってないわ!
とりあえずこのスキルの存在は秘匿しておこう。そうしておこう。
ドンッ。
ん?
何だ? 今の音は?
幻聴か? 今日は色々とあったからな、きっと過労で幻聴がだな……
ドンッ!
幻聴じゃねぇぇぇぇぇぇ!
このテント、揺れてるよ! ぐらぐら揺れてるよ!
ブーーーーーン……
しかも!
時折混じるこの耳障りな音!
間違いない!
――蚊だ。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:佐藤孝一
LV:2
種族:不明
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神、守護の精神
スキル:存在同化、自動翻訳、情報把握・強(NEW!)、地属性耐性、疾走撃、その他色々なスキル、傲慢LV1、同化存在解放
存在ストック:ナイトメア
存在ストック上限:1/3
パーティ:フェリスのパーティに所属