57話:安らかな死を与える者
僕にも【闘気制御】がある。
闇属性の闘気を解放した僕は、周囲に真っ黒い闘気を噴き出した。
「闇属性の闘気――。【覇王闘気】一歩手前の質と量だな」
国王に褒められてしまった。そうか、この闘気を磨けば【覇王闘気】になるのか。
ここで生前の知識を投入! 『ドラゴンホール』と『パンター×パンター』を真似て、放出した闘気を自身の肉体に集中させる。
ピコン。
『強化効果【STR上昇】と【VIT上昇】と【AGI上昇】が付加されました』
良し、上手くいった。闘気を筋力の代用品とすることで、一時的にSTRとVITとAGIが上昇した。
一方のシュトルムは、【貪欲の黒剣】で強酸の水鉄砲を受け止めていた。
なるほど、そう来たか。感心する僕の横でイリシャが驚愕する。
「なっ!? 【水圧波】を刀身で受け止めたわよ!?」
僕とシュトルムの周りには審判やらパーティメンバーやらが集い、観客席と化していた。
イリシャの疑問に応じ、フェリスが解説する。
「刀身が長く幅広な剣は、盾代わりになる。あれほど幅が広ければ十分に盾として使えるだろう」
「でも、カーンが発射してるのはどう見ても強酸よ!? あんなの受け止めたら剣が溶けるわ!」
その通り。スライム・アビスアースが有する強酸の体液は鋼の武器や防具をも溶かす。今は決闘領域で保護されているからいいものの、こんなものを平常時にも発射していたら色々なものがデロンデロンに溶けかねない。
「魔剣【貪欲の黒剣】には【吸命】と【吸活】の効果が付与されている。体液を生命力や活力と解釈すれば、吸収できるのだろう」
その通り。体液だって無尽蔵に作れるわけじゃない。こうして強酸体液を発射している間にも僕のHPゲージとSPゲージが徐々に減っていく。
「そっか、目標の物体に当たってさえいれば吸収できるのね」
そうですね、そういうことになります。シュトルムはこの効果を応用して、僕の【水圧波】を防ぎ、なおかつ各種ゲージ類の吸収源にしているのです。
スキル【未来集約】よ、敵のゲージ類を表示せよ。
ハイ、見えました。シュトルムの頭上にゲージが3つ並んでいます。僕の【水圧波】を受けているにも関わらず、シュトルムのゲージがちらちらと輝いて回復しているではありませんか。
多分、これがドレイン系効果のエフェクトなのだろう。なんてわかりやすいエフェクトなんだ。フラスフィンさんが設計しただけのことはある。
閑話休題。
今の攻防で相手の力量は大体わかった。
シュトルムは強い。確実に強い。武器の使い方を熟知しているタイプの人間だ。
「今の一撃はスライムのスキルだな。貴様、スキル略奪者か?」
へぇ。この世界にはスキル略奪者がいるのか。
どうやら、牽制を行う価値はあったようだ。情報の価値は何よりも高い。
「不思議に思うか? 我輩がスライムのスキルを使用することを」
僕は思い切って相手の懐に飛び込んだ。
相手の刃に触れる度に相手が回復すると言うのなら、素早く剣を打ち込んで離脱する戦法を取るしかない。
「風の噂でな。最近になってスキルを略奪する者が現れたそうだ」
イリシャの真似をするのはキャラ被りするので避けたいところだが、今は四の五の言っている場合ではない。
食らえ! 三連突きもどき!
「あっ、それ私のスキル」
「えっ、そうなの?」
イリシャとエミルちゃんがお話をし始めた。うんうん、そうやって仲良くなってくれると嬉しいな。
僕の三連突きは見事にヒットした。シュトルムの腹部、胴体、胸部に命中だ。
しかしHPゲージがあまり削れない。3回突いてゲージが1、2割ほど減った感じか。
そして、相手も当然ながら反撃してくるわけで……豪快に振るわれた剣の一撃によって、マグマシールドが1枚割れた。パリーンと音を立てて盛大に割れた。
つえーな。マグマシールドが身代わりになってくれたお陰で助かった。しかし、マグマシールドを斬ったためか、シュトルムのゲージが若干回復してしまった。
【貪欲の黒剣】に付与された【吸魔】の効果だ。攻撃能力を備えたマグマシールドを斬っても吸収できるとは恐るべし。
とは言えマグマとサンダーのお陰で【貪欲の黒剣】の刀身が少しだけ焼け溶けたので、痛み分けに近い。
一旦後方に飛び退いて距離を取る。【雷電器官】を稼動させながら、さっきの質問に答える。
「それが我輩だと?」
「疑いはある。スキルとは魂の一部だ。それを勝手に略奪されるのは魂を刈られるのと同じだ」
ふむ。一理ある。
頑張って覚えたスキル。必死に上げたスキルレベル。それらを奪われた時の悲しみは想像を絶する。
僕は同化した相手に死を丸ごとプレゼントしているので、禍根を残さない。代わりに僕が同化対象と同じような構造になるので、まあ、バランスは取れてるんじゃないでしょうか。
「誤解されたままでは埒が開かない。
真実を一つ明かそう。我輩のユニークスキルは【存在同化領域】だ」
イリシャがなっと声を上げた。
「ちょっと! なに考えてんのよ! 相手に手の内を晒すなんて!」
「そ、そうか? 騎士道精神的には悪くはないと思うのだが……」
フェリスさんがごにょごにょ喋る間、シュトルムが語る。
「存在の同化。死を司るスキルか。闇竜神の後継者らしいスキルだな」
「存在同化を知っているのか?」
「いや。単なる想像だ。しかしその様子を見ると、真のようだな」
「うむ。相手に安らかな死を与える。それが我輩のスキル【存在同化領域】の特徴だ」
言ってしまえば、相手を棺桶に引きずり込むようなものだ。
イリシャが「敵に手の内さらすなんて信じられない!」と言っている間、シュトルムが尋ねる。
「では、なぜそれをこの場で使わない?」
「存在同化は強き者には効果が無い。一種の薬のようなものだ」
「薬か。なるほど。純粋人間族には効いても象には効かない、そういうことか」
「然り。神に誓おう。我輩はスキル略奪者ではない」
「スキル略奪者ではないとすれば、貴様は何者だ?」
僕は何者なのか。
僕は、内心で嗤った。
「通りすがりの、棺桶だ」
シュトルムと話していると、今生の僕の素性が次々と開かされていく。
こいつと話しているとなぜか安心する。適度な緊張感と距離感を保ち、相対するこちらが何者であるのかをちゃんと定義してくれる安心感が介在していた。
直に接していて分かる、解放感と安心感。これが、王なのか。
王……そういえば、王というのはそういうものだったな。
国民を安心させるのが王の仕事だ。現にシュトルムは、僕を安心させている。
僕は少し、シュトルムに憧れた。
同時に、痛感させられた。戦いの中で敵に敬意を表せるとは、僕にも随分と人間らしさが残っているものだ。
シュトルムとの決闘は、色々なものに気づかせてくれる。
多分、彼には僕に無いものを持っているんだろう。僕はそれがたまらなく羨ましく、そして、目指すべき目標のように思えた。
ピコン。
『進化の風が吹きました』
そろそろ主人公が自分の立場を直視して、運命を受け入れる頃です。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:佐藤孝一
LV:10
種族:人工闇竜・成長体
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神、守護の精神、巨乳美女を警戒する、古代兵器級、地雷屋さん
隠し称号:神帝から観察されている
所持品:雷電器官、奈落の種子
スキル:存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、畏怖耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV10、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、治癒、マグマシールド、サンダーシールド、強酸化、表面体液、水圧波、自己電気制御、マグマプロージョン、サンダーストーム、リフレッシュヒール、合体、集束太陽光、スキル交換、スキル譲渡、異次元収納LV10、鼻伸ばし、地雷操作、ゲーマー魂覚醒LV2、無限加速宇宙、未来集約、主人公交代、幼き日の光、AaE開花進化
存在ストック:リスタルサーク、リスタルサーク、ピノッキオンズ・アビスアース、ピクシー・アビスウィンド、スライム・アビスウォーター、スライム・アビスアース、クラッツバイン、ザンダーバイツ、ケトゥアローウァ、サラマンダー・アビスファイア、ウンディーネ・アビスウォーター、シルフ・アビスウィンド、ノーム・アビスアース
存在ストック上限:13/50
パーティ:【安らかなる旅路】に所属
パーティメンバー:フェリス、エミル、イリシャ、セイル、フラスフィン
隠し効果付与:神帝の観察