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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第二章:棺桶の就職
136/240

イリシャ視点:二重の意味で顔が青ざめる

イリシャ視点の話です。


「素晴らしいわ! エミルちゃんは何にでもなれるのね!」


 ベテラン受付嬢のウンディーネが歓喜の声を上げる。



 ここは冒険者ギルド。


 冒険者を始めるには適性が重要となる。

 【適性判別】の効果が付与エンチャントされた水晶球に映し出されたのは、以下の判別結果だった。

 


『エミルの適性


●闘気カテゴリ

火属性:100%

水属性:100%

地属性:100%

風属性:100%

光属性:100%

闇属性:200%

???:100%


●魔法カテゴリ

火属性:100%

水属性:100%

地属性:100%

風属性:100%

光属性:100%

闇属性:200%

???:100%


●錬金術カテゴリ

火属性:100%

水属性:100%

地属性:100%

風属性:100%

光属性:100%

闇属性:200%

???:100%』



 エミルの判別結果を見たイリシャの悲痛な叫びを木霊する。


「――あ、あんた、全カテゴリ全属性適性者だったの!?」


 エミルは状況を飲み込めず、目をぱちくりとさせていた。





 事の始まりは1時間前に遡る。

 エミルたちが城下町の大通りを歩いていると、こんな会話が聞こえてきた。


「よしよし、今日も家畜をやっているな」

純粋人間族ピュアヒューマンは絶滅危惧種だからな。適当な書類仕事でも与えて大切に扱ってやらんと」


 ハーッハッハ、とゴブリンたちが哄笑を上げて去っていく。

 エミルはガラスの檻に閉じ込められた純粋人間族たちを見てぽつりと呟いた。


「あんなのおかしいよ」


 イリシャは思わず、「げっ」と声を上げた。


「あんた、純粋人間族ピュアヒューマンの肩を持つの?」

「うーん……? この間、トウマっていう純粋人間族ピュアヒューマンの子が、あたしを助けてくれたの。だから、ちょっと見直したっていうか」


 イリシャは猫の如き好奇心を疼かせ、にやにやと唇の端を歪める。


「ははーん。あんた、トウマって奴に惚れたのね」

「えっ!? そうなのかな?」


 エミルは耳まで真っ赤になり、もじもじし始めた。


(ふっふっふ。鍛えるチャンス到来ね!)


 街中で武器防具消耗品の類は揃えたが、肝心のエミルにどんな適性があるのか分からない。分からない以上は鍛え様がない。

 しかしここに来てチャンス到来! エミルを育成する絶好の機会だ! イリシャはくっふっふと怪しい笑い声を上げながら、エミルに冒険者への道を勧めた。


「だったら冒険者免許を取得しなさい! 冒険者になればトウマと対等になれるわよ!」

「ほんと!?」


 エミルは瞳をきらきらと輝かせ、冒険者ギルドに向かった。

 すっかり保護者と化したセイルとフェリスの手により、エミルは【冒険者免許】を取得した……のはいいものの、そこから先が問題だった。





「あ、有り得ない。こんなことが、こんなことが、起きるなんて」


 水晶球に映し出されたエミルの適性結果を見て、イリシャはくらりとよろめいた。

 ちなみに、イリシャの適性は以下の通りである。



『イリシャの適性


●闘気カテゴリ

火属性:0%

水属性:30%

地属性:50%

風属性:90%

光属性:10%

闇属性:80%

???:30%


●魔法カテゴリ

火属性:0%

水属性:0%

地属性:0%

風属性:0%

光属性:0%

闇属性:0%

???:20%


●錬金術カテゴリ

火属性:70%

水属性:20%

地属性:60%

風属性:30%

光属性:10%

闇属性:80%

???:50%』




 教える側が適性面で負けているという珍事だった。


 エミルは自身とイリシャの適性を比較した上で、冒険者ギルドの受付嬢に尋ねた。


「あのっ、適性ってそんなに重要なんですか?」

「そうねぇ、適性が無いと望む職業に中々就けないのよ」


 受付嬢がさらりと言った言葉はイリシャの心にグサッと刺さった。


「い、いいのよ。見てなさい、私は必ず、錬金騎士に」

「イリシャちゃんの場合、適性よりも性格の方を直した方がいいかもしれないわね」


 グサッ! 何気ないウンディーネの言葉がイリシャの心を傷つけた!

 イリシャは隅っこでウジウジし始めた。


「いいわよいいわよどうせ私なんて破滅の化身だし全カテゴリの適性は低いし捨て子だしどうせ私なんて」

「イ、イリシャちゃん、大丈夫だよ! きっとイリシャちゃんなら錬金騎士になれるよ!」

「ううー! あんたは優しいのね!」


 慰められて心が回復したイリシャはエミルをハグした。


 彼女らの様子を横目で見ながら、セイルはクエスト達成の報告をした。


「毎度毎度すまないな。私の生徒が世話をかけて」

「いえいえ、いいんですよ。それより、クエストの方はどうでした?」

「この通りだ」


 セイルは異次元に収納しておいたポイズンウルフとシェイプシフターの残骸を冒険者ギルドに解放した。


「わぁ、シェイプシフターですか」

「冒険者の中に紛れ込んでいたぞ。どうにかならんのかね」

「次からは大目玉ちゃんを連れてきますね。はい、これは今回のクエストの報酬です。シェイプシフターをブチのめしてくれたので、追加報酬も含まれています」

「うむ、助かる。――で」


 セイルはフェリスの方に振り向いた。


「本当にエミルを冒険者にしても良かったのか?」

「カーン殿や私もいるのだ! 問題は無い!」


 フェリスは胸を張った。

 セイルは思案する。


「カーンが国王になったら、多忙を極めるぞ。私も常に同行できるとは限らん。ましてやフラスフィンは神だ。何を考えているのか分からん。もう少し信頼できる仲間を集めておいた方が良いのではないか?」

「うーむ。一理あるな」

「カーン様、本当に国王になるのかな?」


 イリシャを慰める中、エミルが顔を上げて言う。


「カーン様が国王になったら、絶対に、カーン様があたしの本当のパパだよ! 絶対に、絶対だよ!」


 セイルは目を細め、フェリスに視線を注いだ。


()()()()()()だ?」

「う、うむ」


 フェリスは歯切れ悪く答える。


「表立っては言い難い事情だ。【精神会話】で話すとしよう」



 数分後。

 【精神会話】でフェリスからエミルの事情を聞かされたセイルは、頭を抱えた。


 セイルは椅子に座り、盛大に溜息をつく。


「そういうことか……。温泉で逃亡した件で何かおかしいと思ったが、ようやく合点がいった」

「ちょっと! 先生! 何がなんだか分からないわよ! 説明しなさいよ!」


 精神的に復活したイリシャを手で制し、セイルとフェリスは【精神会話】でエミルの事情を告げた。


 エミルの事情を聞いたイリシャの表情から、さーっと血の気が失せていく。


「それ、ホントなの?」

「嘘をついてどうする。いいか、いま話したことは国家機密だ。誰にも言うな」


 誰が言うものか。


 エミルが()()()()()()の血を引いているかもしれないなんて。


「機密は厳守しろ。とにかく厳守だ。エミルとは今まで通りに接しろ。いいな?」


 イリシャは青ざめた表情のまま、こくこくと頷いた。


 冒険者免許と適性結果を見て喜んでいるエミルの後ろで、セイルは溜息と共に立ち上がった。


「さて、十分に時間は潰せた。王城に行くとしよう」



次回は三人称視点(ミゼルローン視点寄り)の話となります。

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