表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第二章:棺桶の就職
131/240

セイル視点:国難

セイル視点の話です。若干シリアス気味です。


(【概念集束剣イデアソード】に【テラ・コンダクト】か)


 上空を哨戒しながら、セイルは物思いに耽る。


(詳しくは聞くまい。いずれ、全てが分かる日が来る)


 それまでは己の命を全うすべし。セイルは西の方角に飛び、ヴァラド国の領土を観察して回った。



 昨晩、カーンは領土守護結界に穴を空けた。

 空けた穴から何者かがヴァラド国に侵入したようで、ヴァラド国領土の侵食率は格段に上昇していた。



 侵食率。

 それは、【奈落の種子(アビス・シード)】に侵食された度合いを示すバロメータだ。



 【奈落の種子(アビス・シード)】に汚染された土地は深刻な疫病に見舞われる。国民が主食とするパンの材料である小麦の類は枯れ、ハチは集団失踪し、大量の深海魚が岸辺に打ち上げられる。ヴァラド国を飛翔するセイルはそれらをリアルタイムで目の当たりにした。



 小麦の枯死、ハチの集団失踪、深海魚の打ち上げ。これらの現象はいずれも、土地が【奈落の種子(アビス・シード)】に侵食された証であった。それも、【奈落の種子(アビス・シード)】がもたらす汚染の第一段階に過ぎない。本格的な汚染は、これより始まる。


(誰がやった)


 何者かが直接的に【奈落の種子(アビス・シード)】を散布した、と推測するのが妥当であろう。

 しかし、これはあまりにも規模が大きすぎる。何者にも察知されず、気配を殺して【奈落の種子(アビス・シード)】を広範囲に散布する……これは常識では考えられぬ現象であった。


(領土守護結界に穴が空いてから、僅か8時間足らずの内にここまで土地を汚染するとはな)


 やはり、【奈落の種子(アビス・シード)】を撒いている者は白蛇神並びにその使徒と見て間違いないだろう。

 自身の推測に加えて、フラスフィンの警告という要素を組み合わせた結果、導き出される答えはそれしかない。


 土地が汚されれば、いずれは空が汚される。翼人族ウィングヒューマンにとっての聖域である空は何としてでも守らなければならない。

 そしてその鍵は、フラスフィンとカーンが秘めているように思えた。


 気づけばヴァラド国の首都が視界に映り込んでいた。

 白亜の城壁に守られた、空中回廊が連なる高層西洋都市。大通りではダブリットとトランクホーズを着たゴブリンたちが露店で林檎と白パンを買い、ブリガンディンを纏ったオーク兵士が秩序を守るべく整然と闊歩し、白と青の法衣を着込んだサキュバス僧侶が聖堂で祈りを捧げている。数多に佇む監視塔ではガーゴイルとサイクロプスが見張りの番をし、ハーピーが六竜神を称える歌を合唱する。カラスの群れとスフィンクスが見守る中、ドワーフとオーガが彫刻を彫る音が響き渡る。


 これが西洋の中心、首都【ゴルバン】だ。


 人口比に対して居住可能な土地が少ないがために、住宅は増築に増築を重ねて巨大なる塔と化し、密集住宅マンションの様相を呈している。しかしそれ故に荘厳なる景色を作り出しているのだから皮肉なものだ。

 空を貫かんとばかりに聳える居住塔の数々を目にして、セイルは複雑な思いに駆られる。


 ドドドドドドドドドドドド!!


 遥か東より轟音が響き渡った。

 東の方角に視線を向けると、開けた平野の街道を行くベヒモスタクシーが1台。猛獣ベヒモスが砂埃を上げ、街道を爆走していた。


 ベヒモスをタクシー代わりに使うとは、余程の出来事か。いや、国難であろう。


「何事か」


 高度を落としてベヒモスと並走し始めたセイルは、ベヒモスの背に乗る者に尋ねた。


「その声は、セイル! セイル殿か!」

「如何にも。私はセイル・ラザムである。その声、その姿、シロガネ殿と見た」


 ベヒモスの背から身を乗り出したのは、立派な髭を蓄えた白髪の紳士である。


 この者の名はシロガネ。種族はハーフフットであり、職はヴァラド国の大臣である。


「転移門はどうしたね。あれを使えばベヒモスを使う必要は無かろう」

「転移門は破壊されました! 全ての転移門が、一斉に破壊されたのです! オールス国、華桜国、リレイン国でも同様の現象が発生! 特にリレイン国は惨憺たる状況です!」

「なんと」


 これにはさすがのセイルも驚きを隠せなかった。


「セイル殿! 国王から緊急招集です! 結界破壊者を至急捜索し、王城に連行せよとのことです!」

「その必要は無い。私は結界破壊者とフレンドとなっている」

「なんと!? 結界破壊者とフレンドですと!? ハハハハハ、さすがはセイル殿! その人望、羨ましい限りですな!」

「結界破壊の責任は問われるのかね?」

「責任は問われますな! 結界破壊者には次期国王になって頂かなければ!」

「うむ、そうなるであろうな。あいつなら喜ぶだろう」

「結界破壊者によろしくお伝え下さい! 私はこれから国王に他国の現状をお伝えしなければなりませぬ! ハイヤー!」


 シロガネは猛獣ベヒモスの手綱を華麗に操ると、首都ゴルバンへと急ぎ向かった。


(国難か。早く伝えなければならんな)


 セイルは翼を広げて反転すると、温泉街へ舞い戻った。



ようやく首都が見えました。

次話は一人称視点(カーン視点)となる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ