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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第二章:棺桶の就職
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イリシャ視点:不思議な縁


(わけが分からないわ。【概念集束剣イデアソード】って何よ。【テラ・コンダクト】って何よ)


 イリシャにとって、昨日はわけのわからない出来事の連続だった。


 いきなり風竜神フラスフィンが現れたと思ったら、1年後の世界崩壊と1年間隔の【概念集束剣イデアソード】発動を宣言した。


 神々の抗争に巻き込まれた一般人の心境とはまさにこのことだろう。あまりにも唐突かつ、意味不明すぎて常識が吹き飛びかねない。


 それに加えて、カーンの素性の意味不明さが拍車をかけている。【テラ・コンダクト】の元ハッカー? 何なのだ、それは。テラ・コンダクト? ハッカー? それらは錬金術的に合成したり分解できるのか?


 好奇心は猫の如く疼く。イリシャはカーンを問い質そうと試みたが、生憎と彼は温泉に入っているようだった。


(ぐぬぬぬぬ!)


 この宿の温泉は混浴だ。ここでまた温泉に入ったら昨日の二の舞――いや、恥の上塗りである。


 昂ぶる感情をどこにぶつけたらいいものやら。


 セイルはどこかに行ってしまっており、年上の男性はどこにもいない。


 スライムに鬱憤をぶつけるわけにもいかず、イリシャは廊下を行ったり来たりと、兎角落ち着かなかった。


 途中でフラスフィンとフェリスを見つけたが、彼女らはいつの間にか仲良くなっており、談笑していた。使徒がどうのこうのと言っていたが、そんなことはどうでもいい。

 いや、気になると言えば気になるが、神というのはイリシャから見れば大概ろくでもない生き物だ。なぜエルフ族に自分のような人間を生まれさせたのか? 神は世界に祝福をもたらす存在ではなかったのか?


 既存の神を見ていると、嫌でも自分が呪われていると感じざるを得ない。自分に生の祝福など無い。生まれてきたことを後悔するような思いに駆られるだけだ


 神の会話は気になれど、あまり深く関わりたくは無い――そんな気持ちを抱えるイリシャが唯一話しかけられるのは、年の近いエミルだけだった。


 エミルはテラスから結晶樹の森を眺めていた。彼女の手には竜眼石の杖が握られている。ファーコートもよく似合っており、幼いながらも、一端いっぱしの魔法使いという雰囲気が出ていた。


「あー、おほんおほん。ちょっといいかしら」


 エミルは驚いたように振り返った。


「あんた、エミルって言うのよね」

「う、うん」

「私、イリシャ。イリシャ・フィームよ」


 エミルはびくりとして視線をイリシャに向ける。野生の【巨大猫ジャイアントキャット】に獲って喰われる小動物のような怯えを見せていた。


 別に取って食ったりはしない。イリシャは思い切って、昨日の非礼を詫びた。


「昨日はごめんなさい! 私がカーンさんに決闘を申し込んだの!」


 エミルがハテナマークを頭の上に浮かべる間、イリシャは冷や汗を浮かべながら語る。


「ほら、私って血の気が多いから、つい決闘とかやっちゃうのよ! 決闘って便利でしょ、非殺傷ルールの下で戦うからスキル上げもレベル上げも思いのまま、愛好者も途絶えない大人気の概念で……って言っても無駄か」


 ハァ。イリシャは自分の情けなさに内心溜息をつくと、ビシッとエミルを指差した。


「じゃあ、こうしましょ! あんたは私のことが気に入らないんでしょ!? あんたは私のことを父親を取った女だと思ってる!」

「ふ、ふええ!?」


 エミルは狼狽えた。図星を突かれたのだろう。


 エミルはしゅんとした。


「カーン様は……別に、お父様じゃ……」

「いーえ、隠しても無駄よ! 隠し事をして『好きごっこ』するぐらいなら、堂々と嫌われた方がマシだわ!」


 ふんす、とイリシャは胸を張る。


「あんたに確認したいのはそこよ! あんたは私をどう思ってるの!? 私は怒らないし、暴力も振るわない! 何だったら殴ってもいいわ! あんたの本音を私にぶつけて! そうじゃなきゃ、私よりカーンさんの方が不遇でしょ!」


 有無を言わさぬ誘導尋問じみた質問だが、面倒な事態になるぐらいだったら悪にでも魔王にでも何でもなってやる。

 罪無き者が誤解されたまま罪を被るのは、イリシャのポリシーに反する。自分の責任は自分で取るのがイリシャの信条だった。


「あ、あたしは……」


 エミルは杖を握り締め、精一杯の虚勢を張った。


「あたしは……悔しい、かも……」

「じゃあ私を憎みなさい! カーンさんは関係なし!」


 イリシャはつかつかと歩み寄ると、エミルの手を優しく握った。


「私を憎むあんたは、私が守るわ! 好きな時に復讐でも何でもすればいいわ! 何だったら、私を倒すための稽古だって付けてあげる!」


 偽らない感情、イリシャの本音だった。


 カーンとエミルたちの関係がこじれたきっかけはイリシャにある。それこそ酷くつまらない感情に端を発したものであったが、その酷くつまらないきっかけがエミルという少女の心を傷つけたのだ。そう思うと、自分という存在が心底情けなく思えた。


「だから、めそめそしない! 泣くぐらいだったら、あんたの感情を私にぶつけなさい!」

「う、うん」


 エミルは当惑しながらも、イリシャの手を握り返した。






 本当の父親を求める子と、その子を守る未来の騎士。


 不思議な関係。不思議な絆。


 エミルとイリシャの間に、不思議な縁が生まれつつあった。


次話は三人称視点(セイル寄り)になる予定です。

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