フェリス視点:今日もがんばるぞ!
フェリス視点の話です。
フェリスは自室で【竜眼石の盾】を手に取り、しげしげと眺めた。
盾の裏側には自身の竜眼石が埋め込まれている。
こんなにも簡単に竜眼石が取り出せるとは。種族としての誇りがどこかに消え失せてしまいそうだ。
複雑な思いに駆られるフェリスの下に、フラスフィンが突如として現れた。
「フェリスよ。私に付き合いなさい」
「はっ――?」
あまりにも唐突な申し出にフェリスが驚愕している間に、フラスフィンは彼女を拉致した。
気づけば青空の真っ只中に立っていた。眼下には闇に浮かぶ巨大な孤島が見える。
(な、なんだ、これは!? 一体全体、何なのだ!?)
人智を超越した光景を目の当たりにして、フェリスは恐怖と緊張のあまり、ガクガクと膝を震わせた。
「フ、フラスフィン様! こ、ここここれは!?」
「足場です。今作りました」
いや、そういう問題ではない。確かに魔力で透明な足場を形成されており、そのお陰で島に落下せずに済んでいるようだが、なぜいきなりこんな場所に転移させられているのだろうか。
フラスフィンは説明した。
「ここは【奈落の闇】の境界線です。100秒先の未来で白蛇神・第二使徒【裏切り】が【隕石召喚】を発動します。貴女はここで隕石を破壊して下さい」
「フラスフィン様、事情が飲み込めないのですが……」
「【半竜化】を発動しなさい」
半竜化!?
フェリスは動揺した。
「お……お言葉ですが、半竜化は週に一度しか使えません!」
「竜眼石の盾を使いなさい。その盾さえあれば、半竜化はいつでも使えます」
(なんと!?)
まさか、竜眼石の盾にそのような使い道があろうとは。
いつでも半竜化できるのなら、問題なし! フェリスは半竜化を発動した。
「【半竜化】!」
竜眼石に刻まれた記録が再生された。
フェリスの腕と脚が完全に竜化し、胸部と胴体を純白の竜鱗が覆う。胸腰筋膜付近から竜の尾が生え、背中には一対の翼が広がった。
全ステータスが向上する上に高速飛翔できるという、贅沢な形態である。武器は【対魔殺戮剣・超絶限界加速式+++封印形態】だ。
いつでも半竜化できると知ったフェリスは、今日もがんばるぞ! という気持ちで半竜化形態専用スキルを発動した。
「【光竜爪斬波】!」
斬撃が5本の衝撃波に分かれ、闇の彼方に現れた隕石を砕く。
一応、隕石は月並みの大きさはあるのだが、見事に砕いてしまった。フェリスは実はここまで強いのだ。その証拠に、スキルにカタカナのルビが振られている。神から強いと認められたスキルやアイテムはカタカナのルビが振られるのだ。
しかし、あまりにも大雑把なスキル運用をしたためか、無数の破片がウラグルーンに降り注いでしまった。
このままではウラグルーンは滅亡だ。フラスフィンは隕石の破片を背景に、フェリスを勧誘した。
「貴女はとても筋が良いですね。どうですか? カーンの使徒になってみては」
フェリスにとって生まれて初めてのスカウトだった。
神に褒められて調子に乗り、フェリスは首を縦に振りまくった。
「はい、是非とも!」
「では、宿に帰還しましょう」
言質を取ったフラスフィンは虚空より65537個の転移魔法陣を作り出すと、その内の1個を使って、フェリスと自身を宿に転移させた。
後に残された65536個の転移魔方陣は、ウラグルーンに降り注ぐ隕石の破片を【裏切り】本体に転移させた。
慣性をそのまま維持しての転移だ。弾丸の如く転移してきた隕石破片群に対して、【裏切り】はスキル【叛逆】を発動させて隕石破片群を反射させた。
しかし、相手が悪かった。
隕石破片群を跳ね返しても、65536個の転移魔方陣を通じて再び【裏切り】に隕石破片群が跳ね返ってくるだけである。
スキル【叛逆】と転移魔方陣を通じて無限ループを引き起こし、隕石破片群は原子崩壊してしまった。何とも情けない隕石である。白蛇神の次男坊よ、もっと本気を出せ。本気を出してウラグルーンを滅ぼしてみろ。
こうしてフラスフィンは今日も世界を救ったのだが、そんなことはフェリスが知るところではなかった。
次話は三人称視点(イリシャ寄り)になります。