50話:全てが滅びた後に遺せるもの
「今から1年後、私はこの世界を破壊し、【攻撃特化型世界】として再創造します。
また、1年ごとに【概念集束剣】を発動する予定です。
【概念集束剣】は3回に渡って発動します。最初は錬金術、次いで、剣。次いで、魔法。使用可能な概念は1年ごとに減っていきます」
セイル先生は目を細めた。
イリシャは顔を引き攣らせていた。
フェリスさんとエミルちゃんは唖然としていた。
僕は、【未来集約】を発動させた。
未来地平検索。全てのルートの結末を簡潔に表示せよ。
検索結果出力完了。
他のルートの結末を見た僕は、フラスフィンさんの意図が何となく分かった。
フラスフィンさんは、どのルートにも存在しないルートを選択したのだ。この世界を破壊し、【攻撃特化型世界】としてやり直すというルートを。
全ては破壊される。剣も魔法も錬金術も破壊される。その上で問われる。
なぜ、剣と魔法と錬金術、ひいては世界と関わらなければいけないのか?
存在を証明するためだ。
何一つ手元に残らないとしても、僕たちは存在を証明し続けなければならない。
「闇竜神候補者、カーンよ。貴方に命令を下します。
勇者と魔王を育成し、闇竜神になりなさい」
「なぜ我輩にそのような命令を下す?」
「貴方以外に出来る者がいないためです。
【テラ・コンダクト】の元ハッカーよ、貴方なら出来るでしょう」
僕は内心、苦い気持ちを抱える羽目になった。
まさか異世界に転生してまで【テラ・コンダクト】の名を聞けるとは思わなかった。
そうだな。
まあ、そうなるよな。
僕は割と、人の生死に頓着が無い。
僕が守りたいと願うものは、逆境に遭いながらも、なおも未来に進もうとする意志だ。
僕はフラスフィンさんの神経に敬意を表し、命令を受諾した。
「承知」
フラスフィンさんはセイル先生とイリシャに視線を向けた。
「セイル・ラザム、イリシャ・フィームよ。
両名ともに、カーンの指揮下に入りなさい。これは風竜神としての命令です」
セイル先生は眉根を寄せた。
「これはもしもの話なのだがな……。
もしも、仮に私がカーンの指揮下に入らなかったら、どうなる?」
「全てが滅びた後、この世界に遺せるものを考えなさい」
「なるほど」
セイル先生は唇の端を歪めた。
それは、新たな主を見つけた喜びから来るものだった。
セイル先生は勢いよく跪き、頭を垂れる。
「――御意。風竜神の命、このセイル・ラザムが確かと承りました」
「りょ……了解です!」
イリシャがぎこちなく返す。
フラスフィンさんは微笑んだ。
「では、フレンド申請をします」
ええ……? ここは神様がフレンド申請してくる世界なの? 僕はカルチャーショックを受けた。
ピコン。
『フラスフィンからフレンド申請されました。承認しますか? イエス/イエス』
イエスの項目しかないんですが。
フラスフィンさんはお茶目だなぁ、ハハハ。
ぽちぽちとイエスを押す。ふと思い立ち、この場にいる全員にフレンド申請を送ってみた。
「カーン殿からもフレンド申請が届いているのだが」
「承認しておくね」
「まあ、いいだろう」
「仕方ないわね!」
MMORPGでよくあるシチュエーションだ――誰かがフレンド申請したら、皆がフレンド申請しまくる。MMORPGで死ぬほど見慣れた光景だった。
こうして僕は、皆とフレンドになった。
早速、メニューのフレンドリストを開いてみた。
▼ フレンドリスト ▼
フェリス・ウェイン:ログイン中@ヴァラド国なら安心だ
エミル・リレイン:ログイン中@トウマ君、どこにいるんだろう?
セイル・ラザム:ログイン中@イリシャが勝手な行動をして困る
イリシャ・フィーム:ログイン中@錬金騎士に転職したい!
フラスフィン:ログイン中@ログアウトまで残り1年
MMORPGで死ぬほど見慣れた光景が広がっていた。
どこまでMMORPG風味にすれば気が済むんだと僕は心の中で突っ込んだ。
僕らとフレンドになったフラスフィンさんは言った。
「フェリスよ。パーティを解散しなさい」
「りょっ、了解いたしました!」
フェリスさん、緊張しすぎて噛んでる。
分かるー。緊張するとこうなるよねー。
パーティが解散され、僕たちは野良になった。
フラスフィンさんは言った。
「カーンよ。パーティを作成しなさい」
ええー!? 僕がパーティ作るのー!?
フッ、しょうがない。惚れた弱みだ。メニュー開いて、えーっと、これかな? パーティ作成。ぽちぽちー。
ピコン。
『パーティ名を決めて下さい』
しまった! パーティの名前なんて考えてなかった!
皆が僕を見つめている! えーと、どうしよう。どんな名前にしようかな。【マグロアタック】、【魚介類バンザイ】、【ヤドカリ名人アルティメット】、【マツヤとノアの箱舟】、【ポテトウィンド】、【あしたのナーガラージャ】、【猫派VS犬派】、【きのこ派VSたけのこ派】、【特攻野郎AAAチーム】、【むせる】、【てきとう】などなど……候補を挙げればキリが無い。
ここは初心に帰るべし。僕は安らかに死にたい。良し! こいつで決まりだ!
ピコン。
『パーティ【安らかなる旅路】を作成しました』
ほいっ。皆をパーティに招待っと。
ピコン。
『イリシャ・フィーム、フェリス・ウェイン、エミル・リレイン、セイル・ラザム、フラスフィンがパーティに参加しました』
よし! 【安らかなる旅路】に5人の仲間が加わったぞ!
さーて、どうしようかな♪ 今後の妄想が捗るぞ♪
「まずは眠りなさい。今日一日で大変な思いをしたはずです。
適切な休憩を取り、明日に備えなさい」
あ、はい。
フラスフィンさんに命じられるまま、僕たちは布団で寝たのだった。
世界破壊まで、残り365日。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:佐藤孝一
LV:1
種族:人工闇竜・成長体
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神、守護の精神、巨乳美女を警戒する、古代兵器級、地雷屋さん
隠し称号:神帝から観察されている
スキル:存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV5、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、異次元収納LV10、鼻伸ばし、地雷操作、ゲーマー魂覚醒LV2、無限加速宇宙、未来集約
存在ストック:リスタルサーク、リスタルサーク、ピノッキオンズ・アビスアース
存在ストック上限:3/30
パーティ:【安らかなる旅路】に所属(NEW!)
パーティメンバー:フェリス、エミル、イリシャ、セイル、フラスフィン
隠し効果付与:神帝の観察
スキル 発想値
『《スキル交換》 50/100』
『《スキル譲渡》 50/100』