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転生したら棺桶でした  作者: 半間浦太
第二章:棺桶の就職
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エミル視点1:トウマとの出会い

エミル視点の話です。


 いつしかエミルは森に迷い込んでいた。


 フェリスやカーンと【精神会話】をする気にはなれなかった。


(あたし、なんでカーン様から逃げちゃったんだろう)


 カーンが他の子と仲良くしている様を見て、エミルは衝動的に逃げ出してしまった。


 幼いエミルには、まだその感情の正体を理解できなかった。


「グルルルル……」


 唸り声を聞いたエミルは、はっと息を呑んだ。


 魔物だ。それも1匹や2匹ではない。多くの魔物に囲まれている。


 闇に目を凝らすと、赤色の魔力を帯びた瞳が爛々と輝いている。敵意篭る無数の瞳を前にして、エミルは後退あとずさった。


(た、戦わなくちゃ)


 けれどもエミルは、自身に何の武器も無いことに気づいた。


 そうだ、一切の装備は温泉に置いてきてしまった。今の自分は武器はおろか、防具も持っていないのだ。


 おのれが立たされた状況を自覚した瞬間、恐怖が湧き出た。剥き出しの殺意に晒され、がくがくと足が震えた。


「グォォォッ!」


 暗闇の中から狼型の魔物が飛び出してきた。「ひっ!」と悲鳴を上げるエミルの頬を、魔狼の爪が掠める。


 恐怖のあまり尻餅を突いたエミルは、頬に掠り傷を負う程度で済んだ。微かに爪で裂かれた皮膚から、血が滲み出す。


 自身の頬から温かいものが溢れ出ている。恐る恐る己の頬に左手を当て、エミルは愕然とした。

 血だ。自分の血が左手の平に薄っすらと付着している。


 この時に至り、ようやくエミルは実感した。己という存在があまりにも無力なのだという事実を。


(あたしに力があれば……)


 力があれば、恐怖に勝てる。殺意に打ち勝ち、己を奮い立たせられる。まだ幼いエミルは、そう思った。


 しかし、無情かな。今のエミルには何の装備も持ち合わせてはいない。殺意に対抗するすべを何も持たないという愚かさを、エミルは身を以て知った。


「グォォッ!」


 女子供とて魔物は容赦などしない。故に、魔物は人に恐れられる。


「ひ――」


 エミルは、魔物と相対する恐怖を心に刻み込んだ。涙と共に、悲鳴の声が漏れる。


「――おい!」


 まだ変声期を迎えていない少年の声が響き渡った。暗闇からエミルに襲い掛かる魔狼の群れが、結晶化して砕け散る。


 何が起きたのか。


 呆然とするエミルの頭上から、降り立つ影があった。


 樹上から地面に着地した少年は、光り輝く剣を振るうと、魔物の群れに宣言した。


「女相手に多数で襲いかかりやがって、卑怯だとは思わねーのか!?」


 突然の闖入者を前にして、魔物の群れが怯んだ。


 エミルは驚愕した。


 少年が手にする光り輝く剣は、カーンが手にする【星剣】と全く同じものだったからだ。


 眼前に降り立った人物の姿を仔細に見つめ、エミルは更に驚愕することとなる。今し方エミルを助けたのは、純粋人間族ピュアヒューマン――何一つ秀でたものを持ち合わせてはいないとされる劣等種族だったのだ。


 【星剣】を手にする黒髪の少年は義憤の言葉を告げる。あたかも、この残酷な世界を光の如く打ち払うかのように。


「よく聞け、魔物ども! オレはトウマ! トジマ・トウマ!

 ――変革の化身だ!」


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