39話:心の地雷を踏むと痛い
「【夜視】、オン!」
イリシャがカッと目を見開いて叫ぶ。
パッシブスキル【夜視】。エルフ族が先天的に持つスキルだ。
この世界の【夜視】は赤外線の波長や生物の体温などを感知して周囲の構造を把握する仕組みとなっている。蛇のピット器官と同じようなものだ。そのため、魔法系スキルではなく、物理系パッシブスキルとして分類される。生物学的に説明できそうなものは基本的に物理系スキルとして扱われると覚えておけば良さそうだ。
現在の時刻は夜。真っ暗な夜闇の中、雪原を歩き回って捜索するのは自殺行為に等しいので、イリシャに周囲を目視して貰うことにした。
【未来集約】による未来検索では、時間がかかりすぎて捜索には不向きだ。夜という環境下では、エルフ族であるイリシャの方が秀でている。
エミルが去っていった方角は、僕の修正者としての能力のお陰で判明している。パーティメンバーの位置とゲージが目視できるという例の能力だ。
まあ、厳密に言ってしまうと、僕個人の能力というより駆動システムが違うだけという扱いではある。フェリスさんたちβ版の住民(いわゆる原住民)はβ版ver1.0のシステムで稼動しており、異世界転生者である僕はβ版ver2.0のシステムで稼動している。バージョンが若干違うだけだが、このポイントが割と重要だったりする。
何にせよ、パーティメンバーの位置とゲージが完璧に把握できるのは原住民には無い強みだ。しかしこれを説明するのは実に苦労した。
『実は我輩にはパーティメンバーの位置とゲージが分かる』
という僕の真実開帳から始まり、セイル先生とイリシャはパーティメンバーの位置ポインタとゲージの実存性について議論する始末だった。この議論は非常に長かったので修正者権限でカットしておいた。学者肌のキャラは唐突に議論が始まるし、話が長いので本題に戻すのに苦労する。学者肌ではないフェリスさんは「おお、そうだったのか!」と驚いて受け入れてくれたので、まあ、この辺は性格の違いから来る話の展開の違いというヤツなのだろう。
うーむ、しかしそれにしても、アレだ。パーティメンバーの位置把握とゲージ把握はいざという時に切る切り札のつもりでいたのだが、まさかこうも早く切り札を切る羽目になるとは。エミルちゃんの命がかかっている状況では出し惜しみしていられる場合ではない……それは分かるが、生後2日目で切り札を切らざるを得ない状況というのは腑に落ちない。生後2日目でこれなのだから、今後どんな展開が僕を待ち受けているのか戦々恐々としているのが実態である。
『見てなさい、カーン! 私の目に見えない“夜”は無いのよ!』
『フェリスよ。一つ確認したいことがある』
イリシャが張り切って先頭を行く中、僕は隣のフェリスさんに問いかけた。
『エミルはなぜ、逃げたのか』
雪原をざくざく歩くフェリスさんは少し思案すると、こう答えた。
『嫉妬かと』
『嫉妬』
聞き慣れない言葉が飛び出して、僕は内心仰天した。
『エミルからしてみれば、親を取られたと思ったのかもしれないな』
親? 僕が?
そんな馬鹿な。まだ出会って2日目だぞ。そこまで僕に入れ込んでいたのか?
フェリスさんは難しげな表情で頭を振った。
『すまない。今の言葉は忘れてくれ。私の憶測に過ぎない情報だ』
ううむ。事情は分からないが、僕がエミルちゃんの心の地雷を踏んでしまったのは間違いないようだ。
幼女が泣く姿は忍びないので早急に保護するとしよう。宿に帰ったらスライムたちの料理が待っているんだ! 今すぐ迎えに行くぞ、エミルよ!
『北西の方角、1.1キロメートル先にエミルがいる』
『北西の方角ね!? 雑魚は引っ込んでなさい、【激烈炎破爆弾】!』
イリシャが爆弾を投げつけて邪魔な魔物をドンドコ爆破する中、僕は思う。
うーむ、これはあれだ。リレイン国からどんどん離れていく道だな。エミルちゃんは家出したい願望でもあったのだろうか。
未来が気になる。
というわけで、デバッグ用スキル【未来集約】、オン。
未来地平、検索。他ルートの未来を6本分表示せよ。
僕の視界に6本のルート内容が表示された。ルートによって若干の誤差はあるようだが、内容はほぼ同じだ。
エミルの行き場所は、北西にある森林地帯だ。この森は魔物だらけなので戦闘必至だろう。また、その100キロメートル先に位置する【スワルフ山】には、遠距離攻撃に特化した大型の魔物【スナイプラント・ビトレイアルリレイティブ】が生息している。
ほほう、なるほど。これがこうなってこうなるのか。なるほどなー。
あ、僕が【未来地平】を検索・閲覧している間はイリシャ視点で話を楽しんで下さい。
イリシャ視点に切り替わります。
追伸:
なろうのルビの仕様が何となく分かってきたので、これまで《》や<>で表記してきた部分は、今後、【】で統一します。
●ステータス
名前:カーン・オケ
本名:佐藤孝一
LV:1
種族:人工闇竜・幼生体
職業:無職
称号:人殺し、忍耐の精神、守護の精神、巨乳美女を警戒する、古代兵器級
隠し称号:神帝から観察されている
スキル:存在同化領域、自動翻訳、情報把握・強、火属性耐性、地属性耐性、味見、素材発見LV2、素材採取LV1、毒耐性、休憩LV1、傲慢LV2、同化存在解放、剣化、甲殻虫の飛翔、晶化斬、潜伏LV1、炎破、受け流しLV4、二刀流、熟練度把握、発想値把握、闘気制御、生物知識・基礎、ゲーマー魂覚醒LV2、無限加速宇宙、未来集約
存在ストック:リスタルサーク、リスタルサーク
存在ストック上限:2/8
パーティ:フェリスのパーティに所属
隠し効果付与:神帝の観察
スキル 発想値
『《スキル交換》 50/100』
『《スキル譲渡》 50/100』