体術、魔法
今日は体術を習ってその後魔法の授業だ。
昨日の筋トレで筋肉痛になっているアイリス。ストレッチをしていたから少しはマシになっているハズだと思うのだが……。
これは早急に体力を付けなければいけませんね。
じゃないと何も抵抗出来ずに誘拐される…。
いえ、そうならならいためにこれから体術を教わるんですけどね。
でもこの状態で一体何が出来るのか。
体を捻るだけで辛いのに。
今日の筋肉痛で自分が全く動けない事に気付き、速く強くなりたいと考えているアイリスに声がかかる。
「おーい、アイリス!こっちおいでー!」
「はい、お父様今行きます!」
気付いた方もいるだろう。アイリスはお父さん呼びからお父様呼びに進化したのだ。
顔合わせの日にアイリスが「お父さん」と呼んでいたのをグレイシア先生が覚えていて、昨日呼び方を変えるように注意されたのだ。
バルトは呼び方が変わったせいで距離を感じるようになったとかで、この前しょんぼりしていた。
そんな事があったが今日は初めての体術訓練だ。
「今日は筋肉痛なのか?動きがぎこちないな。
今日は見学と、馬を見てみるか」
「はい!分かりました」
お父様は流石ですね。言わなくても少し見ただけで筋肉痛を見抜いちゃいました。
あと知らなかったですけど、ここ馬がいたんですね。魔獣とか冒険者がいるファンタジー世界ですし、いないと思ってました。
犬とか猫はいるかな?飼いたいんですけど。
ここの世界。娯楽もあんまりないし癒しが足りない……。
そう、ここの世界にも馬がいるのだ。前世の世界よりも気性が荒く、飼育が大変なため普通の農家達は飼っていないが、商家の者達は優秀な足として使っている。
「まずは私兵団の所にいって訓練を見てみよう。
その後、馬を見て、乗れそうだったら乗ってみようか。なんなら俺と一緒に乗ろう」
「えっと、はい、乗れそうでしたら」
ごめんなさい、お父様の熱意がちょっと気持ち悪いです。
若干引きつつも気持ちを切り替えて……。
辺境伯の私兵団って気になる!皆さんどんなスキルを持っていらっしゃるんでしょう?
やっぱり剣術とか槍術とかかな?魔法使いの方もいるかも!
楽しみです!
これから向かう所の想像をして自然と足が軽くなっていくアイリス。
ちなみにアイリスがこんなにも浮き足立っているのは兵舎に初めて行くからである。
家の敷地内にあるとは言っても、子供の足では少し遠いのだ。わざわざ行こうとは思わない。
暫く歩いていると前に兵舎が見えてきた。
寮はアパートの様になっていて、その隣にドームの様な建物、更に少し離れた場所に馬小屋がある。
と、兵舎近くにいた方がアイリス達に気付いた。
「お疲れ様です!」
ビシッと敬礼をしながら大きな声を張り上げる兵士。
「お疲れ様、前に言っていた通り娘を連れて来た。訓練所に案内を頼む」
「はっ!承知しました!」
「お願い致します」
いつもそうなのか平然と労いの言葉をかけて要件を伝えるバルト。アイリスが「おぉ」と小さく声を出してしまったのに比べ、慣れている気がする。
そうしてやってきた訓練所は熱気が凄い。
さっき遠目から見たドームの様な建物が訓練所だったようだ。
「整列!!」
「「「「はっ!!」」」」
勢いが熱気となって押し寄せる。
私兵団の団長さん、副団長さんと自己紹介をした後に、剣の振り方を少し見せてもらい、
その後、馬小屋にも案内して貰った。
馬を見てからサラッと周囲を見ると、小さいドラゴンがいた。
……ドラゴン?
「お父様!ドラゴンがいる!!」
一拍遅れて驚くアイリス。馬の横に当たり前の様に入れられているから状況を理解するのが少し遅れたようだ。
馬の横に小さなドラゴン。ドラゴンは空想上の生き物だとされていた前世の記憶からすると中々シュールである。
「あれはな、土竜の一種だよ。
土竜を何世代も掛け合わせて生まれた、人が騎乗するための竜なんだ。
アイツはまだまだ子供だからまだ乗れないけどな」
「ほーー」
ポカンと見つめていると、子竜はキョトンとコッチを見つめて小首を傾げた。
「キュイ?」
「んん!!」
可愛すぎる!!
一瞬でノックアウトされて目を奪われるアイリス。
「アイリス?どうかしたのか?」
「なんでもありませんわ!」
「そ、そうか」
娘が土竜の子供を見て悶えているのを見たバルトは微妙な顔をしている。
どうやらアイリスはトカゲや蛇を可愛いと思うタイプらしい。
そんなふうに自称、運命の出会いを果たしたアイリスはいつか土竜に乗りこなせるようになると誓ったのだった。
そしてその後、バルトから体術の訓練がない日も筋トレとストレッチをすることを宿題に出された。
フッ。そんなこと土竜に乗るためでしたら苦になりませんよ!!
と、アイリスはやる気を燃やしていた。
そして魔法の訓練では……
「いいですかアイリス様。
うちに流れる魔力を感じるのです」
「はい」
体の中に流れる魔力を感じる。
意外と難しいが、先生曰く、人によって感じ方は様々なんだそうだ。
暖かい流れに感じる人もいれば、
冷たい川のように感じる人もいるらしい。
…………
体の中心にゆったり漂う様な流れがあるのを感じる。
なるほどこれが魔力ですね。
一度意識すると、初めは微かにしか感じられなかった魔力がだんだん溢れ出すような感覚に変わる。
魔力を感知した事で魔力の流れが変化したのだ。
「アイリス様。流れを掴めたのですね。
では、それを抑え込むイメージで流れをコントロールしてください。
…………アイリス様?」
溢れ始めた魔力の流れはとても暖かくて心地良い。
初めは少しのお湯に触れた様な感覚だったが、今はお風呂に浸ってるような気分だ。
「アイリス様!!」
「っ!はいっ!」
「魔力の、流れを抑え込むイメージで流れをコントロールするんです。
頭から足の先まで、魔力が流れているイメージですね。」
「はい、分かりました!」
『スキル魔力コントロールを習得しました』
「スキルを習得しましたか?」
「はい!」
「それは良かった。
一瞬反応がなかったのでヒヤヒヤしましたよ」
「?」
「ご存知ないですか?魔力を感知してから、コントロールができないと魔力に飲み込まれてしまう事があるんですよ。
勿論、そんな時は私がお助けしますがね」
「そうだったんですか。すみません。なんだかゆったりした落ち着く流れだったので、ぼんやりしてしまって」
「ハハ、構いませんよ。何事もなくて何よりです。
それでは魔力量を増やす為に魔力を全部使い切りましょうか」
「はい、えっと、どうすればいいんですか?」
「そうですね。ではアイリス様は時空魔法を持っていらっしゃることですし、マジックスペースを作ってみましょうか」
「マジックスペース?」
「時空魔法を使える方が扱える非常に便利な魔法ですよ。
自身の魔力を元に作った異空間に物を入れて運ぶ事が出来るんです。異空間は魔力を使えばより大きくすることも出来ますのでかなり便利ですよ。
人によって、どれほどの大きさになるかは変わりますが」
「そうなんですか」
「早速やってみましょうか。
目の前に空洞があるイメージをしてください。
そしてそれは貴方の魔力によって造られたものであるり、沢山の物を入れることが出来ます。
イメージが出来たら唱えて下さいね」
魔法は術者のイメージによって結果が変わる。
故に、イメージというのはとても大切なのだ。
ゆっくり深呼吸しながら目を瞑り、イメージするのはなんでも入れられる空間。
[マジックスペース]
「わっ!?」
唱えた瞬間、何かが体の中からごっそり抜けていく感覚。
アイリスが初めて魔法を使った瞬間だった。
そのままフラフラと倒れそうになったのをマリック先生が支えてくれた。
「どうやら使えたようですね。
才能があっても、上手くイメージ出来なくて魔法を使えない方もいらっしゃいます。
アイリス様は無事に出来たようで何よりです」
「あ、ありがとうございます」
体力はあるのに立てないという謎の現象に戸惑いながらも礼を言う。
「体の中から何かがなくなった気がしませんでしたか?
試しにもう一度、魔力の流れを感じて見てください」
「はい」
さっきはお風呂みたいだと思った魔力が今は全然感じられない。
「えっと、すいません。分からなくなってしまいました」
「いいんですよ、上手く使いきれたと言うことです。
魔力操作は中々難しいですから、出来れば毎日時間を見つけて練習なさって下さいね」
「分かりました」
「では、あとは座学にしましょう」
そうして魔法の訓練は終了した。
初めての魔法は使えた実感があまりないですけど、これからも頑張ろう!
と、アイリスは決心した。