魔法とスキルの存在
そして数週間後、
「あー今日も可愛いなぁ」
「私達の子供ですから当然ですね!」
「本当になぁ、どうなる事かと思ったけど
お前もこの子も無事で本当に良かった!」
今現在、美月を可愛がっているのが今世での両親である。
母はおっとり系の美人。
父はがっしり系の強面イケメン。だが美月と母を見る時はデレッデレの顔になっている。
うん!これは良い家庭に生まれたね!!
惜しげもなく注がれる愛情!
嬉しいな〜私はまだまだ赤ん坊な故に部屋から出して貰えないけど乳母もいるみたいだし、凄い勢いで可愛がられてるので将来も安泰!
はい勝ち組!
と、美月が考えている間に両親はどこかに行ってしまった。
むぅ暇だ。よし、寝よ。
バンッ!!
と、すごい勢いでドアが開いた。
何事ですか?
キョトンとした顔で見上げる美月。見上げた先にはにはいかにも怪しげな格好をした人が立っている。
え、だれ?泣き叫ぶべき?
「ほほう、この赤ん坊が辺境伯の」
言いながら手を伸ばしてくる怪しい人物。
「おぎゃーー!!!!」
「おわっ!?」
ベットの枠に阻まれ、さらに産まれたばかりのよちよち歩きすらできない赤ん坊。逃げられないと判断し泣き叫ぶ美月と、暴れっぷりに驚きつつも簡単に捕まえて抱き抱える不審者。
普段あまり泣かない美月が全力で泣き叫ぶ異常事態だが、すぐに駆けつけて貰えるだろうか…
心配したが泣き始めた直後、聞きつけたのだろう誰かの足音がバタバタと近づいてくる。
バンッ!!!
「何してる!!」
「お、よう辺境伯!この子泣き止ませてくんね?」
「はぁ!?お前なんでここにいんだよ!どっから入った!」
あれ、これは知り合いだった感じか。
でも不法侵入はダメでしょ。
「不審者」から「親の知り合い」に格を上げておくが、美月の考えている通り、不法侵入している時点でアウトである。
…………
怪しい人から父の知り合いに格付けし直された人物は、父に連れられて何処かに連行されて行った。
悪びれている様子は全くなかったが。
「アイリスちゃん怖かったわねー。
でも大丈夫よ〜。あの人はね〜、お父さんの知り合いでとっても凄い人なのよ〜」
とは母の言葉である。
アイリスとはこの前聞き取った美月の新しい名前だ。
赤ちゃんに対しての言葉だからか間延びしてるのは気になるが、赤ちゃん言葉で話されるよりかましだ。とアイリスは思っている。
父が思いっきり赤ちゃん言葉でアイリスと話している事を考えるとかなりマシである。イケメンが台無し。
ちなみにアイリスは大体の言葉は理解している。
転生特典なのか異様に覚えが早いのだ。もちろん、本人の努力もある。
アイリスが回らない舌で必死に「お母さん」と呼んだ時の母の顔は凄まじかった。産まれて数週間なのでハッキリと発音出来るわけがなく、物凄〜く頑張って聞いたら分かるかもしれない程度の呼びかけだったが、それで分かる母は凄い。
親子の絆だよね!
とはアイリスの考えである。
1時間後くらいでその人物は再びやってきた。
母に挨拶しつつ当たり前のように抱っこされた。
「別に友人の家に無断で遊びに来ることぐらい良くね?
なぁ、お前もそー思うよなー?」
そう、さっきの怪しい人である。
抱っこの仕方が意外と上手い、しかしこの人物は何がしたいのか。
「あら、主人はどちらに?」
「ああ、まだ仕事が片付いてないって言って執務室に戻っていきました。
いやぁ〜しかし、レイファさんは今日も可憐でお美しいですね」
「あらあら有難うございます」
レイファは母の名前である。そして怪しい人はさっきのセリフを若干照れながら言ってる。
よし、大泣きしてお父さん呼んでやろうか。
スウッ
っとアイリスが息を吸って泣きだそうとしたタイミングで、ドアが開いた。
タイミングが良く開いたドアに驚いたアイリスが目をやると、そこには家令のウィリアムがニコニコ笑顔で立っていた。
「ウェルト様、本日はようこそいらっしゃいました。旦那様よりウェルト様の面倒を見るよう仰せつかりました故、よろしくお願い致します。」
アイリスはこのセリフを聞いてこう感じた。
つまり、
旦那様から変なことをしないよう見ておけと言われたから変なことしよう等とアホな事を考えるなよ?
と、こういうことだよね。
怪しい人の頬が引きつってるし間違いないだろうなぁ。
っていうかウェルトって言うのかこの人。
娘の視点から見た少しひねくれた感じ方だが、実際にウェルトという名の男は顔色を悪くしているため間違いではないのだろう。
「ハハハ、ソウデスカ、ヨロシクオネガイシマス」
ウィリアムさん流石です!!
アイリスが心の中で拍手喝采をしているなか、母であるレイファも混じって会話は続いていく。
「ウェルトさんは今日はこの子の適性を見て下さりに?」
「アッハイ、ソウデス」
ただちょっかいをかけに来ただけですなんて言えねぇ…
…ウェルトの言葉に目を細めたウィリアムには心の声が聞こえるようだ。
ちなみにアイリスも勘付いている。
「おや、そうでしたか。では魔石をお持ちしますね、フェル」
「はい、只今お持ちします」
フェルとはアイリスの乳母のような侍女のような子である。まだ20代にもなっていないであろう娘だが、良く働く良い子だ。
お前が行くんじゃないのかよ。
という顔をしているウェルトにイイ笑顔で微笑むウィリアム。
と、先程の言葉を聞きのがせない者が此処に、
適性に魔石とは一体なんだろう。いや、予想は出来るけどこれで違ったりしたら悲しいし。
って!ここ!もしかしてもしかしなくても地球じゃない感じですよね!異世界転生きた!
言わずもがな、アイリスである。
アイリスの考えがわかるわけではないのだろうが、母が説明をくれた。
「アイリス、適性って言うのはいわゆる魔法でどんな属性が使えるかに関わってくるのよ?
魔石は、そうねぇ。色々種類があるのだけれど、今回使うのは触れた人の適性と魔力によって輝きが変わってくるものを使うのよ。
アイリスがどんな適性を持ってるか楽しみねぇ」
やっぱりそうだよね!適性とかってそういう事だよね!魔法の適性を調べるんだ!
楽しみだなぁ。早くフェルかえってこないかな。
魔法の存在を知り、一気にテンションを上げたアイリスは、未知の力に触れられる機会を得て、目を輝かせていた。
それほど時間もかけずにフェルは帰ってきた。手に握られているのはくすんだ乳白色の石。
ウェルトからレイファに抱っこを変わってもらいジーッと見つめるが特に感じることはない。しいて言うなら誕生石に似ているだろうか。
ウェルトはアイリスをガン見しながらフェルが持ってきた魔石を握ってブツブツと呟いている。
現代だったら110当番待ったなし。
しかし此処は異世界で呟いているのは呪文である。
なんて言ってるのか必死に聞こうと頑張るアイリスだが、何て言ってるのかさっぱり分からない。
自分の息さえも止めて必死に聞こうとするアイリスだったが努力虚しく、何一つ聞き取れないまま呪文が終わった。
濁った白色だった魔石が無色透明になる。
ウェルトは透明になった魔石をアイリスに持たせようとして、当の本人に強奪されるように奪われた。
赤ん坊と侮ることなかれ、赤ん坊だって興味がある事には全力なのだ。
ウェルト自身は素早く魔石を奪い取って行ったアイリスに驚いていたが、当のアイリスは、
不自然とか思わないでお願いだから!
まぁ確かに焦って無邪気な赤ちゃんらしい演技をするの忘れていた。
だって魔法気になるもの…
ここでキャッキャ笑ながら受け取ってたら自然なんだろうな。今度から気をつけよ。
と、己の欲望重視。
だが、魔石はそんな己を取り巻く環境など関係なく、透明から徐々に色を付け、光り始めた。
皆が固唾を呑んで見守る中、魔石は
赤色、黄色、水色、白色、紫色。と光を変え、最後は元の濁った白色に戻った。
「ほー、5色かなかなかだな」
「あらー!凄いわアイリス!力強い輝きだったわ!!」
「流石旦那様の御息女であらせられる」
「5色…」
上から、ウェルト、レイファ、ウィリアム、フェルのセリフである。
アイリスは周りの反応から凄い方であると感じ取り、嬉しそうに笑っている。
「うふふ、アイリスってばご機嫌ねぇ。
自分でどれだけすごいか分かってるのかしら」
ニコニコ笑顔で微笑むと周りも笑ってくれる。
赤ちゃん素晴らしい。
それにしても魔法の適性かぁ。
赤色は火魔法じゃないかな、水色はそのまま水だと思うし……。白は…聖魔法とか?紫は毒魔法とかそんな感じするけど、どうだろう?黄色もよく分からないし。
「そうだわ、ウェルトさん、この子がなんのスキルを取得しやすいか分かりますか?」
取得しやすいスキルなんてものがあるのか!
スキルとか魔法とか厨二心くすぐられる…。え?女の子も厨二病は発症しますよ?
どうやらアイリスには自分以外の誰かに話しかける癖があるようだ。
そうして目を輝かせるアイリスだが、アイリスの期待は淡く崩れ去る。
「あーすいません、それはちょっと、外だと魔法の適正しか見れなくて、
あっでも神殿に来ていただければスキルや加護関係も見れますよ!」
バツが悪そうに謝罪するフェルトだが、レイファは特に気にしていないようだ。
「あらそうよね、無理言ってごめんなさいね?今度伺いますわ」
というような会話が続いていく。
だが、アイリスにはスキルについて教えて貰えなかった事よりも気になる事があったらしい。
神殿?もしかしてウェルトさん神殿の人なのか?こんな怪しい外観してるのに?
人は見かけによらないなぁ。
そう、アイリスにとって気になったのはここだ。
見かけによらないのはお互い様だろうに。
無垢な顔をしている赤ん坊がそんな失礼な事を考えているなんて誰も思わないだろう。
自分の事を棚に上げすぎである。
バンッ!!!
びくっ!
扉が勢いよく開き、息を切らせた父が顔をだす。
だが驚いた様子なのはアイリスだけで、皆は予想通りという顔だ。
「間に合ったか!?」
「間に合ってないぜ、適性検査はさっき終わった」
「ハァー」
ヘナヘナと座り込む父。余程頑張って仕事を終わらせてきたのだろう。
適性検査を見られなかったためか背中に哀愁が漂っている。
「でも聞いてくださいな、アイリスってば5個も適性があったのよ?」
「ほぉ!5個もか!尚更見たかった……
で、何属性だったんだ?」
慰めようと声をかけたレイファだが、逆効果だったようで、父は更に落ち込んでいる。
だがアイリスはそんな事お構い無しに、次に出てくるであろう言葉に身を乗り出す。
「火に雷に氷に光に時空だな」
火に雷に、氷に光に、時空……。えっ、私凄くない?
「はあ!?アイリス凄いじゃないか!!流石俺の娘だな!
よし、もう少し大きくなったら家庭教師付けようなぁ」
「そうね、教えて下さる存在は大切だもの優秀な方を探しましょう」
「お任せ下さい。私か責任を持って手配させていただきます」
うわ、家庭教師。
いや、習うのは魔法だけど。勉強嫌いな私にとって家庭教師って言葉がもう嫌だ。
でも魔法だしなぁ。もうこれは頑張るしかないよね。
ありとあらゆることを学んで超一流の魔法使いになる!!
そんな決意を燃やすアイリスをウェルトはガン見していた。
え、私なんか変な事やりましたか?