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異世界での活動と奮闘日記  作者: ミツバ
16/19

王都5

王城から出て家に着く。


いやー、それにしても本当に面白かったなぁ。

元々日本人だった私が異世界で龍王と呼ばれる方に謁見して、王城を案内される。

普通に考えたら絶対にありえないことだよね。それこそ頭がおかしくなったと言われてしまうもの。


「アイリス?どうしたボーっとして、疲れたか?」


「いえ、龍王様に謁見するなんて凄い体験をしたなぁと思いまして」


ぼんやりと感慨に耽けっているとバルトから声がかかった。

そのまま素直に思った事を言うアイリスだが、本当にすごい経験をしたと思う。元が日本の学生だから特に。


「そうか、まぁ龍王様は国民にとっては雲の上の存在だからなぁ。

けど、お前はその龍王の娘の側仕えになるかも知れんのだ。そのうちもっと凄い体験をするかもしれんぞ?」


ハッハッハーと、御機嫌に笑っているお父様ですけど私が10歳になった時に旅をする選択をしたら怒りますかね?

今のところ国を出る予定はないですけど……。そもそも私は前世ではインドア派でしたし。


「そうだ、アイリス、体術の訓練をするぞ!」


「えっ」


何それやだ、急すぎる。


「何日もやっていないと体が動き方を忘れてしまうからな!

動きやすい服に着替えたら中庭に来なさい」


「………」


「誘拐されてもいいのか?」


「着替えてきます」


「良い子だ!」


背に腹は抱えられない。ムスッとしながら着替えに向かうアイリス。その足取りはとても遅く、イヤイヤですと全身で表現している。


かるーく何かを食べてから向かうとしましょう。非常に不服ですが。

さっきまで、疲れたのか?とか聞いてきたのにすぐに体術を学ばせようとするんですから。

これも愛の形でしょうか?辛いです。


途中で苦笑いしている使用人がいたが無視である。

着替えて軽食をつまんで中庭に向う。


「いいか、アイリス、神殿で適性を見てもらったからには、今度は適性のある事をやるのが通例だ。

お前は刀術に適性があったから、刀を持って振り回すだけの筋力をつけなければいけない」


それはわかる。適性は大事だろう。才能がないものに時間をかけるより、あるものに時間をかけた方がよっぽど良いと思う。

だがそれとこれとは別です!つまりゴリラになれと。この父親そういってるんですよ!


「返事は?」


「はい!分かってます!」


ですが悲しいかな、心の中でどれだけ嫌がってもアイリスは父の言葉には逆らえない。


こうなったら誘拐されないような立派なゴリラを目指します!


……嘘です。目指さないです。

さりげなく光魔法で強化して振り回そうと思います。


「いい返事だ。

お前はまだ子供だからな、専用の刀は用意出来ないが、木刀を持って型の練習なら出来る。


だから型の練習を……と言いたいところだが、これも出来ない。残念ながら教えられる者がいないからだ。

刀術は東の小国から伝わったものでな。この国で扱えるものは少ないんだ」


「そうなんですか?でも、今までにもこの国に刀術の才能があった人はいるのでは?」


「いや、才能は遺伝するからな。

この国は剣術を使う者が多い、というよりはほとんど剣術だ。

あとは槍術に弓術、斧術、盾術、変わり種として大盾術がある。


貴族で刀術の才能がある者は珍しいんじゃないか?

もちろん、お前のように突発的に才能を持つ者は割といるがな」


刀術の才能があるのは前世の記憶のせいじゃないかな。


確信に近い想像をしながら大人しく説明を聞く。


「そうなんですか。じゃあ私は何をすれば?」


「走り込みと馬術訓練だ。どちらもやっておいて損はない。

これで走術のスキルを取得出来たら尚いい」


「走術」


なんだそのいかにも足が速くなります的なスキル名は!不審者にあっても逃げられそうですね!

取得したいですそのスキル!


ちょっとテンションが上がったアイリスは、そんな事を思ったのを後悔するような目にあう。


「だからなアイリス」


「はい?」


「走れ」


……


皆さん元気ですか?

死にかけのアイリスです。分かっていた事ですがお父様はスパルタでした。

中庭を永遠走りました。ただの中庭と侮ることなかれ。力を誇示したい貴族達の持つ屋敷です。中庭もそこそこの広さなのです。


その中庭を!ずっと!走り続けたんです!でも!スキルは!!得られなかったんです!


見かねたウィリアムさんがお父様を説得して走り込みは終了しました。

ええ、死ぬかと思いました。


心の中で誰かに愚痴を言いつつもへばっているアイリス。思い出しているのは前世での持久走である。

終わりが見えない分、こっちの方が辛かったようだが。


「アイリス、次は馬術の訓練だ」


殺す気でしょうか?


「今みたいに全く体力がなくとも魔獣共は待ってくれないからな」


「そ、れは、ゲホッ、そう、かも、ゴホッ、しれない、です、ゲホッ、けど!!」


「なんだ元気じゃないか」


この!!ぐぅぅう!!

言い返せない!!!

倒れている娘に対してなんてセリフだ!


「ほれ、馬が来たぞ登ってみろ」


一応言っておきますけど!私は!まだ!4歳児です!

馬にだって一人で乗るのはかなり厳しいのに!


そんな事を思いながら泣きそうな目で馬を見ると馬がアイリスをじっと見ていた。


『スキル、親和術を取得しました』


そんな声が頭の中で響くと同時に馬が乗りやすいように屈んでくれる。

感動で泣きそうになりながら馬に跨る、と、馬がジトっとした目でバルトを見ていた。


親和術で心を開いてくれているからでしょうか?良いぞもっと抗議の視線を送ってやってください!


それにしても親和術の取得条件はなんだろう。同情か?同情なのか?

なんかもうだめだ、周りの全てに八つ当たりしたい気分だ。


物凄い勢いでネガティブになっているが、そんなアイリスにも馬は優しかった。


「ブルルッ」


まるで「動くぞー」とでも言う様に、一声鳴いてから立ち上がる。


『スキル、馬術を取得しました』


なんだなんだ、なんでこんなにスキルの取得ラッシュしてるんだ。

いや、親和術を取得したおかげで馬が協力的になって取得したんでしょう。きっとそうなんでしょう。


「馬さんありがとうございます」


乗馬したまま少し周辺を散歩しているとミザリがダッシュで駆け寄ってくる。


「アイリス様!大丈夫ですか!?」


アイリスはぐったりしたまま


「ええ、大丈夫ですよ」


と、微笑む。

ミザリはぐったりしているアイリスを見て「私は旦那様をお止めすることが出来ず!!」

と嘆き始めた。


ですが、仕方ないんですよね。

お父様はスパルタですけど、走術は絶対に走っていれば取得出来そうなスキル名ですし、ケガをしている時や体力がない時に馬に乗らなければいけない事もあるでしょう。

やってる事は合理的なんですよ。


ええ、娘に対して厳しすぎる気はしますけども。


周囲よりも、まだ4歳児である本人の方が父の考えを理解しているという謎の状態だが、アイリスはやらなければ行けない事をきちんとわかっているようだ。


そうして乗馬しながらミザリと話し(と云うより嘆くミザリをアイリスが宥めていただけ)、その日の訓練を終えた。





翌日…………


「無理です無理です無理ですよお父様!」


アイリスは全身を襲う筋肉痛で王城になど行けなさそうだった。


「アイリス、安心しろ。光魔法を使えば治る」


……盲点でした。そう言えば光魔法で治せます。


[オールキュア]


ハッとしてすぐに呪文を唱えるアイリス。

ちなみに、アイリスがイメージしたのは柔らかな光が自身を包み込み、筋肉を修復していく。というもの。


詳細にイメージする理由は、ただ怪我を治すイメージよりも魔力量の消費が抑えられる気がするからである。

気がするだけだが、魔法はイメージが大事なのだから問題ないと思っているアイリスだ。


光魔法は主に光源を出したり、強化魔法、回復魔法、状態異常の回復も出来る。

聖魔法も回復魔法と状態異常回復は使えるが、光魔法と違い結界魔法も使えるし、何より攻撃系統の魔法も使う事が出来る。


そしてアイリスが光魔法のおかげで普通に動けるようになったため、昨日に引き続き今日も王城へ行く事となった。


筋肉痛が治ったアイリスが

「あれ?もしかしてこれからハードな訓練しても翌日休めたり出来ない?」

と光魔法の便利さと、これからの訓練を考えて真っ青になった事は余談である。




昨日とは違い、今日はフレアバード家の馬車で出発する。ちなみにフレアバード家の馬車は王家のものとは違い、白を基調に赤のラインやら家紋やらが描かれていて結構オシャレだ。


「アイリス、今日の朝食はお前の分がいつもより多かったんだが気がついたか?」


「言われてみればいつもより少し多かったかなと思います」


「光魔法で回復をした場合、酷い怪我であればあるほどその直後の食事量が多くなることで知られている。

聖魔法を使うとそうはならないんだがな」


「そう言えばマリック先生がそんな事を言っていたような」


「聖魔法は怪我そのものを治すが、光魔法は怪我を治す力を高める事で回復させる。

というのが学者達の意見だな」


「なるほど、そうなんですね」


確かにそう考えるのが妥当でしょう。朝食が増えていたことなど全く気が付きませんでしたけれど。


父と話しながら王城に入る。と、アイリスが気付いた。


あ、あれはギリへスさんでは?


「お父様、昨日案内をして下さった方が今日もいらっしゃいますよ?」


「そうか、ミリナ様の所にお前を連れて行ってくれるんじゃないか」


「そうなんでしょうか」


近くまで行くとギリへスが声をかけてきた。


「おはようございます。

本日はミリナ様の元へご案内させていただきます」


バルトが話していた通り、今日もギリへスが案内をしてくれるようだ。


「はい、お願いします」


「アイリス、私は少し知り合いと話をしてくる。

帰る時は迎えに行くからな」


「はい、お待ちしておりますわ」


知り合いってどなたですか?


喉にでかかった疑問だが、きっと私の知らない方でしょう。とアイリスは疑問を飲み込む。

事実、授業で何処を何家が治めている。というのは学ぶが、顔やファーストネームは全く知らない。


「では参りましょう。

本日はミリナ様だけでなく、リクド様、べレク様にもお声掛けしてありますのでご了承ください」


王族の2人と側仕え候補。そのメンバーにプラスで自分。

考えて一瞬目眩がするアイリスだが、今世では貴族の令嬢なのだからと、変な声が出そうになるのを抑え、


「ええ、分かりました」


と、さも緊張などしていませんよ?というように頷く。


こうして殿下と第一王女様、そして殿下の側仕えになる方とお茶会をする事となった。

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