王都3
お父様がやってくるまで待ちます。
ですが、いつ頃お話が終わるかなど分かりませんし、せっかく龍王様から許可を頂いたのですから王城を見て回りたいですね。
それになんかココ、視線を感じるといいますか…。
いや、そんな気分になっているだけなんでしょうけれど。
でもほら、二次創作でよくあるでしょう?王様の命令で隠れて主人公を見張り、国にとって無害か有害か見極める人。
だから誰かが私の事を見ているのではないかと……。
あれ、これは隠密を使うべき?
アイリスがハッと閃いたと同時にコンコンと扉を叩く音が響いた。
「どうぞ」
入って来たのは先程の案内人だ。サービスカートと呼ばれるカートの上に、紅茶やお菓子をのせている。
若干身構えていたアイリスはホッとしつつ迎え入れる。
「お茶とお菓子をお持ちしました」
「ありがとうございます。
あの、少し休んだら王城内を見て回りたいのですが…」
「かしこまりました。でしたら私はここに控えております。
御準備が出来次第、お声掛け下さい」
「ありがとうございます」
案内人さんを待たせるのは申し訳ないが、せっかくいれてくれた紅茶を飲まないで行くのは失礼だろうと考え、口をつける。
フワッと香る良い香りに驚きつつ、口にいれて更に驚く。甘い。ストレートティーの筈なのに前世の紅茶よりも甘味を感じる。
「この紅茶はエルフ達が住んでいる大陸から輸入されたものなのです。
国内で出回っている紅茶より甘味が強く、香りが良いのが特徴ですね」
「そうなのですか。このような紅茶は初めて頂きました。とても美味しいですね」
「お気に召して頂けたようで何よりでございます」
アイリスの様子を見てニッコリ笑っている案内人だが、茶葉だけではこのような味を出すことは出来ないだろう。
お茶をいれるのが驚く程上手いのだ。執事の本気を見た気分である。
「お待たせして申し訳ありません。
もう行きましょう」
「左様ですか。では此方へ」
すぐに出発するつもりが思わずゆっくり過ごしてしまったアイリスだが、それも仕方のない事と言えるだろう。
名残惜しい気持ちを抑えつつ最後の一口を飲み干し、席を立った。
その後は案内人に連れられて、大広間、庭園、医務室、兵舎、と色々な場所に行った。
小さい頃に自分の家を探検した事を思い出してかなり楽しかったし、家との違いを比べるのも面白かった。
「次は王族の方々が住んでいらっしゃる宮殿に向かいましょう」
「?
あの、そこは私が立ち入っても良い場所なのでしょうか?」
「はい、問題ありません。
一般の方は立ち入りを御遠慮頂いておりますが、アイリス様は[目]の役割を果たしておられます。
龍王様ご自身が
「天上の方々に見せられない様な疚しい事は何も無いから問題ない」
と仰られたため、御案内させて頂きます」
なるほど、案内出来ないということは神様に対して後ろめたい事がある。と周囲に判断されてしまうのでしょう。
それにしても、極一部しか[目]の事を知らないのにこの人は知っていたんですね。
実はかなり偉い人だったりするのでしょうか。
「分かりました。お願い致します」
こんな機会滅多にないでしょうし、せっかくですので案内していただく事にしました。
宮殿へと入ると、執事や侍女の方を多く見かけるようになった。先程までいた場所には官僚の人が多くいたので、雰囲気の違いがある。
「あちらが使用人の控え室でございます。
何かがあった際にすぐに対応出来るよう、夜でも常に人がおります」
確かに何かあった時、周りがすぐに対応出来なければならないだろう。しかし王族が住む所に常駐するなんて、余程王様から信頼されている者しか許されないのではないだろうか。
「次にあちらが龍王様のお部屋です。その隣には王妃様のお部屋がございます。両部屋共に、常に兵が控えております。
更に奥に行きますと、王太子殿下と王女様のお部屋がそれぞれございます。
また、その更に奥に見える渡り廊下の先には
第二王子と、第二王女の部屋がございます。
お部屋が離れているのは何かがあった時、少しでも王族の方が逃げられるようにですね」
なるほど、確かに王族の血筋が途絶えたら跡目争いで大変な事になる。国が傾く可能性だってあるのだから、合理的な判断だ。
「ギリへス、そこで何をしているのだ?」
説明に相槌を打ちながら聞いていたアイリスに声がかかる。厳密にはアイリスに、と言うよりは案内人に対してだが。
?どちら様でしょうか。
私よりも少し年上に見える、綺麗な銀髪を持ったキリッとした子供がいますね。
「べレク様、いらっしゃったのですか。
殿下でしたら先程、謁見の間付近にいらっしゃいましたよ」
「そうか。
だが、今はそなたに質問している。
宮殿に見知らぬ者を連れて一体何をしているのだ?」
ギリへスと言うのは案内人さんの名前か。
私の事を「見知らぬ者」と呼ぶと言う事は、彼は宮殿に普段から出入りしているのだろう。
「職務を果たしているまでですよ。
この方は許可を得た上でここにいます。御心配なさる様な事は何もございませんよ」
「心配するかしないかは私が判断する事だ。
そこの娘、名は?」
「アイリス・フレアバードと申します」
「フレアバード?バルト辺境伯の娘か。
嘘は申していないだろうな」
「もちろんです。
差しつかえありませんでしたら御名前をお聞きしても?」
「べレク・スノーバードだ。
許可を得てここに居ると言ったな?誰の許可だ、第一王女様か?」
「べレク様、申し訳ございませんがそれは貴方様が詮索なさるべき事ではございません。
どうぞ殿下の元へ」
アイリスが答えようとした途端、ギリへスが遮って拒絶してしまった。
そのギリへスの態度に、べレクは眉を上げて少し考え込んだが、やがて
「……まぁいい。
では私は殿下の元へ向かうとしよう」
と、踵を返して行ってしまった。
「アイリス様、お気を悪くなさいませんよう。
べレク様は将来、殿下のお付となるのです。今も殿下の周囲に気を配る義務があります」
「いえ、問題ありません。
べレク様は御自身の責務を果たそうとなさっただけでしょう」
「ありがとうございます」
しかし、彼の年齢からもう義務を果たそうとするなど、社畜の卵ですね。
きっと彼も将来は立派な社畜になるのでしょう。頑張って貰いたいですね。いや、この場合既に社畜なのでしょうか。
「しかし、何故」
「ギリへス!そこで何をしているの?」
アイリスの言葉に誰かが被せて話しかけてきた。
思いっきり被りましたね。今度は誰でしょう。
「これはこれは第一王女様。
只今、アイリス・フレアバード様に王城内をご案内している所です」
「宮殿内もですか?」
「はい」
なるほど、第一王女様でしたか。
年齢は私と同じくらいではないでしょうか。王族特徴の金髪にグリーンの目、将来は絶世の美女になるだろうと予測されるお人形の様な方です。
「ふーん。
私はミリナ、ミリナ・ドラゴニルよ。ねぇ貴方、名前は?」
「お初にお目にかかります。
アイリス・フレアバードと申します。以後お見知り置きを」
「ええ、よろしくお願い致しますわ」
微笑んだミリナ王女はとても綺麗だった。




