王都2
朝になった。今日は龍王に謁見する日である。
朝から周りも忙しそうだ。
「お嬢様、こちらのドレスにお着替えください。髪もすぐにセット致します。」
「はーい、……ふぁ」
「お嬢様?謁見中にあくびなどなさらないでくださいね?」
「うん」
勿論、アイリスも朝早くに起こされ、着替えを済ませる。
幼児の朝は遅いんだよ。寝る子は育つって言うでしょ?なのに早くに起こされて身支度!
こちとら眠いんじゃ!
なんて事をぼんやりしながら考えていたら、いつの間にか着替え終わっていた。アイリスがキョトンとしていると、結局寝てしまったアイリスを支えながら二人がかりで着替えさせたらしい。
いやー、お手数お掛けしました。もう目が覚めましたので問題ないです。
やり切った顔をしている侍女の方々に心の中で手を合わせつつ、応接室に軽食を貰いに行く。
応接室でご飯を食べる理由は、広間が大き過ぎてお父様と2人で食べると寂しい感じになるからだ。
おまけにそういう決まり事でもあるのか、食べている最中に壁際にズラッと侍女や執事の方々が並んでいるので尚更食べ辛い。
全員が並んでいる訳ではないのだろうが、十人近くが傍に控えていて迫力がある。
ちなみにアイリスは、朝はガッツリ食べる健康な生活をしているが、最近はコルセットのせいである程度食べようとするとヤバいので軽めである。
サンドイッチをパクパク食べながらバルトの話を聞く。
曰く、朝イチで龍王様に謁見する。
今まで習った礼儀作法をしっかり頑張る。
一人にならない。
特に「一人にならない」についてやけに念押しされた。
普通は礼儀作法について念押しするべきでは?と思いつつも、うんうんと頷いておく。
それにしてもアイリスが一人になると思うのだろうか。
誘拐されたら嫌だし絶対一人にならないのに。
そんな事を考えているアイリスだが、ピンときた。
あ、これはフラグなのでは?
……いざとなれば隠密で隠れて逃げよう。
フラグを立ててしまったことに気付き、一瞬固まるが直ぐに逃げ方を考える。
伊達に誘拐の話をされ続けた訳ではないのだ。それなりに自分ならどう逃げるかを考えて過ごしていた。
普通の4歳児が考える事ではないが、アイリスは元学生である。シュミレーションはバッチリだ。
「旦那様、王城から馬車が到着致しました」
「わかった。アイリス、おいで」
「はい!」
外に出ると門の前に豪華な馬車が止まっていた。白を基調に金で装飾が施されている。
だが凄いのはそれだけではない。馬が真っ白で太陽の光を反射して輝いているようだ。オマケに大きい、うちにいる馬より2回りほど大きいのではないだろうか。
「ほぅ、これはこれは龍王様も随分豪奢にしたものだな」
「これが普通ではないのですか?」
「あぁ、アイリスは見るのが初めてだもんな。
アレは王族が乗っていてもおかしくないものだ。貴族が乗るものでは無いな」
なるほど、私達の迎えにかなり豪華なものを使って下さっているのでしょう。
馬車に乗り込み、王城へと向かう。
流石というか、馬車の揺れが全く無い。道が舗装されている事も一因だろうが、王族が使う物は性能がすごい。
これなら光魔法で酔い覚めをする必要もないだろう。
しかしそうなるとやっぱり暇になってしまう。
外も住宅街が広がっているだけだし、面白い物は無さそうだ。
する事もないし、王都に来る途中で聞いた説明を思い出す事にしよう。
家で見た地図とフェルの説明曰く、
王都の北には荒野が、東には広大な森が広がっているようだ。南西には王都から2日程かかりるがダンジョンがあり、ダンジョンの周囲にはダンジョンがもたらす恵みにより栄えている幾つかの街がある。
また、王都には二つの高い防護壁があり。
1つは王都を囲み、外敵からの侵入を阻んでいる。
もう1つは王城を囲み、王族の権威の象徴とも言える王城を守っている。
王都を囲んでいる防護壁には、門が東西に1つずつと、南に1つで合計3個ある。
20年前は北にも門があったようだが、今は無くなって、防護壁の一部になっている。
お父様にお聞きした所、
北の門が無くなった理由は、北に貴族や豪商、他にも裕福な者達専用の住宅街が広がっているからだそう。
門で一応の身分チェックは行われているが、万が一にも不審な者がこの住宅街に入るといけないと言うことで、北の門は無くなったらしい。
ただでさえ誘拐事件が起きるのだから、誘拐が起きやすくなる様な環境は良くない。と言うわけですね。完全に同意です!
北は裕福層のための住宅街。
西は商業エリア、庶民用の雑貨を売っている店から高級店まで沢山の店がある。
南は冒険者ギルドがあり、宿泊施設や工房が多いそう。
東にはこの国トップレベルの学園があり、主に学生向けの店舗が多いようですね、さらに、ここら辺には観光名所も多くあり、観光客目当てのお店もあるとか。
「さぁ、王城に着いたぞ」
色々と考えているといつの間にか着いていた。
「緊張しているんだろうが大丈夫だ。
龍王様はおやさしい方だからな。小さな子供の粗相など、目をつぶって下さるだろう」
どうやら色々と考えていたのを緊張していると勘違いしているらしい。本当は王都の説明を思い出していただけだが…。
「はい」
こくり、と頷きつつ窓から王城を見つめる。
前世にあった様な造りのお城だ。だが前世と違い、観光名所になっている訳もなく、門番が不審な者は居ないかと目を光らせている。
馬車に気付いた門番がアイリス達を見て一礼。
「ようこそ王城へ。
フレアバード家の方々ですね?」
「あぁ、龍王様に謁見に来た」
「お待ちしておりました。先に案内人がおります。
どうぞ御通り下さい」
アイリス達が来ることを周知してあったのだろう。
それにしても流石お城に勤める人だ。素人目に見ても一切の隙がない。
ほー、流石王城。
と一人で感心していると視線に気付いた門番さんがニッコリ微笑んで会釈してくれた。
言っていなかったが、門番さんはかなりのイケメンである。
はいカッコイイ!!
と思いつつ、アイリスもニッコリ笑って会釈する。
元女子学生なのだ、当然のように面食いである。
馬車が動き出します。あぁ、目の保養が……。
「アイリス?」
バルトはこういう事にも目敏い。
「少し緊張しているだけです」
「そうか?」
「そうです」
そんなどうでも良いやり取りを終わらせるべく外を見る。
門から城に向けて整備された道が続き、道に沿って花が咲き乱れている。
兵舎だと思われる建物もあるが、私の家の兵舎とは規模が違う。
さらに遠くに見えるのは庭園だろう。王城は色々と凄い。
意識を遠くから前方に戻すと、前の方に人が立っている。
「案内して下さるのはあの方でしょうか?」
「そうだろうな」
馬車が止まった。やはりこの人が案内人なのだろう。
「バルト辺境伯様にアイリス様、お待ちしておりました。龍王様の元へ御案内します」
恭しく頭を下げた彼の前に降り立ち、此方も礼をする。
「ええ、お願い致しますわ」
「よろしく頼む」
王城は神殿とは違い、かなりきらびやかだった。
フカフカの真紅の絨毯に、魔法石を使った豪奢な照明、壁には龍の姿が彫られている。
周りからおノボリさんに見られないように、横目で周囲を確認して歩いていくと前から護衛を引き連れた6~8歳の男の子が歩いてきた。
「む、あれは殿下ではないか?」
「そのようですね。
殿下。どうかなさいましたか?」
「いや、城を見て歩きたい気分だったのだ。
そちらは?」
「これから龍王様に謁見なさる方々です」
「バルト・フレアバードと申します」
「アイリス・フレアバードと申します」
「ほう?私よりも年下の子供がいるようだが……。
いや、これからお父様に謁見するんだったな、行くといい」
「失礼致します」
どうやら王子様だったようだ。
まだ小学生くらいの歳なのにしっかりしている子供だ。サラサラの金髪に、キリッとした理髪的なグリーンの目を持っていて、将来かなりの美形になるだろうと思われる。
「アイリス、聞いていて分かったと思うが、あの方が龍王様の息子であられるリクド・ドラゴニル様だ」
「はい。大変利発そうな方でした」
「そう通りだ。あの方が将来の龍王になれば、この国も安泰だろう。
まぁ今でも安泰だがな」
確かに、今でも魔獣や魔物の脅威はあるが他国との争いは全くない。
この世界の歴史を見てもかなり平和な時代だろう。
「アイリス、そろそろ着くぞ」
お父様から声が掛かり、気を引き締める。
「着きました。龍王様がお待ちです」
見ると、扉に向かい合っている龍が彫られている大きな両開きの扉がある。あそこで謁見が行われるのだろう。
案内人の方が扉の横に控えていた兵に合図すると扉が開かれる。
奥に龍王様が玉座に座っていて、その周囲には数名、人が控えている。
切れ長の目に流れるような金髪、思わず跪いてしまいそうになるオーラ、たが何よりも特徴的なのは目の瞳孔だろう。縦長で、まるでドラゴンの目だ。
龍王様の前まで歩くとお父様と共に家臣の礼をとる。
「顔をあげよ。楽にするといい」
深みのある、落ち着く声だ。
「はっ」
「バルト伯爵、そなたの娘が[天使の目]を持っていたらしいな」
「はい、その通りでございます」
「レイファとそなたの子ならば才能溢れる者になると思っていたが、まさか加護持ちの[目]だとはな」
「有り難きお言葉、この後も娘共々国のために働く所存です」
「そうか。
アイリスと言ったか、そなたはこの国で生きていく気はあるか?
[目]や[耳]の加護を持っている者は世界中を旅してその役割を果たそうとする者達が多い。そなたはどうしたい?
正直に答えると良い。どんな返答であろうと責めたりはせん」
[目]や[耳]を持つ者の大勢が旅をしている事など知らなかったアイリス。
しかもいきなりこれからの生き方を決めるような決断を迫られるとも思っていなかった。
マジか!
と、心の中で絶叫しつつも、とりあえず、少し時間を貰いたいと考えた。
ゆっくり息を吸い、脳をフル回転させながら喋り始める。
「恐れながら申し上げます。
確かに私は[目]の役割を与えられておりますが、天使様から何かを成して欲しいとは言われておりません。
加えて、私はまだ世間を知りません。
故に、誠に恐縮ですが時間を頂きたく存じます」
ドクドクと心臓が脈打っているのを感じながら、失礼にならないように時間が欲しい有無を伝える。
「なるほど、確かにまだ4歳であったな。己の人生を決める答えをさせるのは性急であったか。
よかろう。10歳になるまでにどうしたいか決めるといい」
「ありがとうございます」
どうやら時間をくれるらしい。この場で答えろって言われたらどうしようかとヒヤヒヤしたが、10歳までならだいぶ時間がある。
「また、そなたが[目]の役割をしている事は極一部しか知らんし、これからも公表はしないつもりだ。
そなたは周囲に[天使の加護]を持っていると言うのだ。良いな?」
「承知致しました」
「では、アイリス、そなたは下がってよい。
外の者に案内させよう。バルト辺境伯と私の話が終わるまで城を見て回ると良い」
「かしこまりました。失礼致します」
バタンっと閉まった扉に背を向け歩き出す。
少し離れた位置に控えていた兵に会釈をして案内をしてくれた人を探す。
「アイリス様、こちらでございます。
疲れていらっしゃるでしょう。部屋に御案内致します」
どうやら部屋の用意をしてくれていたようだ。慣れないプレッシャーで疲れていたので有難い。
「わざわざありがとうございます」
「いえ、これが仕事ですので。
バルト辺境伯様がいらっしゃるまでこちらの部屋をお使いください。
また、何かございましたらこちらのベルを鳴らしてください。すぐに向かいますので」
「はい、分かりました。
ありがとうございます」
「それでは失礼致します」
案内された部屋は外の花が見やすい個室だった。
ベルには恐らく魔法がかけられているのだろう、ベルの音が聞こえるであろう距離には誰もいない。
いや、それにしても疲れた。
どのくらい疲れたかというとスキルの[貴族の気品]を解除してソファにダイブしたいくらいだ。
ちなみにこのスキルは取得した時からほぼ一日中使用している。
スキルの効果は貴族として相応しい言動をするというものである。相応しくないとスキルが判断すると行動がしずらくなるため何がダメかすぐに分かる。便利だがゆっくりしたい時には不便なスキルだ。
さて、これからお父様がくるまで時間を潰さなければならない。




