王都1
王都のお屋敷に着いてアイリスはキョロキョロと周囲を見回す。
ふむふむ。普段住んでいるお屋敷は、ドッシリとした頑丈さ重視の雰囲気ですけれど、ここのお屋敷はオシャレさを重視した感じですね!
あ、普段住んでいる所がオシャレじゃないわけではないですよ?
ただ、ここのお屋敷には兵舎もないですし、頑丈そうな塀もありません。
代わりに綺麗な花壇に、真っ白な塀はあります。
アイリスが王都のお屋敷の評価をしている最中も使用人がキビキビ動いている。
ウィリアムがお屋敷から出てきた。
ウィリアムさんは先に来ていたんですね。知りませんでした。
「お帰りなさいませ。馬車での移動でおつかれでしょう。
アイリス様、此方はミザリと申します。
王都ではフェルに変わってこの者がアイリス様の世話係になります。
部屋に案内させますので、どうぞごゆるりとお休みください」
紹介された方をパッと見てみるとそこには豹?の獣人さんが!
小麦色の髪とケモ耳をもつカワイイ系の女性だ。スカートで見えずらいがよく見たら尻尾もある!
「アイリス様、ミザリと申します。
何かございましたらこの私にお申し付け下さいませ」
「はい!ミザリさん、よろしくお願いします!
ねぇ、お父様!お部屋に行ったあとお屋敷の中を見て回ってもいい?」
「アイリスは元気だなぁ。
でも、明日は龍王様にお会いするのだから今日はゆっくり休みなさい。
休まなくてもいいならミザリに礼儀作法を見てもらいなさい」
「はーい」
「それでは御案内致します」
案内された部屋は可愛かった。小さい子供用に人形がたくさん置いてある部屋だ。
絵本も沢山置かれている。
「ねぇミザリ!この部屋にあるもの全部私が使っていいの!?」
「勿論ですよお嬢様。
ここにある物は全て、奥様が妊娠を発表された時から色々な方に贈られた物です。
お二人目も妊娠なさったとの事で、最近また贈られているのです。使ってあげてください」
「そうなんだぁ」
確認を取ってから駆け寄ったのは絵本が沢山入れられた本棚である。
確かに今見てみると王子様とドラゴンが書いてある本が多い……。
「お嬢様、何か気になるものがありましたらお読みしますよ?」
「ううん、大丈夫!
ねぇ、ほかの事なんだけど……」
「何がございますか?」
「あの、イヤだったらいいんだけど、その、耳とか触っちゃダメ?」
割と勇気を持って聞いてみるアイリス。
………返事が来ない。やっぱりダメなのかな。確かに仕えている主人の子供でも、初めて会った子供に「耳を触らせてくれ」と言われのは気味悪いかもしれない。
「あの、すいません、やっぱり大丈夫です」
しょぼんとしたアイリスが諦め混じりに言う。
(はっ!しまった。子供の上目遣い可愛いとか思ってたら返答するの忘れてた)
「あ、いえ、申し訳ありません。全然触って頂いて構いません。大丈夫です」
「本当ですか!ありがとうございます!」
(目がキラキラしてる可愛い)
ミザリさんが屈んでくれたので恐る恐る触ってみる。
モフモフ
モフモフモフモフ
モフモフモフモフモフモフモフモフ
(あ〜、ちっちゃい子が目をキラキラさせながら撫でてくる〜〜可愛い!!)
「……」
「はっ」
無心で撫でてしまっていた。ミザリさんは何も言わず無言である。良いのか、これは良いのか。
許してくれてるのか、それともイヤイヤなのか!
「終わりですか?」
「アッハイ、ありがとうございました」
葛藤して手の動きが止まったアイリスに、もう満足したのか聞くミザリ。
実際はもう少し触っていたかったが反射的に返事をしてしまう。
「いえ、獣人を見たのは初めてでしたか?」
「王都に来てから初めて見ました!かわいいですね!」
「ありがとうございます。お嬢様の方がお可愛らしいですよ」
「ありがとうございます!」
(褒められてふにゃっと笑うお嬢様可愛い!)
と女子達が仲良くお話ししている中
「それで神殿はなんと?」
「はい、[天使の目]を持っている幼子は神殿で育てるべきだと騒いでいるものが一部おります。
ですがそう言って騒いでいる者達は極小数で、大神官殿は[天使の目]が見るものを制限するのは良くないと発言されています」
「それはそうだろうなぁ。加護持ちを軟禁など許されん。天罰が下るぞ。何より我が子を神殿に預けようなどとは思わん」
「どうなさいますか?」
「そのまま伝えるだけだ。向こうも問題を起こすことはないだろう」
「かしこまりました」
静かに退室したウィリアムはとても優秀だ。問題が起きたとしても速やかに対処するだろう。
ミザリもそうだ。獣人特有の勘の鋭さ、身体能力の高さを活かして動いてくれるだろう。
だが、不安が残る。
理由はわかってる。神殿にいる権力を欲しがっている者達のせいだ。そもそも権力欲しさに神官になるなど言語道断、なのにそれがまかり通ってしまっている。
「はぁ」
憂鬱だ。
娘が加護持ちだったのは良い。
加護持ちは5万人に一人しかいないと言われている程珍しく、神やそれに連なる者から好かれるほど根が優しい。つまり神達に善人であるとお墨付きをもらって居るようなものだ。
それゆえ国に仕えさせようとする者が続出。
この人は裏切らないし、いい子だよ。と神様方が言ってるのだから当然と言えば当然である。
良い事は加護持ちが理不尽に傷付けられれば天罰が下る事だろう。だから加護持ちは神に守られていると言っても過言ではない。
軽いものでは一日不幸の連続。
重いものでは死亡している。
傷つけようなどと思うものはいないだろう。
だが馬鹿は何をしでかすか分からない。
神の[目]や[耳]の役割をしている者は少なからずいるそうだ。だが世界中で10人いるかいないかである。
そんな存在がいるだなんてそもそも私でさえ知らなかった。
さて、そんな存在を秘匿される様な人物が自分の目の前に現れるとする。権力を欲しがっている奴らが何もしないと思うか?
お前達みたいなのがいるから存在が秘匿されているんだと大声で言いたい。
そもそも軟禁し始めたやつが悪い。それで存在が秘匿される。秘匿される程珍しいと気づいたヤツらが軟禁する。という悪循環!!
溜息が止まらない。
……何事も起こらないといいのだが。
現代人はコレをフラグという。




