王都へ
神殿で大騒ぎになった日の翌日、王都へ向かう事になった。
それはそうだ。子供が[天使の目]の役割をしている事が発覚したのだから。
この世界では神様との距離が近いようだし、むしろ神様の存在を信じていない人はいないだろう。
この後の私の対応はどうなるんだろう。加護もあるのだから悪いようにはならないと思うけど…。
王都へ向かう馬車の中で考えていると、不安な様子のアイリスを励まそうとしたのか、バルトが声を掛けてきた。
「王都へはまだまだかかりそうだな。
なんせ普通の馬車で、なんの問題も起きなかったとしても片道3週間だ。
優秀な魔法使いが光魔法で馬に強化魔法をかけ続けても1週間はかかる。
だからアイリスが魔法を掛けてくれて助かったよ。
魔法使いを雇っていたら出発までにも時間がかかる事になってしまうしな!」
「そうかもしれませんね。お役に立てているようで安心致しました」
「うむ。アイリス、王都へ着いたら龍王様へ謁見を行う。
その後は、神殿から使いが来るまで好きにしてて良いぞ。ウィリアムや護衛を連れてなら城下町に行ってもいい。
王都は賑やかだからな、お前が望むなら何日間か時間を取ってもいいぞ?」
なるほど、1番に王様へ謁見するのか。緊張する。
神殿からの使いがいつ頃来るかは分からないけど、王都を好きに観光していいんだったらフェルと来たかったなぁ。
フェルはいつも一緒にいたから落ち着くし。だけど、今回はお母様の所にいるから、残念だけど仕方ない。
「ありがとうございます。王都にもお屋敷があるのですか?」
「勿論だ!中々良いところだぞ?
レイファと2人で決めたんだ。本来なら代々受け継がれるんだが、あまりにも良い所だったので買ってしまった。
だから王都には屋敷が2個ある」
ふふん。と自慢げに話すお父様。
王都は土地が高いだろうし、それだけ絶賛している所を買い取るなんて凄いのでは?
流石辺境伯だ。
「それは凄いですね。お父様とお母様がそれほど気に入っていらっしゃるなら素晴らしいお屋敷なのでしょう」
「ああ、お前も気に入るに違いないぞ!
気楽に、観光に行くくらいの気持ちで居るといい!」
その言葉が言いたかったのだろう。満足そうな顔をしている。
「ありがとうございます。
今から楽しみです。」
バルトの気遣いに気付いたアイリスの心がホッコリする。
そうして会話が一段落すると、護衛から声がかかった。
「失礼、本日の宿までもう少しでございます」
「わかった」
どうやら話が終わるまで待ってくれていたようだ。
「お父様、王都まであとどれほどでしょうか?」
「このペースでいけば後2日ほどじゃないか?」
「そうですか。それまでに光魔法のLvが上がると良いのですが」
「ハハハ!そうだな。そうしたらもう少し早くつくかもしれん」
そう、Lvが上がると魔法の効果も上がるのだ。
今は私が魔法を掛けているから、私のLvが上がればもう少し早くつくかもしれない。
「お父様、謁見のお申し込みはいつなさったのですか?」
「あぁ、時空魔法の使い手に王都の執事宛の手紙と、龍王様宛の手紙2つを送ってもらったんだよ」
「なるほど、そうでしたか」
「あぁ、時空魔法を使えるものは少ない。
それにいたとしても既に何処かに仕えていたりすることが多い。
だから急ぎで手紙を出したい時は運送会社に頼むんだ。運送会社なら大抵の場合、時空魔法使いを囲っているからなぁ」
お父様も運送会社に頼んだろだろうか。
謎が解けたところで時空魔法を極めればかなり便利な事に気が付いた。
つまり、時空魔法使い2人ならメールみたいに手紙を送り会えるのでしょう。うん、便利。
そして何度目かの宿に着いた。
「ようこそいらっしゃいました!バルト辺境伯様!
本日は当店にお泊まりいただけるという事でとびっきりの部屋を御用意させて頂きました!」
「ああ、ありがとう」
「滅相もございません!
おやおや!娘様もようこそいらっしゃいました。
いやはや、御婦人によく似てらっしゃる!」
「ありがとうございます」
「!!流石はバルト辺境伯様の娘様ですね!気品が溢れ出るようです!
私の子供達にも見習わせたいものですね。
なんせ私の娘はーー」
「主人。すまないが、この子は慣れない馬車での移動で疲れているだろうから部屋で休ませてやりたいのだが」
「これはこれは、気が回らず申し訳ありません!
何分、バルト辺境伯様にお会いできて興奮してしまいました。
お恥ずかしい限りです。さぁさぁこちらへどうぞ!」
テンションが高い店員さんだ。他のお店の人達は普通だったのに……。
いや、でも土地を治めてる貴族が来たらこういう反応になるのだろうか?
部屋に入ると、「なるほど。とびっきりの部屋を用意したと言うだけはある」と納得するほど良い部屋だった。
豪華だが派手過ぎず、統一感のある部屋だ。
テンションの高い店長さんはかなりのセンスがあるようだ。ここ何日かで行ったどの宿よりも好感が持てる。
そして翌日……
「バルト辺境伯様!是非またお越しください!
道中お気を付けて!!」
「ああ、ありがとう」
最後までテンション高いな。
馬車の中は結構暇で、する事がない。魔法で治せるため酔いも気にしなくていい。
では何をすべきか?
アイリスは悩んで答えを見つけた。
「お父様、質問がいくつかあるのですが」
そう、今まで気になっていた事を聞く絶好の機会なのだ。
「なんだ?なんでも聞くといい」
「ありがとうございます」
なんでも、と言われて若干テンションが上がるアイリスだが、顔には出さずに質問に入る。
「魔法石ってなんですか?」
「魔法石は鉱山から発掘される魔力を内包した石だな
。似たもので魔石があるが魔石は魔獣や魔物の心臓部から取れるものだ。
しかも魔石は子供達は嫌がる事が多い。
その点、魔法石は嫌がられたりしないな。むしろ手を離そうとしない子が多い。魔石に含まれている魔力を心地良いと感じるからだろうな。
ちなみに、どちらもダンジョンからも取る事が出来るぞ」
「そうなんですか。
じゃあ、召喚魔法について教えてください」
「アイリスには少し早い気もするが……。
まぁいずれ使うのだからいいか。
召喚魔法というのは魔法生物と契約して行う魔法だ。フレアバード家は代々フレアバードと契約している。というより、フレアバード家の者は他の魔法生物と契約することが出来ない。
理由はフレアバード家を興した御先祖様が
[フレアバード家の者はフレアバード以外と契約を結ばない。代わりにフレアバードはフレアバード家がこの契約を守り続ける限り力を貸す]
という約束事を取り付けたからだな」
「フレアバード家はフレアバードと契約するからこの名前なの?」
「ああ、そうだよ。
古くから続く貴族なら殆ど魔法生物と契約をしている。
例えば、スノーバード家、サンダーバード家、リザード家、ブラックタイガー家、フェアリー家とかだな。
血筋による契約をしている貴族は他にもいるぞ」
「皆様、契約している魔法生物の名前が家名なのですか?」
「ああ、魔法生物との契約はこの国特有の魔法だからな。その魔法で力の強い生物と契約している証として龍王様から名を頂くんだ」
「龍王様は召喚魔法を使えるのですか?」
「勿論だ。
王族の方々はドラゴンと契約をしているよ」
「えっ」
「ほら、お伽噺にも良く出ているだろう?
龍の背に乗って悪と戦う王子様」
衝撃である。確かに多いとは思っていたが、まさか本当にドラゴンに乗って戦ったのだろうか。
有り得る!
「スキルにはレベルがないものがあるとマリック先生から教わったのですが、レベルがないものって何があるんですか?」
「アイリスはちゃんと教わった事を覚えてるんだなぁ。
そうだよ。スキルには上達するものとしないものがある。大抵、生まれた時から持っているスキルは上達しないものだ」
「生まれた時からスキルを持っている人がいらっしゃるんですか?」
「あぁ、いるぞ。
例えばさっき教えた召喚魔法だな、これは契約を結んだ魔法生物との信頼関係が全てで、Lvは存在しない。
あと有名なスキルは「予知夢」だな。
これはその時々によって鮮明だったりあやふやだったりするらしいぞ。
俺は持ってないからよく分からんが…」
「予知夢」
名前からして強そうなスキルだ。未来の事が見れれば不幸な出来事を回避したりとか出来そうだし。
それからもお父様にたくさんの質問を浴びせていると…………
王都を囲む城壁が見えてきた。
「お父様!あれが王都ですか?」
「そうだなぁ。相変わらず立派な城壁だ」
お父様の言う通り、遠くからでも見えるような高い城壁。流石、王様の住む街である。
当たりが賑やかになってきた。
少し窓から覗いて見ると人がズラッと並んでいる。
「お父様、あそこに並ぶのですか?」
「いや、俺達は並ばないよ。
大きい門の隣に別の門があるだろう?あそこを通るんだ」
なるほど、貴族用の門があるのでしょう。
アイリスが納得して頷いていると、ザワザワと声が聞こえ始めた。
「おい、あれフレアバード家の家紋じゃないか?」
「うわ、まじだ」
「辺境伯様がいらっしゃるのか!?」
「うそ!見たい!ちょっとどいてよ!!」
若干、混乱し始めているが大丈夫なんだろうか。
お父様は人気者らしい。
「大丈夫だよアイリス、門兵が抑えるだろう」
心を読むようなセリフである。ビックリしつつ見ていると
「顔に書いてある」
納得である。
門を通り、城下町に入る。とても賑やかだか不思議と全く嫌な感じはしない。
窓から除くとなんと、猫耳の少年にエルフの男性、人族の男性とバッチリ目が合った。
鎧を着ていたからおそらく冒険者なのではないだろうか。
わぁ!獣人にエルフだ!!
アイリスは大歓喜である。
ファンタジーの王道種族をまさか自分の目で見れる日が来るなんて!
直ぐに通り過ぎてしまったけど嬉しかった。
「アイリス、何かいいものが見れたのかい?
目がキラキラしているよ」
「はい!王都って凄いですね!!」
「それはそうだ、なんて言ったって龍王様のお膝元なのだから。
明日、龍王様に謁見する。
今日はゆっくり休んで旅の疲れを取るといい」
「はい!」
ついに明日、謁見か、龍王と呼ばれる王に会えるなんて本当に夢のようだ。




